(社説)日韓の首脳外交 改善の歩みを止めるな

社説

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 日韓関係は、岸田首相と尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の間で大きく改善した。これを首脳同士の個人的な関係に終わらせてはならない。改善の歩みを揺るぎないものに定着、深化させる努力が両国に求められる。

 岸田首相が先週、ソウルを訪問し、尹大統領と会談した。日韓の協力と交流の持続的強化を確認。第三国に滞在する日韓両国民の保護のための相互協力の覚書も結んだ。

 歴史問題などで戦後最悪とも呼ばれるまでに悪化した日韓関係は、一昨年に大統領に就任した尹氏が対日重視を鮮明にし、改善に向け大きく動き出した。岸田首相もそれに呼応し、両氏の対面での首脳会談は計12回に及ぶ。

 北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の軍拡に直面するアジアの安保環境、ロシアのウクライナ侵攻で揺れる国際秩序を踏まえれば、民主主義の価値観を共有する日韓が結束する重要性は論をまたない。

 両国ともに自由貿易の恩恵を享受してきた。半導体関連の供給網などを通じ、経済面でも深く結びつく。少子高齢化や地方の活力低下など共通課題も少なくない。協力の推進こそが双方の利益になることを改めて認識したい。

 一方で、隣国関係には摩擦もつきものだ。だからこそ首脳同士が頻繁に会い、課題の解決に腹を割って対話を重ねる環境は大切だ。

 ただ、お互いに不安定な国内事情も抱えている。

 尹政権を支える与党は議会では少数派だ。政権支持率も低迷する。韓国世論には、日韓関係の改善が、主に韓国側の譲歩によって進められてきたとの不満も根強く、野党側は政権の対日外交への批判を強めている。

 元徴用工の訴訟では原告の一部が、韓国側の財団からの支給金の受け取りを拒否。財団の財源不足も問題になっている。だが韓国側に期待がある日本企業による出資の動きはみられない。韓国側に安易に妥協すべきでないとの声も、自民党内にはくすぶる。

 日本の植民地支配にもかかわる歴史問題では、日本側の真摯(しんし)で誠意ある対応が欠かせない。尹氏も対日関係の重要さについて国民への丁寧な説明を尽くしてほしい。

 来年は日韓国交正常化から60年という節目の年を迎える。日韓関係の長期的なビジョンを打ち出すための議論もこれから本格化する。

 改善の流れが後戻りしないよう、首脳が交代しても往来を絶やしてはならない。緊密な首脳外交により、双方の国民が関係改善の利益を実感できる合意や発信を積み重ねていく取り組みが必要だ。

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