「子どもが鼻血を洗面器で受けた」「被曝が遺伝する」…福島を苦しめ続ける「原発事故の根拠なき誤解」に反論する

林 智裕 プロフィール

「全ゲノム解析」でわかったこと

先に結論を言えば、鴨下氏の批判には以下3つの理由から全く正当性がない。

(1)被曝は遺伝しない(遺伝的影響は起こらない)という科学的エビデンスは極めて強い

(2)遺伝的影響の可能性を示唆する言動には、単なる「警告」を超えて人々の健康や命を脅かすリスクがある

(3)著者を含めた複数の人物の名誉を根拠なく毀損している

まず(1)について。被曝の影響が遺伝しないこと、そして次世代の人に影響しないことは、広島と長崎に原子爆弾が投下された後に行われた影響調査により、福島の原子力災害が起きるはるか以前から明らかになっていた。

さらに、チョルノービリで1986年に発生した原発事故でも、次世代への遺伝影響は見られなかった。

 

BBCの報道によれば、米メリーランド州にある国立がん研究所(NCI)がチョルノービリ原発周辺の汚染レベルが高い地域で除染作業にあたった労働者たちの子ども、及び無人となった町プリピャチや原発から70キロ圏内から避難した人たちの子どもを対象に1987~2002年に生まれた全員について全ゲノム解析を実施している。

「母親と父親のゲノムを分析し、さらに子どもについても調べた。さらに9カ月かけて、それらの変異の数に、両親の放射線被ばくと関連がある何らかの変化がないか確認した。その結果、何も見つからなかった」「この結果は、両親の体が受けた放射線の影響が、将来妊娠する子どもにまったく及ばないことを意味する」という。(【Chernobyl radiation damage 'not passed to children' 】BBC、2021年4月23日)

こうした過去の研究の蓄積を鑑みれば、「被曝は遺伝しない」という知見は妥当であると言ってよいだろう。しかしながら、こうした見解を「当然科学的ではない」と切り捨てる鴨下氏は、その根拠を何一つ提示しようとしない。氏が言う「素人が何の責任もなく言い切り、メディアが載せる こんな断言は当然科学的ではない」という主張には全く正当性がない。

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