3万8000人が投資する不動産ファンド「みんなで大家さん」。直近では、1割強にあたる4000人の投資家から解約請求が寄せられている。返金は最長で1年後といい、解約を申し込んだ投資家の不安は高まる一方だ。償還原資の確保に注目が集まる中、渦中の共生バンクは突如として、成田の開発計画を米国の投資会社へ売却する交渉の開始を発表した。

 「病気で働けない息子に残そうと思っていた大切なお金。早く返して欲しい」。都内で本誌の取材に応じたAさん(60代・男性)は、4時間を超えるインタビューの間、憔悴(しょうすい)しきった様子で繰り返した。昨年12月に「シリーズ成田」に投資したのは、30年ほど前の交通事故で長期通院した際の補償金、千数百万円だ。年間7%の好利回りに惹かれ、知人の勧めもあって投資を決めたが、後悔の念にさいなまれているという。

 「みんなで大家さん」は、共生バンク(本社:千代田区)とそのグループ企業が手がける不動産投資商品である。不動産特定共同事業法(不特法)に基づいて組成され、グループの都市綜研インベストファンド(本社:大阪市)が運用している。今春時点で3万8000人が投資しており、その総額は約2000億円。今年6月17日、免許を所管する大阪府、東京都から30日間の業務停止命令が下り、事業者側がこれを不服として行政訴訟に踏み切ったことは、本誌既報 記事1 記事2 記事3 の通りだ。

 「担当者の対応からは全く誠意が感じられない。本当に返す気があるのかも疑わしくなってくる」と語り、会社側への不信感をあらわにするAさん。行政処分からほどなくして、販売元の「みんなで大家さん販売」(本社:千代田区)に解約を申し込んだが、9月初旬の本稿執筆時点でも返金の連絡がないという。「工事の進捗を尋ねると『開発主体はグループ会社で、販売担当の我々に細かい話はわからない』と逃げられる」(同)。

 5900万円、6400万円、8400万円…。本誌が訴訟記録の閲覧により確認した、行政処分直後の元本償還請求の一覧からは、驚くべき高額投資の一端が垣間見える。複数の情報源によると、直近では約4000人の投資家から総額220億円あまりの請求が寄せられている。今のところ、説明会の開催予定もないようだ。

老後資金を狙い撃ち

 「老後問題」を時代劇風に演出したテレビCMや、「第二の年金」をキャッチコピーにしたネット広告は、資産運用に悩む層に「大家さん」の魅力を強く訴求した。同社が2022年2月に実施した顧客アンケートによれば、51歳以上が全体の約8割を占めている(下グラフ参照)。

投資家の年齢構成
投資家の年齢構成
【注】「みんなで大家さん」販売元による2022年2月時点のアンケートに基づく。シリーズ成田18号パンフレットから引用。人数は成田以外の商品も含む
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 なかでも2020年11月発売のシリーズ成田は、前年、金融庁の報告書に端を発した「老後資金2000万円問題」を追い風とするかのように、販売を伸ばしてきた。成田空港近くで進む複合開発「GATEWAY NARITA」の用地を投資対象にしたファンドで、グループ内の別会社に貸し付けた土地の賃料収入を配当原資とし、発売以来、今年3月までの販売総額は約1500億円に上る。販売活動の加速に合わせて広告宣伝費も増加しており、2022年度における支出は47億2000万円に上った。翌2023年度も同等以上を投じたとみられる。

 今回、本誌は複数の投資家に接触し、シリーズ成田に関連する多くの販促資料や契約書面を入手した。直近で2月に発売された成田18号のパンフレットを見ると、全24ページのなかで「安定」「安心」「安全」の言葉が合わせて30回以上も登場する。「元本評価割れなし15年間の実績」「過去1度も想定利回りを下回ることがない」などといった実績も強調。事業者自身が総投資額の2割を負担する「優先劣後システム」の説明と合わせて、いかに問題のない商品であるかをアピールする。これらを好感した投資家の中には、商品が組成されるたび、2〜3カ月ごとに出資額を増やしていった人も多いようだ。

 2013年、「大家さん」を運用する都市綜研インベストファンドが、資産の過大計上で60日間の業務停止命令を受けた際も、約2000人いた投資家の間に解約騒動が巻き起こった。この時の元本はほぼ償還されたもようだが、投資家の数が20倍ほどに膨らんだ現在、万一の際の社会的影響は計り知れない。同社の今年3月時点の現預金は100億円あまりである。

 なお、6月の行政処分から数日後、公式サイトに解約(営業者に対する契約上の地位の譲渡契約)の申込フォームが新設されたが、その場で返金日程が決まるわけではない。「大家さん」側は、今後確保する予算の範囲内で順番に譲渡契約書類を郵送するとしており、月間の予算は最低5億円、全ての解約請求に応じるには6カ月から1年かかる見通しと、7月26日に公表している。電話などで直接問い合わせた複数の投資家の話によると、その原資確保には土地からの賃料収入のほか、グループが保有する不動産の売却や金融機関からの借り入れを想定しているもようだが、説明に具体性はなく不透明さが残る。

 一方で、販売担当者らは成田開発の進捗について強気の姿勢を崩していないようだ。投資家の問い合わせに対し、「土地の造成工事は7割完了していて、来年秋頃から建物工事を開始する予定。2027年春頃には一部施設がオープンする」との公式見解を繰り返している。行政処分を受け、今年7月31日付で投資家宛てに送付した書面(商品概要・重要事項説明書の改定)の中にも、当局に要求された造成図面の訂正や追加のリスク説明に並んで、自らを正当化する文言が並ぶ。

 例えば、行政処分の引き金になった、直近2度にわたる事業計画の見直しについては「計画見直し前の年間の利益の見込み額が394億円であったものが、2023年11月の段階で681億円へ、その後、2024年5月のマスタープランでは744億円と大幅な増加」を見込むと説明。自社で取得した不動産鑑定評価も根拠に挙げ、あくまでも「不特法上の損失発生要因には該当しない」と強調している。