公共図書館における非正規職員問題に対する再考
反論したい文
はてなダイアリー(匿名日記)
図書館司書の非正規問題(9/14追記) https://anond.hatelabo.jp/20240913113333
公共図書館における非正規職員あるいは、指定管理の図書館で雇用される非正規スタッフの問題は、日本全国の図書館で広く議論されている。しかし、非正規職員(非正規スタッフ)の役割や専門性について、誤解に基づく批判も多く見受けられる。本稿では、そのような見解に対して論理的・倫理的・合理的に反論する。(理想論は含む)
図書館の専門性とその役割
公共図書館には、市区町村立図書館と都道府県立図書館があり、それぞれ異なる役割と専門性を持っている。市区町村立図書館は、地域住民の日常的な利用を重視し、レファレンス業務や貸出、返却、イベント企画など、地域密着型のサービスを提供する。一方、都道府県立図書館は、地域資料の保存や提供、研究支援、県内の図書館のサポートなど、より広範な職務を担う。これらの業務は単なる事務作業ではなく、専門的な知識とスキルを必要とする。
「誰でもできる仕事」とする主張は、図書館業務の本質を見誤っている。図書館司書は、利用者が必要とする正確な情報を迅速に提供し、多様なニーズに応えるための高度な専門性を求められている。特に、地域資料の収集や保存、郷土史の調査などは、AIやロボットで簡単に代替できるものではなく、人間の知識、経験、地域住民との人脈、顔見知りであることで信頼感がうまれるということが不可欠である。
非正規職員の専門性とその重要性
非正規職員(非正規スタッフ)が「無能」とされることは、全くの誤解だ。多くの非正規職員(非正規スタッフ)が、限られた人員と資源の中で重要な役割を果たしており、その専門性や経験は図書館運営に不可欠である。例えば、地域密着型の市区町村立図書館では、非正規職員あるいは、非正規スタッフが利用者と直接関わり、レファレンスサービスや資料の選定、イベントの企画運営など、多岐にわたる業務を担当している。非正規職員(非正規スタッフ)の貢献は、図書館運営にとって極めて重要であり、その専門性を軽視することは、図書館サービス全体の質を低下させるリスクがある。
また、一部地域の非正規職員(非正規スタッフ)は地域における、住民による地域振興のボランティア活動にも積極的に参加し、地域住民とのつながりを強化し、郷土資料の収集にも貢献している。例えば、東大寺のお水取りに関わり、お水取りの木をお供えする地域では、図書館が本庁と地域ボランティアの間を取り持っており、行政のサービスとして、地域の文化を守り伝える活動は、単なる事務処理以上の価値を持っている。
図書館司書資格と専門性の価値
図書館司書資格は、比較的取得が容易かもしれないが、それだけで「専門性が低い」と結論づけるのは短絡的だ。実務において求められるスキルは、資格取得後、働きながら積み上げられるものであり、単なる資格の有無だけで専門性を評価するのは不適切だ。特に、レファレンス業務においては、定型化された質問に応えるだけでなく、利用者の個別ニーズに対応するための高度な探索スキルが求められやり。非正規職員(非正規スタッフ)こそ窓口に立つことが多く、こうしたスキルを持ち、現場で活躍している人々が多数存在する。
指定管理者制度と効率化のリスク
「無能な職員(スタッフ)を切り捨てるべきだ」という主張は、図書館が公共サービスを提供する機関であることを理解していないものである。図書館は、営利や職員の競争を追求する場ではなく、地域社会の知識基盤を支える重要な公共機関だ。職員を単に「無能」と断じて切り捨てるのではなく、適切な教育と研修を通じて専門性を向上させ、組織全体の活性化を図ることが必要だ。
また、指定管理者制度の導入やAI技術の利用による効率化を進めるべきとの意見もあるが、これには慎重な検討が必要だ。効率性を追求するあまり、図書館の公共性やサービスの質が低下するリスクがあるからだ。もちろん、素晴らしい指定管理者が運営する公共図書館をたくさん知るので、一概に民間がよい、行政の直営がよいとは言えない。問題は、民間が運営する場合、指定管理の業者が変わると図書館のサービスが引き継がれないことであり、行政が「指定管理者」に対する値段を下げることで価格競争をさせ、運営先に利益をもたらさず、それにより、「低賃金化」が進み、人材が集まらない可能性があることだ。それは本筋とは関係がないが、書き手はそこまで理解しているのだろうか。
また、地域に密着したサービスを提供する市区町村立立図書館では、AIやロボットだけでは対応できない、利用者との直接的なコミュニケーションが不可欠である。
正規職員と非正規職員(非正規スタッフ)の雇用制度の見直し
非正規職員(あるいは、非正規指定管理者のスタッフ)が正規職員(正社員)になれない理由は、単に能力不足ではなく、正規ポストの不足や図書館業界や指定管理者を運営する会社全体の雇用制度の問題に起因している。
非正規職員(非正規スタッフ)がキャリアを積み、正規職員(正社員)に転換する機会を増やすための制度改革が求められている。これは、組織全体のモチベーション向上にもつながり、図書館サービスの質を高める重要な施策だ。しかし、日本全体で、図書館だけでなく、民間企業も、非正規で雇われると、3年で首になるのが法律として決められている。本来は5年を目処に正社員にするという法律だが、3年で「契約切れ」を理由に「非正規スタッフ」を切る。それは、公務員にもある。そもそも、公務員は「任期付任用職員」にすることで、3年以上の任用はない。そのため、これは働き手が「試験を受けて、正規職員になれなかった」という問題や不景気で「新卒採用見送り」で、一度「非正規公務員、あるいは、非正規スタッフ」になると、ある一定の基準に達しても「正社員にしない」し、「正規職員の試験を受ける年齢ではない」、「正規職員にする制度がない」という社会構造の問題で、それを個人の能力と結びつけるのはおかしい。
『非正規雇用の背景と現実』
非正規の図書館司書が増加している背景には、日本全体で進行するコスト削減の波がある。公共図書館の運営コストを抑えるために、多くの自治体では非正規職員を中心とした運営体制を採用している。
この選択は、司書の専門性を軽視しているのではなく、財政的制約の中での苦渋の決断である。また、非正規雇用者が無能だとする主張は、偏見だ。非正規職員であっても専門性を発揮している人は数多くいる。
指定管理者制度の導入や自治体のコスト削減のため、都道府県の最低賃金で働く図書館司書は以前から課題で、彼らの給与や待遇が低いのは、能力に関係なく、価格競争や「自治体の方針」の犠牲、となっているためだ。さらに、行政直営であっても、非正規職員は正規職員に昇進する機会が一切なく、一生低賃金で働き続ける。これは制度の問題であり、非正規職員の能力不足とは無関係だ。
専門性の誤解と定義
次に、図書館司書の専門性が低いとされているが、これは誤解だ。図書館司書は、単なる貸出や返却作業だけではなく、高度なレファレンスサービスを提供し、地域社会の知識基盤を支える重要な役割を担っている。地域の地誌や郷土資料の収集・保存は、AIやロボットでは代替できない人間の知識と経験を必要とする作業だ。また、資料の選定や分類、デジタルアーカイブの管理なども、専門的な訓練と経験を要する。非正規職員がそうした専門業務に携わる機会が少ないのは、現場の教育体制や雇用環境に問題があるからであり、彼らの能力不足を意味するわけではない。例え学んでいたとしても、それが行える権限は彼らにはない。
『雇用機会と競争の不平等』
また、非正規職員が「努力不足」であるという主張は、不平等な競争環境を無視している。正規職員への道が必ずしも公平に開かれていず、非正規職員は昇進しない。また、非正規職員は副業が禁止されているため、生活を維持するための収入を得ることが難しいことが多く、さらに待遇改善が望まれないケースもある。多くの非正規職員は正規雇用への転換を希望しているが、コスト削減を優先する行政の方針により、その道が閉ざされているのが現状だ。
『社会構造と倫理的な問題』
非正規職員を単に「無能」と断じることは、彼らの働きやすさや待遇改善を求める声を無視している。特に日本では、正規職員と非正規職員の待遇格差が顕著であり、その結果として生じる社会的不平等は、単なる個人の能力問題ではなく、社会構造に根差したものだ。例えば、多くの非正規職員が図書館という公共施設でコミュニティの知的財産を守る仕事を担っていることを忘れてはならない。
非正規雇用問題は個人の能力や努力に帰結するものではなく、制度的な問題に根差しているため、これを無視して個人の能力だけを論じることは不合理だ。また、非正規職員の専門性や役割は十分に存在し、それを発揮できる環境づくりが必要だ。
感想
図書館における現在の課題として、個人的にあげたいのは、「非正規スタッフ(非正規職員)への評価システムの欠如」だ。民間のサービス業と比較すると、図書館では利用者や上司からの直接的な評価やフィードバックがない。特に、民間では顧客や上司の厳しい評価が給与や昇進に反映され、結果として個々の社員のパフォーマンスが向上する。図書館では、非正規公務員という職種柄、固定給で、「評価」がなく、給与も上がらず、モチベーション向上やサービスの質の向上が十分に機能していない。
この課題を解決するためには、「客観的な評価制度の導入」が必要である。具体的には、利用者アンケートや上司からのフィードバックを定期的に実施し、その結果を非正規スタッフ、非正規職員の業績評価を給与に反映させることで、より透明性の高い評価基準を構築することが考えられる。これにより、職員の努力が正当に評価され、サービスの質が向上するだろう。
もう一つ気になるのは、閉鎖的な業界文化である。特に、図書館司書という職種同士の仲間意識が強すぎて、外部からの新しいアイデアや技術を取り入れる機会が減少し、変化に対して抵抗が強くなる面を感じる。このような職場環境は、イノベーションを阻害し、図書館が時代の変化に対応しにくくなる要因となる。
これには、「外部からの視点を積極的に取り入れる仕組み」が必要だ。例えば、他の業界からの転職者を歓迎する文化を作る、異業種との交流や研修を通じて新しい知識やスキルを取り入れる機会を増やすことが効果的だ。また、市民ボランティアの声も大切にし、多様な意見を受け入れる職場環境を作ることが重要だ。
これらの課題を解決することで、図書館のサービスはより利用者本位となり、地域社会にとってより価値のある存在となるだろう。公共図書館が今後もその役割を果たしていくためには、評価システムとオープンな業界文化の形成が不可欠だ。
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