第8話 妻 その1
ティノの奥さんとの話を、何回かに分けて書きたいと思います。
ティノが妻、ラウラと出会ったのは6年前である。
リンカン王国を回り、王国領土を1周を間近に迎えたドキの町に住んで3年目の事である。
その日も今まで同様弱い魔物を退治し、魔石を手に入れ、町に売りに帰る途中の草原で、魔物に襲われていた所を助けると言う、ベタな出会いだった。
祖母が開く薬屋を手伝っていたラウラは、いつものように町の近くの、かなり安全な草原で薬草を採取していた。
「フ~、結構取れたし、そろそろ帰ろうかな?」
“ガサッ!”
「!!? な、何で……」
「グルルルル……」
茂みから現れたのは、ここら辺では滅多に出ないコルノルーポと呼ばれる、頭に角が生えたBランクに分類される狼の魔物だった。
ちゃんとした武器を持てば女性でも倒せるE、Fランクの魔物しか出ないこの草原に現れるような魔物ではない。
「そ、そんな……」
ラウラは、あまりの出来事にガタガタと足が震え、逃げる事すら出来ず、涙がボロボロとこぼれた。
「ガウッ!」
“バッ!”
「!!?」
コルノルーポが1吠えし、ラウラに飛びかかった。
ラウラは、その1吠えに恐怖で目を瞑りしゃがみ込んでしまった。
“ズバッ!”
狼に噛まれる事を覚悟したラウラの目の前に、どこからともなく現れた男性が、狼の首を剣で切り飛ばし立っていた。
「大丈夫?」
その助けてくれた男性を見た瞬間、ラウラはあっさりと恋に落ちた。
ラウラを助け、ティノは町に送り届けた。
それから2ヶ月がたったある日の事である。
「こんにちは!」
ティノが薬屋の前を通りかかると、店番をしていたラウラが、弾けんばかりの笑顔で挨拶をして来た。
「こんにちは……」
ティノも挨拶を返す。
ティノは、自分でも恋愛関係の事は鈍い方だと分かっている。
しかし、ラウラが自分に向ける感情がどういうものかは理解している。
この2ヶ月の間、町の本屋や道具屋を訪ね、しばらく品物を見ているといつもラウラが挨拶してくる。
流石に毎回現れれば、彼女の態度などから自分に向ける感情に気付くのも当然である。
「ポーション買って行きませんか? 安くしときますよ!」
「コレ! 何油売っとる!?」
“コツン!”
ラウラが少しでも長くティノと話をしようとしていたら、店の裏から来たラウラの祖母が、持っていた杖でラウラの頭を小突いた。
「おぉ坊、いらっしゃい何か買って行くかい?」
「こんにちは、ルーナさん」
ラウラの祖母の名前はルーナ、ラウラ救出により知り合い、採取して来た薬草を買い取ってもらうようになったお得意さんである。
「ちょっと魔物を退治しに行くので、切れてたポーションを買いに来ました」
「ありがとね。ラウラ必要な分、裏から出して来な!」
「え~、お婆ちゃんが持って来てよ!」
「いいからさっさと行って来な!」
「も~!」
ブツブツ文句を言いつつラウラは、裏に在庫を取りに行った。
「全く、すまないねぇ。ラウラがいつも……」
「いいえ、別に……」
「坊……、悪いけどもしもの時には、ラウラの事を頼むよ」
「えっ? 何ですか? 縁起でもない……」
「……何でもないよ。忘れておくれ」
そう言ってルーナは裏に入って行った。
そんな話をした数日後、ルーナさんは体調を崩し、さらに数日後安らかに息を引き取った。