いまVTuber事務所が”UUUM化”している?「エニーカラー」「カバー」が直面する株価「行き詰まり感」への処方箋
芸能事務所に時価総額がつかない理由
東証にはアミューズやエイベックスといった著名な芸能事務所が少ないながらも上場している。それらの企業は日本を代表するアーティストや芸能人が所属しているにもかかわらず、時価総額は小粒だ。 globe、安室奈美恵、浜崎あゆみといった日本を代表するアーティストをマネジメントしてきたエイベックスの時価総額はわずか653億円と、ただでさえ株価が下落しているエニーカラーの半分以下しかない。 福山雅治が在籍するアミューズに至っては時価総額は263億円で、これはカバーの約4分の1の企業価値しかついていない。 これは、芸能事務所がいかに足元で収益を出していても、市場は芸能人の高い俗人性リスクを背景に高い価値を見出していないことの表れだ。 むしろ、上記のような稼ぎ頭のタレントが10年、20年と事務所に所属する一方で、VTuberは数年で引退してしまう例が相次いでいる。一般的な芸能事務所と比べてもVTuberの活動期間は相当短い可能性がある。 ここまでを踏まえると、VTuber事務所の高い時価総額を裏付けてきたナラティブは崩壊しているのではないか。 (1)「VTuber事務所は、キャラクターの”ガワ”、つまりイラストの権利を押さえているため、Youtuberや芸能事務所と違って、独立されたり引き抜きされたりするリスクが乏しい」 (2)「キャラクターは老化しないため、一般的なアイドルよりも長く活動できる」 この課題に対する処方箋はあるのか。
処方箋は「非公開化」にあり?
ではVTuber事務所はどうすれば良いのだろうか。 その処方箋としては多くの芸能事務所と同じように、株式を「非公開化」し、非上場のまま、より柔軟でプライベートな運営を維持することにあるだろう。 上場企業であるということは、タレント個人のリスクを外部の株主と共有することを意味する。不祥事や引退といったイベントひとつで企業価値の安定性はおおきく損なわれる。 上場企業は、株主や証券取引所に対して定期的な報告義務があり、短期的な業績や株価の動向に左右されることも多い。非上場企業であれば、外部からの圧力や市場の影響を受けにくく、長期的な視野に立った経営が可能だ。 最近では、永谷園など芸能事務所以外の大手企業も、業績が順調で資金調達の必要性が乏しいことなどを理由に株式を非公開化を選択するケースも増えている。 上場をやめることは決して「敗北」ではないという点をまずは理解しておきたい。 そして、非上場企業であっても、銀行融資やプライベートエクイティなどを通じて十分な資金調達が可能となっている点も注目したい。特に著名な芸能事務所やアイドル事務所であれば、そのブランド力やタレントの知名度を活かして、一般投資家に頼らずとも、金融機関や機関投資家から十分な支援を受けられやすい。 特に、カバーやエニーカラーのようなクリエイティブなビジネスを展開する企業にとって、株主の短期的な利益追求が経営に悪影響を及ぼす可能性がある。そんなカバーやエニーカラーが非上場を選択することは、彼らのビジネスモデルや市場環境を考慮すると、十分に合理的な選択肢であると考えられる。 現状では資金面での問題はなく、長期的な視点での経営が求められる中、非公開化によるメリットは大きいだろう。特に、VTuber業界の成長が鈍化しつつある現状において、企業価値を安定させ、リスク管理を徹底するためにも、非公開化が有効な手段となる可能性に言及したい。 VTuberビジネスは、その独自性と魅力によってこれまで大きな成功を収めてきたが、今や新たな挑戦の時期を迎えている。 "行き詰まり感"を乗り越えるためには、カバーやエニーカラーが持つクリエイティブな力とビジネスセンスが試されている。今後の動向次第で、VTuberビジネスが再び飛躍するか、それとも徐々に衰退していくかが決まるだろう。
古田 拓也(1級FP技能士)