NHKは、ラジオ国際放送の中国人スタッフの問題発言をめぐり調査報告書をまとめ、国際放送担当の理事が引責辞任するなど処分を発表した。
放送中に沖縄県の尖閣諸島を「中国の領土」などと暴言を吐いた問題である。稲葉延雄会長は記者会見で「放送乗っ取りともいえる。極めて深刻な事態だ」と謝罪した。
それにしては自身を含め処分や対応は甘くないか。動機など未解明のまま幕引きは困る。
8月19日放送の中国語ニュースで、中国籍の男性スタッフが靖国神社の落書きについて報じた後、約20秒間、原稿にない発言をした。「南京大虐殺を忘れるな。慰安婦を忘れるな」など反日的発言もあった。
男性スタッフは48歳で、NHKの関係団体が委託契約していた。看過できないのは調査報告書が指摘するように「事前に兆候」がありながら対処できなかったことだ。直前に放送原稿をめぐり不満を訴え怒鳴るトラブルを起こしていた。
中国当局の反応への不安も漏らしていたという。今回の事案は真相究明が必要だが、専制主義国の国民をめぐっては当該政府からの圧力や犯罪の使嗾(しそう)、強要も警戒すべきだ。
発生時の危機管理もなっていない。問題発言の際、マイクの音量を下げるなどのシステムがあるが対応できなかった。放送の訂正や視聴者・国民への説明も即座にできず「十全でなかった」とした。これでは公共放送の名に値しない。
過去3カ月の放送で男性による原稿にない発言はなかったというが、それ以前は記録がなく不明だ。他のスタッフや他言語番組の検証を進めるというが、徹底すべきだ。
日本の正しい情報を発信し、国益を守る国際放送の役割は大きい。稲葉会長は「危機意識が高まってしかるべきだったが、ラジオ国際放送の現場では緊張感が欠けていた」と述べた。自身の報酬の半分を1カ月、自主返納するが、担当理事に詰め腹を切らせ済む話ではない。関連団体を含めた組織の肥大化や組織統治不全はNHK全体が問われてきたことである。
NHKは男性スタッフに対し信用毀損(きそん)などで賠償を求める訴訟を起こした。解明に向け「乗っ取り」への刑事告訴も欠かせない。