「VTuber事務所」の株価はなぜ暴落したのか?「エニーカラー」「カバー」の時価総額を押し上げた”神話”の崩壊
黒字の「エニーカラー」と「カバー」だが、株価は…
VTuberビジネスを展開する「エニーカラー」と「カバー」の”行き詰まり感”が著しい。 【一覧を見る】運用資産1億円の投資家が保有する115銘柄を一挙公開…! 21年に上場したエニーカラーは「にじさんじ」の運営で知られ、その成長力と話題性を一心に背負い、一時「TBS」や「フジテレビ」といった在京キー局を上回るほどの時価総額をつけていたことが記憶に新しい。 しかし、そんなVTuber事務所を展開する両社の株価はここ一年で大幅に低迷している。 エニーカラーは、2022年10月には株価が6,895円のピークに達したが、現在では2,255円と3分の1以下になっている。「ホロライブ」を運営するカバーも同様に、時価総額が大幅に縮小。23年末に3325円の史上最高値をつけた後は下落一辺倒に陥り、現在では1700円以下まで値を下げた。 *株価はともに9月11日時点終値 図表をみると、2024年全体を通じて、VTuber事務所2社は日経平均株価のパフォーマンスを大きく下回っていることわかる。 VTuber事務所の株価が低迷している要因はどこにあるのか。両社に共通するのは、意外にも決算や業績自体は高い成長率を維持しており、黒字で絶好調であることだ。 一般に、ある企業の経営が順調であるにもかかわらず株価が下落するという現象は、業界特有のリスクが投資家から意識されはじめた局面で頻発する。今回でいえば、VTuberビジネス特有の”属人リスク”が強く市場に意識され始めたことが理由ではないかと考えられる。
崩壊する「ナラティブ」
あまり耳慣れない言葉だが、「ナラティブ」というビジネス用語がある。簡単にいうと、「うちのビジネスはこういう優位性があって、他社はそれを真似できない」というストーリー仕立ての説明をナラティブという。投資家が投資の意思決定を行う上でもナラティブは重要で、それ次第で同じ業績でも時価総額は何倍も変わってくる。 その反面、ナラティブの崩壊が発生すると、高い企業価値の前提に狂いが生じる。市場参加者が「実はあまり儲からない」、「儲かるとしても再現性がない」ことに気づくと、株価は大きく下がるのだ。 ではVTuber業界の「ナラティブ」とは何か。 まずはエニーカラーやカバーが上場したての頃に遡ろう。当時、VTuber事務所は「普通の芸能事務所と比べて優れている」根拠として、 (1)「VTuber事務所は、キャラクターの”ガワ”、つまりイラストの権利を押さえているため、Youtuberや芸能事務所と違って、独立されたり引き抜きされたりするリスクが乏しい」 (2)「キャラクターは老化しないため、一般的なアイドルよりも長く活動できる」 といったナラティブが語られていた。 実際のところ、両社が上場してしばらくはそのナラティブが活きていた。しかし、近年になって、エニーカラーの運営するにじさんじや、カバーが運営するホロライブから引き抜きや独立、活動終了の動きが活発になった点に目を向けなければならない。