ヨーロッパのコミックフェアに並ぶ『NARUTO』のコミックス Photo: Paco Freire / Getty Images
Text by Pauline Croquet
『BORUTO』の制作でいちばん難しいのは…
『NARUTO』の連載が終わってから、すでに10年が経つ。だが、その壮大な物語は、単行本やテレビのアニメ番組という形でいまも生き続けている。
それだけではない。その物語は、3世代に及ぶ読者の心のなかでも、いまも生き続けているのだ。『NARUTO』のフランス語版がベルギーの出版社「カナ」から初めて刊行されたのが2002年だ。以後、フランス語版の累計出版部数は計3300万部に達する。
ナルトの後を継いだのがボルトだと言えるなら、岸本斉史の後を継いだのが池本幹雄だ。池本は1977年生まれで、師匠である岸本との年齢差は、じつは3歳でしかない。すでに存分に語られた物語の続きを語り、物語の世界を刷新していくのは、なかなか簡単な仕事ではない。
池本は2016年の『BORUTO-ボルト- -NARUTO NEXT GENERATIONS-』の連載開始から、そんな仕事に取り組んできた。池本は言う。
「『BORUTO』は、『NARUTO』の続きとして始まっているので、まず前提として『NARUTO』っぽくなければならないんですよね。ただ、『NARUTO』は岸本さんがやりたかったことを全部やり尽くしていたので、普通に考えたら、その続きをやるとなっても、本当はやることがないはずなんです。
だから『NARUTO』っぽくありつつ、『NARUTO』じゃないこともどんどんやっていかなければならなくて、そこのバランスをとるのが、楽しいところでもあるんですけれど、いちばん難しいところです」
『BORUTO-ボルト- -TWO BLUE VORTEX-』は、ボルトの物語の第二部であり、主人公は青年になったボルトだ。ここではナルトを超えるというテーマ、あるいは師匠を超えるというテーマがかなり強く打ち出されている。この第二部では、高名な忍者となったナルトも、その心の兄弟であり、ライバルでもあるサスケも登場しない。
池本に言わせれば、これは絶対に避けられない選択だった。
「『BORUTO』は、『NARUTO』の続きとして始まっているので、まず前提として『NARUTO』っぽくなければならないんですよね。ただ、『NARUTO』は岸本さんがやりたかったことを全部やり尽くしていたので、普通に考えたら、その続きをやるとなっても、本当はやることがないはずなんです。
だから『NARUTO』っぽくありつつ、『NARUTO』じゃないこともどんどんやっていかなければならなくて、そこのバランスをとるのが、楽しいところでもあるんですけれど、いちばん難しいところです」
ナルトとサスケが出ないのは止むを得ない
『BORUTO-ボルト- -TWO BLUE VORTEX-』は、ボルトの物語の第二部であり、主人公は青年になったボルトだ。ここではナルトを超えるというテーマ、あるいは師匠を超えるというテーマがかなり強く打ち出されている。この第二部では、高名な忍者となったナルトも、その心の兄弟であり、ライバルでもあるサスケも登場しない。
池本に言わせれば、これは絶対に避けられない選択だった。
「『NARUTO』の72巻の時点で、ナルトとサスケが最強になっているんで、あの人たちがどっかにいるんやなと思うと、安心感がすごいんです。ただ、それは逆に言うと、緊張感がないわけです。どんな敵が現れても、どうせナルトとサスケがいるしな、となってしまいます。いまは事情があって忙しいけれど、あとで遅れて来るだけでしょ。いつ来るんだろうなという緊張感のない感じになってしまいます。
かといって、ナルトとサスケがいい勝負をする敵ばかり出てきたら、ボルトは活躍できない。そこが難しいところですよね」
池本は岸本よりも、女性キャラクターの活かし方が上手だ。それは岸本と池本の両人が認めるところだ。それまではあまり目立っていなかったヒマワリというキャラクターの描き方も厚みが増した。ヒマワリは、ナルトとその妻ヒナタ(この人も忍者の名門一族の出身)の間に生まれた末娘である。池本は言う。
「冷静に考えたら、ヒマワリに滅茶苦茶、才能があるのは決まっているんで、なんとかならへんかなというのは、わりと初期の頃から思っていたんです」
池本の絵は、岸本と比べると、背景がよりシンプルであり、白黒のコントラストが強調される。「トーンを使うのは面倒くさい」という理由で、トーンを使って質感を出すこともない。
かといって、ナルトとサスケがいい勝負をする敵ばかり出てきたら、ボルトは活躍できない。そこが難しいところですよね」
池本は岸本よりも、女性キャラクターの活かし方が上手だ。それは岸本と池本の両人が認めるところだ。それまではあまり目立っていなかったヒマワリというキャラクターの描き方も厚みが増した。ヒマワリは、ナルトとその妻ヒナタ(この人も忍者の名門一族の出身)の間に生まれた末娘である。池本は言う。
「冷静に考えたら、ヒマワリに滅茶苦茶、才能があるのは決まっているんで、なんとかならへんかなというのは、わりと初期の頃から思っていたんです」
池本の絵は、岸本と比べると、背景がよりシンプルであり、白黒のコントラストが強調される。「トーンを使うのは面倒くさい」という理由で、トーンを使って質感を出すこともない。
もっとも池本が岸本のアシスタントだった頃は、その手間暇のかかる作業を担っていたのが池本だった。背景の人物や主人公の影分身の数々を描いていた。ナルトが多用する「影分身の術」のために、アシスタントとして働きはじめたばかりの池本が、影分身した小さなナルトを1200体描いたこともあった。
池本が師匠の岸本と異なるところをもう1点挙げるとすれば、それは岸本のほうがナルトの敵に許しを与える傾向が強いことだ。ペインやマダラといったきわめて邪悪な悪役にも、どうしてそのように振舞うことになったのか、その理由や背景を描きこんでいるのだ。
対照的に、池本幹雄が描く悪役は、純然たる悪役だ。岸本は言う。
「基本的に僕は、人は善人で生まれてくると信じていて、環境が人を変えていくんだと思っています。それは大人や、いい師匠がちゃんと導けないからだと思っています。だから人にとってメンターや師匠がどれだけ大切か、どういう人と出会うのかがいかに大切か、ということは思っています。それは作品のなかでも、師匠と弟子の関係でテーマとしてよく扱ったと思います」
池本幹雄は8月24日の記者会見の際、こんなことも語っていた。
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師匠から学ぶ
池本が師匠の岸本と異なるところをもう1点挙げるとすれば、それは岸本のほうがナルトの敵に許しを与える傾向が強いことだ。ペインやマダラといったきわめて邪悪な悪役にも、どうしてそのように振舞うことになったのか、その理由や背景を描きこんでいるのだ。
対照的に、池本幹雄が描く悪役は、純然たる悪役だ。岸本は言う。
「基本的に僕は、人は善人で生まれてくると信じていて、環境が人を変えていくんだと思っています。それは大人や、いい師匠がちゃんと導けないからだと思っています。だから人にとってメンターや師匠がどれだけ大切か、どういう人と出会うのかがいかに大切か、ということは思っています。それは作品のなかでも、師匠と弟子の関係でテーマとしてよく扱ったと思います」
池本幹雄は8月24日の記者会見の際、こんなことも語っていた。
「僕も師弟関係は絶対に大事だと思っています。たとえば一人の人間だけでは成しえなかった大きな目標を、その意志を若い世代が受け継いで、その実現に向けて闘っていくということは普遍的なテーマです。これは漫画だけでなく、人生においても当たり前に必要なことだと思っています」
池本は、岸本斉史という師匠が、『NARUTO』の全700話を描き通したその姿勢、体力、精神力に学んでいるという。
「毎週、本当に死にそうになりながら週刊連載をされている姿をずっと15年間、見てきたので、その姿勢を見習いながらやっています」
『NARUTO』では、家の伝統がときに重荷となる問題も出てくる。そのテーマは、自分の一族を殺したイタチと、その弟のサスケの物語、あるいは分家に生まれたネジの物語を通して語られる。岸本は言う。
「僕は百姓の子で、代々受け継いできた田んぼや畑を受け継がなければならなかったんですけど、それが嫌で漫画家になったところもあったんです」
池本は、岸本斉史という師匠が、『NARUTO』の全700話を描き通したその姿勢、体力、精神力に学んでいるという。
「毎週、本当に死にそうになりながら週刊連載をされている姿をずっと15年間、見てきたので、その姿勢を見習いながらやっています」
『BORUTO』で注目してほしいところ
『NARUTO』では、家の伝統がときに重荷となる問題も出てくる。そのテーマは、自分の一族を殺したイタチと、その弟のサスケの物語、あるいは分家に生まれたネジの物語を通して語られる。岸本は言う。
「僕は百姓の子で、代々受け継いできた田んぼや畑を受け継がなければならなかったんですけど、それが嫌で漫画家になったところもあったんです」
ボルトが父親とは異なり、木の葉の里の棟梁である「火影」になろうとしていないことと考え合わせると、この話も興味深い。
一方、池本はこう想像をめぐらす。
「ボルトも父親が火影という特別な立場の存在であるために、ストレスを感じることも多かったでしょう。そういう立場の人は多いと思う一方で、そういった立場の人たちが、悩み苦しんで、もがきながら成長していく姿には、人間的な魅力を引き出すところがあると思っています」
ボルトは、父親の真逆である。岸本は言う。
「ボルトはナルトより周りをよく見られるところがあり、意外と器用でもあり、かっこいい奴です」
一方、池本はこう想像をめぐらす。
「ボルトも父親が火影という特別な立場の存在であるために、ストレスを感じることも多かったでしょう。そういう立場の人は多いと思う一方で、そういった立場の人たちが、悩み苦しんで、もがきながら成長していく姿には、人間的な魅力を引き出すところがあると思っています」
ボルトは、父親の真逆である。岸本は言う。
「ボルトはナルトより周りをよく見られるところがあり、意外と器用でもあり、かっこいい奴です」
岸本は、池本がもたらしたキャラクターのデザインや衣装を褒める。これは池本のモードへの関心だけでなく、映画『マトリックス』三部作からの影響もある。
では、この後継者は、『NARUTO』の生みの親を超えたのだろうか。売り上げを見るかぎり、現時点では、まだそうとは言えない。2023年春の時点で、『BORUTO』のフランスでの売り上げは190万部。『NARUTO』の3000万部には遠く及ばない。
岸本斉史は、読者に対し、漫画の主人公の強さや力だけに注目しないでほしいと語る。「ボルトがいろんな状況に陥ったとき、どう行動するのか」を見てほしいというわけだ。そこが何の考えもなしに突っ切ってしまう父親とは一味違う、ボルトらしい判断が見られるところなのだから。
では、この後継者は、『NARUTO』の生みの親を超えたのだろうか。売り上げを見るかぎり、現時点では、まだそうとは言えない。2023年春の時点で、『BORUTO』のフランスでの売り上げは190万部。『NARUTO』の3000万部には遠く及ばない。
岸本斉史は、読者に対し、漫画の主人公の強さや力だけに注目しないでほしいと語る。「ボルトがいろんな状況に陥ったとき、どう行動するのか」を見てほしいというわけだ。そこが何の考えもなしに突っ切ってしまう父親とは一味違う、ボルトらしい判断が見られるところなのだから。
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