お騒がせ議員の身の処し方を考える 職員を殴打の千葉・長生村議がようやく辞職 騒動でイメージ悪化
2023年7月1日 12時00分
房総半島の外房にある千葉県長生 村。過去には「ふるさと納税の寄付額が全国の村で1位」「幸福の科学大の計画地」と報じられて世の関心を引いたが、最近はあらぬ事態で耳目を集めている。渦中にいるのが村議長だった男性。傷害罪で罰金刑を受けても、自己弁護を重ねた。逮捕から1カ月半後の30日には態度を一変させ、議員辞職したが、後味の悪さも残る。村の今を直接確かめつつ、困った地方議員の処し方を考えた。(西田直晃、山田祐一郎)
◆かつて、ふるさと納税日本一
東は九十九里浜に面す長生村。千葉県唯一の村だ。「こちら特報部」は30日、現地に向かった。
JR東京駅から在来線に乗ると、役場の最寄り駅の八積 駅まで1時間半程度。人口は1万3600人と小所帯だ。駅周辺や中心部でも人通りはまばら。点在する住宅地を除けば村域の多くを田畑が占めるようだ。
名物は村名をあしらった「長生 トマト」。農産物直売所を訪ねると、男性(78)が「何があるかって言ったらトマトだよな。よそからも買いに来る」と教えてくれた。この特産品やブランド米などを返礼品として、ふるさと納税で10億円超の寄付金を集めた年もある。
この穏やかな村が最近、世間を騒がせた。中心人物は9期目のベテラン、村議長を務めてきた東間永次 氏(77)だ。公用車を運転していた村職員の女性(27)を殴ったり、シートベルトで首を絞めたりして負傷させたとして5月16日に逮捕され、傷害罪で罰金20万円の略式命令を受けた。
◆親分肌、酒に酔った末…
この東間氏、いったいどんな人物なのか。
村民の1人で、建築業の久我文夫さん(74)は「よく知っている。親分肌で子分の面倒見はいい男。でも、昔のやり方だ。短気でもある」と語る。
4月の事件当時、東間氏は酒に酔っていた。後日、被害女性に1万円の商品券を議長室で渡したことも判明。議会の2度の辞職勧告にも応じず、報道陣に「検察に酒をやめろと言われたが、議員を辞めろとは言われていない」と不可解な釈明を続けた。事件当時の音声データが入っていたUSBを破壊した事実もある。
30日は東間氏の議長辞職、議員辞職勧告の採決が村議会で予定されていた。開会は午前10時から。報道陣を含む傍聴者が定員の32人をゆうに上回るほど訪れ、十数人が役場1階のロビーでテレビ中継を見守った。暑さ対策で村職員が慌てて扇風機を運んだ。
当の東間氏は体調不良を理由に議場に姿を現さず、報道各社に「私自身の至らないところによりまして、たくさんの方々に大変ご迷惑をおかけしまして深くおわび申し上げます」とコメントを出すにとどまった。
◆役場に苦情殺到
村役場はこの間、右往左往を強いられた。村によると、東間氏の逮捕後に計500件の苦情が殺到した。1日100件に達した時もあり、ある職員は「日常業務に著しく支障をきたした」と嘆く。「ふるさと納税の寄付を考え直す」といった内容もあったという。
議会の傍聴に来ていた前出の久我さんは「普通の感覚なら逮捕時点で議員を辞めるべきだった。村のイメージダウンは大きい。情けない」。タクシー運転手の吉本雅史さん(27)は「この仕事をしていると、シートベルトで首を絞められるなんて考えたくもない。長生村は道路がきれいだし、財政的に安定し、移住者もいる村。変な事件を起こしてほしくなかった」と話す。
議会を欠席し、居直りを決め込んだとみられた東間氏だが、午前中に3度目の議員辞職勧告が可決された後に事態は急変した。
◆リコールの動きを察知し?
東間氏本人から議会事務局に「議員を辞職したい」と電話があった。事務局職員が自宅を訪ね、辞職の意向を書面でも確認。午後に全会一致で許可された。
背景には、東間氏の姿勢に業を煮やした村議らのリコール(解職請求)に向けた動きがあった。議会関係者は「(東間氏の)耳にも入っていた。それで観念したんだろう」と推し量る。
結果的に自身で幕引きした形だが、逮捕から実に1カ月半たった。リコールを巡る動きの中心人物の1人、門口昭村議は「達成感でなく、脱力感が大きい」とあきれ果てた様子だった。
◆過去にもいた問題議員
耳を疑うような問題議員は過去にも存在した。
2021年7月の都議選中に無免許運転で人身事故を起こしたのに、公表せず再選された木下富美子元都議。7回にわたって無免許運転したとして道路交通法違反の罪で在宅起訴された。都議会から2度の辞職勧告決議を受けたが、辞めたのは21年11月。長期間、議会を欠席しても議員報酬や期末手当が支払われ続け、辞職後にNPO法人に寄付した。木下氏は22年2月に懲役10月、執行猶予3年の判決を受けた。
衆院議員だった丸山穂高氏は19年5月、北方領土のビザなし交流で訪れた国後島で、酒に酔った状態で「戦争で島を取り返すのは賛成ですか」などと元島民に発言。議員を辞めなかった一方、同年12月の期末手当支給に際し、手当を持って海外のカジノを訪れたとSNSで報告した。
大きな問題を起こしてもすぐ辞めないと公金から報酬などが支給されることになる。かたや地元の評判を落とすことになる。困った議員はどう対処すべきか。
◆リコールはハードル高く
地方議員は「退場」へ導く手法が規定されている。
その一つは、地方自治法が定めるリコール。有権者の3分の1以上の署名を集めると住民投票が実施され、過半数の賛成で解職できる。長生村の場合、今年3月時点の有権者数は1万2000人余。4000人超の署名が必要になる計算だ。
全国市議会議長会の元法制参事として、地方議員向けのセミナーを開催している明治大公共政策大学院の広瀬和彦講師は「選挙で選んだ議員を辞めさせる手段は有権者も持つ。だが、必要数の署名を集めるのは現実的には難しい」と語る。
リコールはコストもかかる。住民投票には公費が投入されるからだ。解職させても、開き直りが改められないと後味の悪さが残る。
地方自治法は懲罰決議として除名も規定する。議会の可決後に失職となる。
ただ広瀬氏は「(除名処分は)議会での活動が対象。今回の長生村のケースのような議会外での活動は対象外だろう」とみる。
◆周囲が納得する選択を
過ちを犯した議員は本来、周囲が納得する選択を自ら下し、地域の代表者として規範を示してほしいところだ。長生村の東間氏も逮捕から1カ月半後、自ら身を引いた。とはいえ、元千葉県我孫子市長で中央学院大の福嶋浩彦教授(地方自治)は「一連の騒動で村の印象が悪化するなど、ダメージは大きい」と述べ、対応の遅れを指摘する。
東間氏は支援者の声を理由に辞職を拒んでいた。福嶋氏は「議員の場合、大半の有権者が反発しても一部の固い支持があれば当選する可能性がある。議員を9期務め、『自分が辞めたくなければ辞めなくてもいい』との思い違いがあったのでは」と推測する。
その上で、議員の身の処し方について訴える。
「自治体の意思決定の中で議員は権力を持つ。権力は危険物でもあると自覚しなければいけない。権力を住民の意思に基づいて適切に使っているかを常に自省する必要がある」
◆デスクメモ
大問題が露呈しても反省の色が見えない政治家は少なくない。たとえばマイナンバー絡み。岸田さんも河野さんも推進の構えを変えておらず、職にとどまり続けている。悪い手本を見せると、まねる人が出る。開き直る人も。遅きに失しても態度を改めるべきだ。文中の彼のように。(榊)
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