小泉氏の解雇規制緩和案「すさまじいハレーション」 他候補は慎重論
自民党総裁選では労働者の解雇規制が争点の一つになっている。小泉進次郎元環境相は経営上の理由で人員を削減する「整理解雇」の要件緩和を掲げるが、13日の共同会見では他の候補者から慎重な意見が相次いだ。
「大企業で眠っている人材が成長分野に移動できる環境を作る」。この日の共同会見で、小泉氏はこう強調した。
整理解雇は労働法に明確な規定がなく、判例の積み重ねで4要件が示されている。小泉氏は6日の立候補表明会見で、企業が解雇を避ける努力をしたかという要件の緩和を提案。従来は希望退職の募集や余剰人員の配置転換が求められてきたが、学び直し(リスキリング)や再就職支援を加える法改正を掲げた。
ただ、この日は整理解雇をめぐる具体的な言及はなかった。「解雇の自由化を言っている人は私を含めて誰もいない」と述べ、「労働市場の流動性を高めていく方向性については、誰も異論がない」と語った。
相次いだ反論
一方、他の候補者からは反論が相次いだ。高市早苗経済安全保障相と加藤勝信元官房長官は、4要件を基本とする姿勢を強調。高市氏は「短い期間の議論で立法して判例を覆すのは容易ではない」と指摘した。
小林鷹之前経済安全保障相は「安易な解雇規制の緩和には慎重であるべきだ」と明言した。
解雇規制をめぐる論点は他にもある。河野太郎デジタル相は、不当解雇に対して金銭補償を受けられるルール作りを改めて訴え、「不当解雇を防げるようになる」と主張した。
河野氏が訴える解雇の金銭解決制度は、第2次安倍政権下の2015年に成長戦略に検討方針が盛り込まれ、厚生労働省の検討会が22年に法的論点に関する報告書をまとめた。しかし、労働組合側が不当な解雇を助長するなどと強く反発しているほか、中小企業団体からも解決金の水準設定には慎重な意見があり、議論は滞っている。
労使、厚労省も関心
総裁選の議論に、労使や厚労省も強い関心を寄せる。
整理解雇について、労組側は「やむを得ない事情で企業で行われているのに、なぜ緩和するのか理解ができない」(松浦昭彦・連合会長代行)と批判。厚労省幹部も「ハレーションがすさまじく、イメージができない」と困惑する。
一方、経済団体の幹部は「賃上げを十分やってきたんだから、解雇規制は柔軟にしてほしい」と歓迎する。(北川慧一、宮川純一)
解雇規制をめぐる自民党総裁選の候補者の主な発言(13日の共同会見)
・高市早苗経済安全保障相
整理解雇は判例で4要件が確立されており、立法で覆すのは容易ではない
・小林鷹之前経済安全保障相
安易な解雇規制の緩和は働く人を不安にさせかねず、慎重であるべきだ
・林芳正官房長官
解雇が無効となった労働者の希望に応じた金銭救済制度の議論を進める
・小泉進次郎元環境相
解雇の自由化とは言っていない。大企業にリスキリングなどを義務づける
・上川陽子外相
お金で一方的な解雇が自由であるということは決してあってはならない
・加藤勝信元官房長官
解雇規制のベースは最高裁の4要件。働く人の立場を踏まえた議論が大事
・河野太郎デジタル相
不当解雇に対して金銭で補償を受けられるルールを明確化する
・石破茂元党幹事長
整理解雇は回避努力が問われる。非正規の削減(解雇)は時代と逆行する
・茂木敏充党幹事長
人生100年時代、転職が普通という社会を作っていくことが先決だ
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- 北川慧一
- 経済部|労働キャップ
- 専門・関心分野
- 労働政策、労働組合、マクロ経済
- 【視点】
■解雇の話だけでは分からない 新しい労働社会をデザインせよ きっと悪目立ちしたかったのだろうな(西岡研介パイセン風の書き出し)。「解雇」は労働社会の重要な論点ではある。ただ、どのような解雇なのか、濫用を防ぐための策、さらには労使関係のあり方、労働社会のあり方とセットで議論しなくては全体像が見えない。この報道も網羅的なようで断片的である。もちろん、それぞれの政治家の歩み、もともとの所属派閥、過去の言動などによって、なんとなく言いたいことはわからなくはない。ただ、特に小泉進次郎などは「解雇」という言葉を意図的に使い、注目を集めようという意図が見受けられる。 気になるのは、ほぼすべての候補者が、2020年代の日本の労働市場を見ていないのではないかということだ。成長産業に人材をというが、たとえばIT産業は賃金も上がり、働き方改革も進んでいる(もちろん、大手と中堅・中小の差はある)。人材を集めようという努力や創意工夫もしている。あとは、IT産業で働く人材をどこでいつ育てるかという問題である。雇用の流動化、成長産業への人材投入というが、解雇だけが議論ではない。解雇はどのような解雇なのか、どのような条件を設けるのか、何のためなのかで捉え方が変わる。論点が20年前と変わっていない候補者が散見される。 未来を論じることも、現実を捉えることすらできていないのではないか。少なくとも発言や報道からはそう感じざるを得なかった。候補者たちは傲岸さをむき出しにして脅迫しているのである。候補者への不信はマグマのように急速に拡大しつつある。闘争の巨大な前進をかちとれ。
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- 【視点】
小泉進次郎氏は、この記事が指摘するように「整理解雇の四要件」の緩和を提案しています。その理由には、出馬会見の全文によると、大企業が従業員に能力を発揮させないままに労働力を抱えすぎていることが問題だと述べ、「大企業に眠る人材が動き出し、スタートアップや中小企業に人が流れやすくなる」ことを目指すためだとあります。 ただ、整理解雇とは、企業が業績悪化を理由に、人員削減を迫られた場合に行われる解雇を指します。しかし、小泉氏が念頭に置いているのは、整理解雇ではなく、普通解雇の話ではないでしょうか。つまり、企業が能力不足と感じた労働者(=眠る人材)を容易に解雇できるようにし、労働市場の流動化を目指しているように感じます。 これは小泉氏の目玉政策です。その議論が十分に整理されていないとすると、政権運営が大丈夫なのか、不安に感じます。
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