NHKで放送中の連続テレビ小説「虎に翼」は9月末のクライマックスに向け、物語が佳境を迎えている。性的マイノリティーを真正面から取り上げたことでも話題になったこのドラマには、「ジェンダー・セクシュアリティー考証」の専門家がいた。考証を務め、朝ドラを陰で支えた前川直哉・福島大准教授に話を聞いた。
朝ドラ110作目で初めて?
――主人公・佐田寅子(ともこ)の大学の同級生で弁護士の轟(とどろき)太一は男性同性愛者と、朝ドラではっきり描かれていました。情に厚い轟について、SNSでは「#俺たちの轟」というハッシュタグが生まれています。
ここまでしっかりと性的マイノリティーとその境遇を描いたのは、朝ドラ110作目にして初めてではないでしょうか。性的マイノリティーは人口の数%から1割と言われますが、フィクションや現実世界で長らく「いないこと」にされてきました。視聴者が多いドラマで主要人物として取り上げられたのは画期的。轟が、戯画化されたステレオタイプではなく、多くの人に愛されたのも良かったと思います。
――前川さんは作品づくりにどう関わりましたか。
轟が同性愛者だというのは、早くから脚本家の吉田恵里香さんが決めていたようで、放送のずいぶん前にNHK側から考証の依頼がありました。私は普段、ジェンダーとセクシュアリティーについて研究していて、特に大正や昭和の男性同性愛者の歴史を研究してきました。ドラマの時代と重なることから、声がかかったという経緯です。
脚本を読んでセリフや設定が当時の状況として自然かどうかや、性的マイノリティーの当事者が傷つく表現や差別を助長する表現になっていないかを確認しました。事前に制作陣と打ち合わせたり、当時の男性同性愛者たちが愛読した雑誌の読者投稿欄などを吉田さんに見てもらったりして、目線合わせをしました。
「いないことにされていた」性的マイノリティーが、「虎に翼」が主要人物として取りあげたことを、前川准教授は「画期的」と話します。具体的な場面を挙げながら、どう描かれ、演じられてきたかを語ります。
――具体的に指摘した場面は。
ジェンダーや女性差別、同性…