「決選投票では分かっているな」すごむ菅氏 混戦の総裁選、動く重鎮

自民

松山尚幹

 自民党総裁選が12日、告示された。自民派閥の裏金事件を受けて不出馬を決めた岸田文雄首相(総裁)の後任を決める選挙で、現行の仕組みで過去最多の9人が届け出た。

 国民人気に近い地方票が重要な意味を持つ今回の総裁選だが、そのまま結果につながるわけではない。1回目の投票結果を受けた上位2人による決選投票は地方票が少なくなり、ほぼ国会議員だけの投票になる。ここで、顔をのぞかせるのが「永田町の論理」だ。

 「決選投票では、分かっているんだろうな」

 小泉氏支持を鮮明にし、水面下で自らに近い議員への働きかけを続ける菅義偉前首相は最近、「小泉氏以外を支持したい」と断りを入れてきた中堅議員をにらみつけ、そうすごんだ。

 「はい」と返事するしかなかった中堅議員だが、心中は複雑だ。「小泉氏はまだ若い。本当に首相にふさわしいのだろうか」。それでも目をかけてきてくれた菅氏の頼みは断りにくい、と決選投票は小泉氏への投票に傾きつつある。

 3年前の総裁選で出馬できず退任へ追い込まれ、岸田政権でも非主流派の立場だった菅氏は、小泉氏の勝利に「復権」を見据える。

 その小泉氏は、裏金議員の扱いを巡り、6日の立候補会見で「新執行部で判断する」と言葉を濁した。かねて「次の選挙は非公認もあり得る」と強気だった小泉氏だが、敵・味方をはっきり区別する父親譲りの一面は影を潜めた。「(決選投票で)みんな離れていってしまう」と心配した菅氏の助言も影響したようだ。

 石破、小泉両氏が優勢な状況は、岸田政権の中枢で権勢を振るい、2人とは距離を取ってきた主流派の重鎮たちを悩ませている。その代表格は麻生太郎副総裁だ。

 岸田文雄首相、茂木敏充幹事長との「三頭政治」をまとめてきた麻生氏は、首相が決断した派閥解散の流れにも従わず、存続を明言する。「派閥は総裁選で勝つために生まれた。なくなっては政治にならない」と周囲に語ってきた麻生氏が重視するのも、主流派が決選投票で一致団結して行動することだ。

 仮に決選投票に残るのが石破、小泉両氏であっても、「固まって動く」考えは変わらない。麻生氏はその可能性に備えて、布石も打ちつつある。

 小泉氏周辺によると、麻生氏は最近、小泉氏と水面下で接触。皇位継承などの問題を巡って議論を交わしたという。いまなお派閥を束ね、数十人の投票行動に影響を与えるとみられる麻生氏は、自ら重視する政策への姿勢を候補者から直接確認し、決選投票の動きを見極めようとしている。

 派閥解散を明言した首相も、根本は麻生氏と同じだ。4日、山梨県富士吉田市で開かれた若手・中堅約10人の会合に駆けつけると、「1回戦は自由でいいが、決選投票は固まりたい」とささやいた。投開票日の前日に投票先を指示する考えも伝えたという。

 出馬を目指して推薦人集めを続けるも断念し、告示前日に小泉氏への支持を表明した野田聖子元総務相は、その直前に森喜朗元首相と面会した。小泉氏を推すとみられる森氏が、野田氏の判断に影響を与えた可能性が指摘されている。

 こうした重鎮たちの動きが活発になるほど、自民党の刷新は遠のく。当然、選挙のための「刷新感」など打ち出せない。「長老が『右向け右』と言っているようでは、派閥を解散した意味などない」。そんな声が、ベテラン議員からも聞こえてくる。(松山尚幹)

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この記事を書いた人
松山尚幹
政治部|自民党担当
専門・関心分野
外交安全保障、政局と政策、財政税制
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    常見陽平
    (千葉商科大学准教授・働き方評論家)
    2024年9月13日7時11分 投稿
    【視点】

    ■自民党的な、あまりにも自民党的な  過去最多の立候補者数の総裁選だが、自民党の何が変わったのだろう。「派閥」の解体が叫ばれたが、重鎮たち、有力議員たちの影響は相変わらずだ。世界はこれを派閥と呼ぶんだぜ。「刷新」と「刷新感」は異なる。思えば、2012年に政権に返り咲いてから、自民党はこの「感」で庶民を手なづけてきた。「やってる感」「改革感」「刷新感」などだ。  もっとも、この候補者の支持基盤、背後の重鎮たちというのは味わい深い。今後、ますます政策論争が盛り上がっていく(と期待する)が、どのような力学が働いているかを我々は見極めなくてはならない。総裁選のための政策、その後の衆議院選に勝つための政策ではないかと我々は疑ってかからなくてはならない。派閥解消後も続く、この人脈の力学は読み解く補助線となるだろう。

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    佐藤武嗣
    (朝日新聞編集委員=外交、安全保障)
    2024年9月13日9時36分 投稿
    【視点】

    私は、派閥自体が絶対的な「存在悪」だとは思わない。派閥の何が問題かと言えば、その領袖が「人事とカネ」で、政権や党、霞が関に影響力を及ぼし、自らの権力基盤を固めようと暗躍することで、政治の質の低下と停滞を招き、また裏金問題はじめ「政治とカネ」の温床にもなってきたことだ。言ってみれば、問題は派閥自体にあるわけではなく、特定の実力者が、政権において「人事とカネ」を牛耳るようなシステムが問題なのではないか。 自民党では一部の派を除き、表向きはいくつかの派閥が解消された。いまだに「人事とカネ」を目当てにした派閥主体の選挙戦を展開する候補は論外だが、口では「派閥に頼らない」ことをウリにしていても、その背後に、実力者、あるいはキングメーカーが見え隠れする候補が見受けられる。確かに、党実力者や総理経験者の知見を排除する必要はないだろう。しかし、表では「派閥に頼らない」と言いながら、その実力者が相も変わらず「人事とカネ」を差配するようでは本末転倒だ。 候補者は、「派閥に頼りません」ではなく、「人事やカネでは、特定の実力者の指示や影響は受けません」と宣言すべきだろう。それが裏金問題の本質であり、派閥解消の真の目的であることを忘れるべきではない。

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自民党総裁選挙2024

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