インターネットやSNSで溢れる誹謗中傷。自分に向けられたものでなくとも、大人でさえ心が傷つけられる思いがする。特に、「死ね」「ウザい」といった人の命を奪いかねない過激な言葉が、スマホで容易に子供の目に入る今、多くの親が不安を抱いてしまう。こうした言葉に、親がどう向き合うべきか。フジテレビアナウンス室では、9月の自殺予防週間に向け、日本の学校教育の現場を取材し、子供の国語力低下に警鐘を鳴らす作家・石井光太氏に話を聞いた。

「死ね」「ウザい」で片付けられるコミュニケーション

石井氏によると、近年、自分の感情を適切に言葉で表現することができない子供が増えているという。インターネットやSNSで命をめぐる言葉が飛び交うと、それらを日常でも使って良いのだと錯覚してしまう。また、「ウザい」「ヤバい」といった、曖昧で包括的な言葉を使うコミュニケーションは、的確な言葉で気持ちを表すのとは異なり、細かなところまで思考して積み上げていく練習を損なわせ、思考力、ひいては他人に共感する気持ちも失われてしまうのだという。

では、子供がものを考え、表現する力を育むには、なにが必要なのか?
子供の成長段階に合わせ、家庭で出来ることを聞いてみた。

幼少期:親子のアタッチメントから言葉を育む

まず幼少期で大切なのは、本の読み聞かせなどのアタッチメント(発達心理学などで母親と子の間に形成される愛情。愛着)だという。

石井光太氏と椿原慶子アナ
石井光太氏と椿原慶子アナ
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「子供は親との安心感の中で、本の内容以外の刺激を受け取ります。例えば、お母さんが読み聞かせで声枯れした、疲れて読み飛ばした、そんな些細なことも子供の刺激になります。翌日もお母さんの体調を心配したり、あるいは読み飛ばした箇所がどんな話だったのか保育園で話題にしたり、子供の中でも意外な思考が巡らされるのです」

大人から見ると些細なことでも、日常生活での親とのアタッチメントを通し、想像力が自然と派生していくのだ。

また、幼児期の育児では、ついついスマホ動画に頼ってしまうこともあるはず。だが、それが例え教育関連であっても、子供の知的・精神的成長を促すには、五感を通したリアルの体験に勝るものはないという。少しでも子供と散歩をする、自然に触れてみる。そこから子供がどんなことを考え、感じたか親子で会話をすることが、子供の言葉を育むことに繋がる。

「現代の親は忙しすぎます。でも親ファーストではなく、子供ファーストで子供の非認知能力を伸ばすことが何より重要」という石井氏の言葉が胸に刺さった。

学童期:ゲームに没頭する子への向き合い

学童期の子どもたちは、ゲームの世界に深く没頭することが少なくない。特にオンラインゲームの中で「死ね」「殺す」といった過激な言葉が安易に飛び交い、その影響が現実世界にも及ぶと、親はどう向き合えばいいのか戸惑ってしまう。

石井氏は、子供たちがゲームに没頭するのは仕方がないという。

石井光太氏
石井光太氏

「ゲームには、人工的に強い刺激が組み込まれ、誰もが依存しやすいように作られています。大人だって何時間も遊んでしまいます」

一方で、長時間ゲームに浸かった結果、その中で使われる言葉が、現実世界でも通用すると誤解してしまうことを石井氏は問題視する。「ゲーム内では、『死ね』『殺す』といった言葉がコミュニケーション手段として機能しても、それが現実世界でも通用するわけではありません」

だからこそ、親が子に“現実の世界”と“ゲームの世界”は別モノであると示すことが大切だという。具体的には、地域のスポーツ活動に参加させるなど、親がゲームとは別のリアルなコミュニティーを子どもたちに提供することが有効だそうだ。

「少年野球の試合で、誰かがミスをした際に『死ね』なんて言ったら、間違いなく監督やコーチに怒られますよね。このようなリアルな経験が、ゲーム内の行動との違いを理解する助けになる」と石井氏は話す。

ゲームは楽しみ方の一つとして尊重されるべきだが、その影響力を正しく理解し、現実世界とのバランスを保つことが求められている。

思春期:SNSとの向き合い

さらに、子どもたちが思春期に入り、スマホを手にしてSNS上のコミュニケーションを始めると、そこで何がやりとりされているか、親からは全く見えなくなる。

帰宅から就寝までオンラインに接続状態になることもしばしば。子どもたちの心が疲弊しないか心配にもなる。それに対し、石井氏は「部活や学校生活、あるいはそのほかのコミュニティー、いずれかリアルな状況に恵まれている子は、結局SNSで繋がり続けることに飽きるか、自分自身でこれはまずいと危機感を覚えて、自然と離れていくことができます。ただ、リアルな環境に恵まれないと、現実逃避としてオンライン上の世界の方が安心できて依存性が高まってしまう」という。

思春期には親子の会話も激減する。それでもなお、子どもの言葉を育み、思考力を養うには、親はどんな向き合いができるのか。

石井光太氏
石井光太氏
 

「会話が減るのは全然かまわないです。コミュニケーションって実は喋るだけじゃない。親のリアルな姿を見せ、何を考えているかを言葉にしてみる。子どもは聞いていないふりをすると思いますが(笑)、親が経験した生のモノを見せればよいのです。それがきっかけで何かを調べたり読み始めてみたり、その時わからなくても後から腑に落ちることがある。そういう言語化できないモヤモヤこそが必要」だという。

“リアル”を充実させるためにできること

子どもの言葉を豊かにするには、石井氏は取材中幾度も「リアルな経験」の必要性を語った。リアルは五感を刺激し、心を動かす。すると誰かに話したくなる。すぐに言葉にならなくとも、何かが澱として積もり、思考し、いつしか“言葉”として表現できるようになる。

石井光太氏に話をうかがう佐々木恭子アナ(左)・遠藤玲子アナ(中央)
石井光太氏に話をうかがう佐々木恭子アナ(左)・遠藤玲子アナ(中央)
 

自戒の念をこめて…つくづく、思う。
子どもの言葉は、親の言葉と合わせ鏡。子どものコミュニケーションを憂う前に、親である私たちができること。
子どもと関わるせめてもの時間、スマホを手から離す。
触れ合う五感を大切にする。
大人も子どもオンラインと切っても切り離せない時代、束の間のリアルを大切に積み重ねる。

言葉そのものも大事だが、それを発している空間、空気感、表情、それら全てが子どもにとって“リアル”な記憶になっていくのだから。
【取材・執筆】椿原慶子 遠藤玲子 佐々木恭子

椿原慶子
椿原慶子

2008年フジテレビに入社。夕方と夜の報道番組のフィールドキャスター・メーンキャスターを務め、アメリカ大統領選挙や北朝鮮の取材などを行う。2019年から育児休業を取得し、2023年復職。現在は2人の子供の育児をしながら『ワイドナショー』などを担当。小さな声にも耳を傾け、人の心に寄り添うアナウンサーでありたい。

遠藤玲子
遠藤玲子

フジテレビアナウンサー。2005年入社
学生時代を、ベネズエラ、アメリカで計9年過ごす。
入社後、『めざましテレビ』のスポーツキャスターなどスポーツを中心に担当。
第2子出産後、2017年からドイツで5年間過ごし、2022年に復職。
幼少期、思春期、子育て期を海外で過ごしました。
日本を離れたからこそ、気づくこと。
そんな“気づき”を大切にできればと思います。

佐々木恭子
佐々木恭子

言葉に愛と、責任を。私が言葉を生業にしたいと志したのは、阪神淡路大震災で実家が全壊するという経験から。「がんばれ神戸!」と繰り返されるニュースからは、言葉は時に希望を、時に虚しさを抱かせるものだと知りました。ニュースは人と共にある。だからこそ、いつも自分の言葉に愛と責任をもって伝えたいと思っています。
1972年兵庫県生まれ。96年東京大学教養学部卒業後、フジテレビ入社。アナウンサーとして、『とくダネ!』『報道PRIMEサンデー』を担当し、現在は『Live News It!(月~水:情報キャスター』『ワイドナショー』など。2005年~2008年、FNSチャリティキャンペーンではスマトラ津波被害、世界の貧困国における子どもたちのHIV/AIDS事情を取材。趣味はランニング。フルマラソンにチャレンジするのが目標。