ワーホリで月収65万円超!? いったい何が?

ワーホリで月収65万円超!? いったい何が?
「時給3400円で月50万円を貯金。貯めたお金は地元での美容院の開業資金に」

こう話すのは、ワーキングホリデーでオーストラリアに来ている日本人の若者です。

歴史的な円安が続く中、“出稼ぎ”感覚で来る人も少なくありませんが、なかなか仕事が見つからず、厳しい状況に陥るケースも。

ワーホリが急増しているオーストラリアで、その実態を取材しました。

(シドニー支局長 松田伸子)

ワーホリで月収65万超!?

シドニーで、ビルの解体現場で働く喬太朗さん(26)。

時給は35オーストラリアドル、日本円で3400円あまり(8月27日のレートで計算)です。
週に5日から6日働き、多いときで月に6800オーストラリアドル、日本円で65万円あまりの収入があると言います。

午後5時から深夜までの夜勤シフトもありますが、基本は早朝から午後3時までの日中のシフト。

仕事が終わってから、友人たちとビーチに遊びに行くこともあるそうです。
喬太朗さん
「ワーホリから帰ってきた先輩が稼げると言っていたのでオーストラリアに来ました。
正直もう少し稼げるかと思っていましたが、日本ではこんなには貯められないので来て良かったと思っています。肉体労働で大変ですが、日本にいたときより自分の時間はとれています」
喬太朗さんはいま、ルームメートと6人で一軒家に住んでいます。

バストイレ共用でも、1か月の家賃と光熱費は日本円で1人あたり10万円ほどかかると言います。

ただ、解体現場の仕事のおかげで食費などを切り詰めれば、多いときには月に50万円程度を貯金に回すことができているということです。

去年8月にオーストラリアに来る前まで大分県で美容師として働いていたという喬太朗さん。空いている時間には、仲良くなった友人の髪を切ることもあります。
オーストラリアの建設現場で働くには「ホワイトカード」と呼ばれる資格を取る必要がありますが、講習を1日受けるなどすれば取得できます。

喬太朗さんの将来の夢は地元の大分県別府市で自分の美容室を持つこと。オーストラリアでの貯金はその資金に充てたいと考えています。
喬太朗さん
「やはり言語の壁もあるのでこっちでずっと働くという選択肢はなくて、早く地元に帰って、友達と遊びたいなとも思っています。
ゆくゆくは大好きな地元で美容室を開いて家族を養いながら、地域密着型みたいな感じでゆっくり働きたいです」

なぜオーストラリアに?

SNSなどでは「出稼ぎ」、「稼げる」といった言葉がならび、そういった目的でオーストラリアに渡航する若者は少なくありません。
実際、オーストラリアの最低賃金はことし7月にさらに引き上げられ、時給24.1ドル、日本円で2400円近くと、日本の2倍以上になっています。

さらに歴史的な円安が続き、海外旅行や留学のハードルが上がるなか、高額な時給で働きながら文化や英語を学ぶことができるワーキングホリデーに人気が集まっているのです。
オーストラリア政府が日本人に対して発給したワーキングホリデーのビザは2010年以降、右肩上がりで、コロナ禍で一時期、落ち込みましたが、去年6月までの1年間に1万4000人あまりと過去最多を記録。

さらに、ことし6月までの集計では1万7000人を突破し、2年連続で過去最多を更新するなど、オーストラリアはワーキングホリデーで海外に向かう若者たちの間で人気が急上昇、全体の半数を占めています。

そもそもワーホリって?

「昔からワーホリという言葉はよく聞いたし人気だったとも思うけど、ワーキングホリデーってそもそも稼ぐことが目的なんだっけ?」と思われたかもしれません。

「ワーキングホリデー」とは、国や地域どうしの取り決めに基づく国際交流の制度で、海外で休暇を過ごしながら滞在費や旅行の資金のために働くことができるというものです。

おおむね18歳から30歳までが対象で、日本は現在、オーストラリアやニュージーランド、カナダ、韓国など、30の国と地域と協定を結んでいますが、受け入れの人数や滞在できる期間、就ける仕事などが異なっています。
オーストラリアでは滞在できる期間は原則1年間ですが、現地での仕事に制限はありません。また、農作業など、特定の仕事に一定期間従事すれば、最長3年まで延長することができます。

ことし1月には飲食や医療などの分野を対象に、これまで「半年以上、同じ雇用主のもとで働いてはいけない」としていた規定も撤廃されました。

オーストラリアでも日本同様、人手不足が深刻で、ワーキングホリデーの制度で国内の労働力不足を補っているという側面もあるのです。

履歴書配り歩いても…

一方で、ワーキングホリデーで訪れる日本人が増え、競争が激しくなったことでなかなか仕事が見つからないという若者も少なくありません。

シドニーの焼き鳥レストランでアルバイトをしている遠藤夏輝さん(21)は京都の大学を1年休学し、ことし3月にワーキングホリデーでシドニーに来ました。
何とかアルバイトの仕事は見つけることができたものの、ほかにもおよそ30人の日本人の若者が働いていて、シフトは週に数日、5、6時間ほどしか入れません。

そこで現地のカフェを飛び込みで訪れ、履歴書を配り歩いています。

1日で10か所以上、これまでに50か所以上履歴書を配りましたが、採用にいたったことはありません。
遠藤さん
「厳しいです。いつも入っていくときは緊張します。仕事を探していることを伝えますが、相手の英語が聞き取れないこともあり、苦労します。
履歴書すら受け取ってもらえないこともあり心が折れそうになりますが、何とか仕事を見つけたいです」
遠藤さんは、シドニー中心部からバスと徒歩で20分ほどのところにある一軒家で、20人近くの若者と共同生活をしています。

バストイレ共用の部屋で家賃は月に15万円超。収入のほとんどを家賃の支払いにあてざるを得ず、マヨネーズで味付けしただけのパスタなど、節約レシピで食費を削り、なんとかしのいでいると言います。
遠藤さん
「稼げると聞いたので来たのですが、家賃や食費、交通費などを合わせると結局、プラマイゼロぐらいになってしまいます。日本にいるときよりはフリーな時間が多いので、何か習得して日本に帰りたいとは思っています」

ワーホリ急増 専門家はどう見る?

オーストラリアでワーキングホリデーの実態調査などを行っているメルボルン大学の大石奈々准教授は「“稼げる”職業はごく一部で、最低賃金以下で働いている若者も少なくない一方で、そうした問題を相談することは難しいのが実態だ」と指摘します。
大石 准教授
「医療分野や建設業など、雇用主が病院や大企業である場合には稼げるというケースがありますが、全体で見るとほんの一部という印象です。
飲食業や農業分野で働いていて、最低賃金が支払われていないというケースも少なくありません。それでも、語学力の問題で交渉をあきらめてしまう人たちが多いです。雇用主はそういった方の立場の弱さを利用して働かせているという側面があります」
また、中には仕事が見つからず、家賃などを支払うことができなくなって、数か月で帰国してしまう若者もいるということで、渡航前に英語を勉強するなど、語学力をつけておくこと、そして、現地で相談できる友達作りが大事だと話します。
大石 准教授
「ある程度の英語、現地の言葉を勉強するなど、海外生活を体験するための準備をきちんとするということが非常に大事です。
語学に自信がない方の場合は特に、現地で語学学校に行く事をすすめています。そこで友達やネットワークを作ることで、相談したり情報交換したりすることができ、自分の身を守りやすくなります。
また、SNSだけではなく、公的機関の情報にも目を通しておくことが大切です。到着後に大使館や総領事館に在留届を出すと、滞在中に重要な情報を送ってもらえます。
ワーキングホリデーは海外での経験を積むことができるという意味では良い制度なので、準備をしっかりして活用してほしいと思います」

取材を終えて

今回の取材で20人以上の若者に話を聞きましたが、長時間労働といった日本の働き方に嫌気がさしたり、日本の先行きに希望が持てなかったりする若者も少なくなく、その多くが「オーストラリアの賃金を知ってしまうと、日本で働くのが嫌になる」と話していました。

確かに、オーストラリアの最低賃金は日本の2倍以上で、働き方も残業などはほとんどなく、家族や友人と過ごす時間を大事にしている人が多いです。

一方で、ワーキングホリデーで来ている日本の若者からは「別の人が入ったからクビになった」、「当日になって来なくていいと言われる」などといった声を多く聞きます。

最低賃金が高いために、経営者側は何とかして人件費を削減しようと考えているという側面がありますし、「ワーキングホリデーの若者は数か月から長くても1年でいなくなってしまうので雇いたくない」という経営者の声も多く聞きました。

ワーキングホリデーの人気はしばらく続きそうですが、オーストラリアで日本の若者を取り巻く環境も決して甘いものではないと感じました。
(6月23日 ニュース7で放送)
シドニー支局長
松田 伸子
2008年入局 社会部 国際部を経て現所属
オセアニアを担当しジェンダー問題を中心に取材
ワーホリで月収65万円超!? いったい何が?

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ワーホリで月収65万円超!? いったい何が?

「時給3400円で月50万円を貯金。貯めたお金は地元での美容院の開業資金に」

こう話すのは、ワーキングホリデーでオーストラリアに来ている日本人の若者です。

歴史的な円安が続く中、“出稼ぎ”感覚で来る人も少なくありませんが、なかなか仕事が見つからず、厳しい状況に陥るケースも。

ワーホリが急増しているオーストラリアで、その実態を取材しました。

(シドニー支局長 松田伸子)

ワーホリで月収65万超!?

シドニーで、ビルの解体現場で働く喬太朗さん(26)。

時給は35オーストラリアドル、日本円で3400円あまり(8月27日のレートで計算)です。
ワーホリで月収65万超!?
ワーキングホリデーでオーストラリアに滞在する喬太朗さん
週に5日から6日働き、多いときで月に6800オーストラリアドル、日本円で65万円あまりの収入があると言います。

午後5時から深夜までの夜勤シフトもありますが、基本は早朝から午後3時までの日中のシフト。

仕事が終わってから、友人たちとビーチに遊びに行くこともあるそうです。
喬太朗さん
「ワーホリから帰ってきた先輩が稼げると言っていたのでオーストラリアに来ました。
正直もう少し稼げるかと思っていましたが、日本ではこんなには貯められないので来て良かったと思っています。肉体労働で大変ですが、日本にいたときより自分の時間はとれています」
喬太朗さんはいま、ルームメートと6人で一軒家に住んでいます。

バストイレ共用でも、1か月の家賃と光熱費は日本円で1人あたり10万円ほどかかると言います。

ただ、解体現場の仕事のおかげで食費などを切り詰めれば、多いときには月に50万円程度を貯金に回すことができているということです。

去年8月にオーストラリアに来る前まで大分県で美容師として働いていたという喬太朗さん。空いている時間には、仲良くなった友人の髪を切ることもあります。
オーストラリアの建設現場で働くには「ホワイトカード」と呼ばれる資格を取る必要がありますが、講習を1日受けるなどすれば取得できます。

喬太朗さんの将来の夢は地元の大分県別府市で自分の美容室を持つこと。オーストラリアでの貯金はその資金に充てたいと考えています。
喬太朗さん
「やはり言語の壁もあるのでこっちでずっと働くという選択肢はなくて、早く地元に帰って、友達と遊びたいなとも思っています。
ゆくゆくは大好きな地元で美容室を開いて家族を養いながら、地域密着型みたいな感じでゆっくり働きたいです」

なぜオーストラリアに?

SNSなどでは「出稼ぎ」、「稼げる」といった言葉がならび、そういった目的でオーストラリアに渡航する若者は少なくありません。
実際、オーストラリアの最低賃金はことし7月にさらに引き上げられ、時給24.1ドル、日本円で2400円近くと、日本の2倍以上になっています。

さらに歴史的な円安が続き、海外旅行や留学のハードルが上がるなか、高額な時給で働きながら文化や英語を学ぶことができるワーキングホリデーに人気が集まっているのです。
オーストラリア政府が日本人に対して発給したワーキングホリデーのビザは2010年以降、右肩上がりで、コロナ禍で一時期、落ち込みましたが、去年6月までの1年間に1万4000人あまりと過去最多を記録。

さらに、ことし6月までの集計では1万7000人を突破し、2年連続で過去最多を更新するなど、オーストラリアはワーキングホリデーで海外に向かう若者たちの間で人気が急上昇、全体の半数を占めています。

そもそもワーホリって?

「昔からワーホリという言葉はよく聞いたし人気だったとも思うけど、ワーキングホリデーってそもそも稼ぐことが目的なんだっけ?」と思われたかもしれません。

「ワーキングホリデー」とは、国や地域どうしの取り決めに基づく国際交流の制度で、海外で休暇を過ごしながら滞在費や旅行の資金のために働くことができるというものです。

おおむね18歳から30歳までが対象で、日本は現在、オーストラリアやニュージーランド、カナダ、韓国など、30の国と地域と協定を結んでいますが、受け入れの人数や滞在できる期間、就ける仕事などが異なっています。
オーストラリアでは滞在できる期間は原則1年間ですが、現地での仕事に制限はありません。また、農作業など、特定の仕事に一定期間従事すれば、最長3年まで延長することができます。

ことし1月には飲食や医療などの分野を対象に、これまで「半年以上、同じ雇用主のもとで働いてはいけない」としていた規定も撤廃されました。

オーストラリアでも日本同様、人手不足が深刻で、ワーキングホリデーの制度で国内の労働力不足を補っているという側面もあるのです。

履歴書配り歩いても…

一方で、ワーキングホリデーで訪れる日本人が増え、競争が激しくなったことでなかなか仕事が見つからないという若者も少なくありません。

シドニーの焼き鳥レストランでアルバイトをしている遠藤夏輝さん(21)は京都の大学を1年休学し、ことし3月にワーキングホリデーでシドニーに来ました。
履歴書配り歩いても…
遠藤夏輝さん
何とかアルバイトの仕事は見つけることができたものの、ほかにもおよそ30人の日本人の若者が働いていて、シフトは週に数日、5、6時間ほどしか入れません。

そこで現地のカフェを飛び込みで訪れ、履歴書を配り歩いています。

1日で10か所以上、これまでに50か所以上履歴書を配りましたが、採用にいたったことはありません。
履歴書を渡す遠藤さん
遠藤さん
「厳しいです。いつも入っていくときは緊張します。仕事を探していることを伝えますが、相手の英語が聞き取れないこともあり、苦労します。
履歴書すら受け取ってもらえないこともあり心が折れそうになりますが、何とか仕事を見つけたいです」
遠藤さんは、シドニー中心部からバスと徒歩で20分ほどのところにある一軒家で、20人近くの若者と共同生活をしています。

バストイレ共用の部屋で家賃は月に15万円超。収入のほとんどを家賃の支払いにあてざるを得ず、マヨネーズで味付けしただけのパスタなど、節約レシピで食費を削り、なんとかしのいでいると言います。
遠藤さん
「稼げると聞いたので来たのですが、家賃や食費、交通費などを合わせると結局、プラマイゼロぐらいになってしまいます。日本にいるときよりはフリーな時間が多いので、何か習得して日本に帰りたいとは思っています」

ワーホリ急増 専門家はどう見る?

オーストラリアでワーキングホリデーの実態調査などを行っているメルボルン大学の大石奈々准教授は「“稼げる”職業はごく一部で、最低賃金以下で働いている若者も少なくない一方で、そうした問題を相談することは難しいのが実態だ」と指摘します。
ワーホリ急増 専門家はどう見る?
メルボルン大学 大石奈々 准教授
大石 准教授
「医療分野や建設業など、雇用主が病院や大企業である場合には稼げるというケースがありますが、全体で見るとほんの一部という印象です。
飲食業や農業分野で働いていて、最低賃金が支払われていないというケースも少なくありません。それでも、語学力の問題で交渉をあきらめてしまう人たちが多いです。雇用主はそういった方の立場の弱さを利用して働かせているという側面があります」
また、中には仕事が見つからず、家賃などを支払うことができなくなって、数か月で帰国してしまう若者もいるということで、渡航前に英語を勉強するなど、語学力をつけておくこと、そして、現地で相談できる友達作りが大事だと話します。
大石 准教授
「ある程度の英語、現地の言葉を勉強するなど、海外生活を体験するための準備をきちんとするということが非常に大事です。
語学に自信がない方の場合は特に、現地で語学学校に行く事をすすめています。そこで友達やネットワークを作ることで、相談したり情報交換したりすることができ、自分の身を守りやすくなります。
また、SNSだけではなく、公的機関の情報にも目を通しておくことが大切です。到着後に大使館や総領事館に在留届を出すと、滞在中に重要な情報を送ってもらえます。
ワーキングホリデーは海外での経験を積むことができるという意味では良い制度なので、準備をしっかりして活用してほしいと思います」

取材を終えて

今回の取材で20人以上の若者に話を聞きましたが、長時間労働といった日本の働き方に嫌気がさしたり、日本の先行きに希望が持てなかったりする若者も少なくなく、その多くが「オーストラリアの賃金を知ってしまうと、日本で働くのが嫌になる」と話していました。

確かに、オーストラリアの最低賃金は日本の2倍以上で、働き方も残業などはほとんどなく、家族や友人と過ごす時間を大事にしている人が多いです。

一方で、ワーキングホリデーで来ている日本の若者からは「別の人が入ったからクビになった」、「当日になって来なくていいと言われる」などといった声を多く聞きます。

最低賃金が高いために、経営者側は何とかして人件費を削減しようと考えているという側面がありますし、「ワーキングホリデーの若者は数か月から長くても1年でいなくなってしまうので雇いたくない」という経営者の声も多く聞きました。

ワーキングホリデーの人気はしばらく続きそうですが、オーストラリアで日本の若者を取り巻く環境も決して甘いものではないと感じました。
(6月23日 ニュース7で放送)
シドニー支局長
松田 伸子
2008年入局 社会部 国際部を経て現所属
オセアニアを担当しジェンダー問題を中心に取材

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