荒井秘書官LGBTQ 差別発言報道で"オフレコ破り"の是非も議論に

LGBTQなど性的マイノリティーや同性婚のあり方について,荒井勝喜総理大臣秘書官(当時)は2023年2月3日夜,総理大臣官邸で記者団の取材に対し「見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」などと差別的発言をした。オフレコ前提の取材だったが同日深夜,毎日新聞が電子版で報じ,報道各社も後追いした。翌4日,岸田文雄首相は荒井秘書官を更迭した。

オフレコとは録音やメモをとらない「オフ・ザ・レコード」の略称で,発言内容も実名で報じないことを前提に行う取材を指す。毎日新聞は報道の経緯について5日朝刊で「同性婚制度の賛否にとどまらず,性的少数者を傷つける差別的な内容であり,岸田政権の中枢で政策立案に関わる首相秘書官がこうした人権意識を持っていることは重大な問題だと判断した」と説明した。一方,読売新聞は7日の社説で「取材される側が口をつぐんでしまえば,情報の入手は困難になり,かえって国民の知る権利を阻害することになりかねない」とオフレコ発言の報道に懸念を表明。SNSでも“オフレコ破り”に賛否両論が飛び交い,世論の関心が高まった。

差別発言への批判を受けて,自民党は性的マイノリティーの理解増進法案の今国会での成立を目指すとしているが,LGBTQの当事者らはより実効性の高い差別禁止法の制定を求める動きを活発化させており,多様性を認め合う社会の実現に向けた議論が一気に加速する可能性もある。今回の報道が“オフレコ破り”の功罪にとどまらず,豊かな市民社会を実現するためにジャーナリズムが果たすべき役割とは何か,問い直す契機となってほしい。

熊谷百合子

※NHKサイトを離れます

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