凶暴になり、市民にも平気で銃口を向けるようになった―。組織犯罪に詳しい作家溝口敦氏が警告を発して10年になる。暴力団排除条例が全都道府県で施行され、資金源を絶たれたのが変質のきっかけだった▲殺害も辞さず、邪魔する者は誰であれ牙をむいたのが北九州市の工藤会である。全国唯一の「特定危険指定暴力団」が、札付きの悪の証しだろう。銃はおろか、手投げ弾まで使う凶暴さで地域全体を恐怖に陥れている▲市民を狙った四つの事件で工藤会トップに極刑が言い渡された。「鉄の団結」を誇る組織だから、下々の組員の言動は「神みたいな存在」のトップの意向に従うはずだ。そう断じた判決は画期的だ▲判決を取り上げたおとといの小欄に、工藤会の擁護かとの声が届いた。誤解を招いたのなら本意でない。本紙の暴力団追放キャンペーンは半世紀以上前から続く。「暴力を許さない」精神は既に広島に根付いていよう▲キャンペーン初期の動きをまとめた1965年の「ある勇気の記録」は巻末にこう記す。〈暴力がある限り、戦い続けなければならない。新聞記者はただ書き続ける。善良な市民の立場に立って…〉。その決意は今も変わらない。