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Conversation

“女性の権利意識の自覚によって新たに広がった「ものの感じ方」の領域は実に大きかろう。人口の半分を占めていた人々の声なき声に言葉が与えられ、家事育児労働の内実から、差別の炙り出し、母であることと働くこととの両立の困難さまでが語られるようになるからである。 わたし自身、過去の女性作家の著作物に触れることで、そのような言葉を内に育てていった。だがその反面、女性問題の正義が十分に認知されて定説と化していけば、その視角によって見出されるものと失われるものとのバランスは崩れていく。 本当は、男女の差について記述することも、女性についてあるいは男性について記述することも、難しいからである。常に語りえないものが残り、手探りの状態であると思わねばならない。 ただ、人文の観点からすれば、多様な感覚は興味深い題材となるが、正義の問題となれば、感じ方の逸脱は不正な権力の「内面化」であるとされやすく、仮に女性であったとしても批判の対象となる。すると、批評はそもそも不可能である。”