Conversation

HPVワクチン男性接種のHTA (医療技術評価)がどのような仮定のもとに行われたのか詳細はわからないが、仮に「中咽頭癌を防ぐエビデンスがない」というのが理由なら、厚労省は今後50年にわたって取り返しのつかない過ちを犯したことになる。 そもそも10代に接種するHPVワクチンが「60代が好発年齢」の中咽頭癌を予防するエビデンスが出るには、これから50年待たなければならない。 子宮頸がんですら2006年にHPVワクチンが市場に出て、子宮頸部浸潤癌の予防効果がNEJMで報告されたのは2020年。 20-30代から発症する癌ですらこうなのに、50-60代から発症する癌の予防効果が出るなんて半世紀後である。 でも50-60代の発癌が予防できるのなら、平均寿命が80代なわけだから、追加で得られるQALYは非常に大きい。 子宮頸がんはほとんどがHPV陽性で、HPVワクチンで感染を予防したら実際にがんが減った。 中咽頭癌は50%程度がHPV陽性であることがわかっている。 感染が発癌の原因であることを「観測」するには、確かに感染を予防して発癌が減るかを確認しないとわからない。 その間に他国では「発癌メカニズムの推測」と「HPVワクチンの感染予防効果」をもって、HPVワクチンが中咽頭癌も防ぐと推測し、男性にも接種をすすめ実際に中咽頭癌を防ぐだろう。 日本は50年後に「やっぱりHPVワクチンは中咽頭癌を防ぐことがわかりました」となってから男性への接種を開始するのだろうか。 その50年の間に打てなかった男性は全く守られない。 もちろん間接効果でHPVの罹患率を下げることで、女性の子宮頸がんが減る効果も期待できない。 本当に馬鹿げた話である。 「費用対効果研究の枠組みを医薬品の保健収載に使うべき」とか「費用対効果が良いという十分なエビデンスがない」とかそれらしいことを言うのは簡単だが、この選択が国民の健康に与える甚大な影響をわかってやってるのか。 この決定をした人間にそれだけの覚悟はあるのか。 これからずっと問い続ける必要がある。