「子どもが鼻血を洗面器で受けた」「被曝が遺伝する」…福島を苦しめ続ける「原発事故の根拠なき誤解」に反論する

林 智裕 プロフィール

「心理的影響」のほうが深刻だった

次に(2)について。前述したチョルノービリの原発事故について、事故発生から20年後の2006年、世界保健機関(WHO)は「メンタルヘルスへの衝撃は、事故で引き起こされた最も大きな地域保健の問題である」と総括した。住民に特異な被曝があったにもかかわらず、メンタルヘルスの影響がより深刻な被害をもたらしたということだ。

福島での住民の被曝量は、チョルノービリに比べ文字通り桁違いに低かったことが既に判っている。国連科学委員会(UNSCEAR)は福島における公衆の健康影響について、「心理的・精神的な影響が最も重要だと考えられる。甲状腺がん、白血病ならびに乳がん発生率が、自然発生率と識別可能なレベルで今後増加することは予想されない。また、がん以外の健康影響(妊娠中の被ばくによる流産、周産期死亡率、先天的な影響、又は認知障害)についても、今後検出可能なレベルで増加することは予想されない」と結論付けた。(【東電福島第一原発事故に関するUNSCEAR報告について】首相官邸、2012年12月12日)

 

ここに書かれた「心理的・精神的な影響が最も重要と考えられる」は、前述したWHOの総括からも極めて重要な文言である。事実、福島では被曝そのものによる健康被害がなかったにもかかわらず、震災関連死も含む健康被害が多発した。恐怖や不安、喪失感、避難も含む過度なリスク回避行動に伴うストレスがもたらした鬱や自死、生活習慣病、アルコール依存、家庭離別の増加などが報告されている。

「福島ばかりじゃございませんで栃木だとか、埼玉、東京、神奈川あたり、あそこにいた方々はこれから極力、結婚をしない方がいいだろう」「結婚をして子どもを産むとですね、奇形発生率がどーんと上がることになる」2012年、日本生態系協会の池谷奉文会長(当時)が東京で開かれた講演会で語った言葉だ。池谷氏は公益社団法人日本ナショナル・トラスト協会会長や、環境省の自然再生専門家会議委員なども務めた人物である。(【生態系協会長 発言認める「差別と思っていない」】(福島民報、2012年8月30日)

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