<社説>クルド人ヘイト 差別は断じて許さない
2024年9月14日 07時55分
埼玉県川口市などに暮らすクルド人らへのヘイトスピーチが深刻化し、刑事事件も発生している。差別扇動は犯罪であり、許されてはならない。政府はヘイトスピーチを放置せず、差別を許さない毅然(きぜん)とした態度を示すべきだ。自治体任せにしてはならない。
クルド人は中東のトルコ、イラク、シリア、イランなどに住む少数民族だ。埼玉県南部には1990年代ごろから暮らし始め、現在は2千人以上が滞在している。
永住者や留学、特定活動などの在留資格を持つ人が多いが、難民申請中で在留資格を持たず、一時的に収容を解かれている仮放免者も数百人いるとみられている。
仮放免者は就労を禁じられるが人手不足の解体業などでひそかに働いている人は少なくない。
クルド人へのヘイトスピーチが表面化したのは昨年春。3回目以降の難民申請者の強制送還を可能とする入管難民法改正案が国会審議されていた時期と重なる。
昨年7月にクルド人男女間のトラブルから傷害事件が起き、病院前に親族らが集まった騒ぎや、同11月に一部のクルド人関係者をトルコ政府が反政府武装組織「クルド労働者党(PKK)」の支援者と発表したことが拍車をかけた。
仮放免者の就労を可能とする制度の検討を政府に要望していた川口市の奥ノ木信夫市長に対し、今年6月にX(旧ツイッター)上で殺害予告があり、警察は脅迫容疑で捜査している。今年8月にはクルド人を集団殺害するとの文言を支援団体に送った東京都の男が脅迫容疑で書類送検された。
ネット上には中傷とデマがあふれ、地域外の日本人団体が押しかけて排除を訴えるデモを展開。クルド人への脅迫電話や車への落書きなどの被害も生じている。
ごみ捨てなどで地域住民とトラブルがあったり、一部のクルド住民が出身国から「テロ組織」支援者(当事者は否定)と名指しされたとしても、特定の属性を根拠にした差別扇動は許されない。
日本でのクルド人の難民認定は欧米に比べて極端に少ない。迫害はないと言い切る親日国トルコへの外交的配慮も一因だろう。
クルド人団体は夜間の警戒活動や、能登半島地震の救援など、地域社会に溶け込む努力を続けている。政府はクルド人への日本語教育支援など、外国人との共生のための施策にも力を注ぐべきだ。
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