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消費者問題速報 VOL.167 (2018年5月)
1 証券会社従業員による株価の虚偽報告につき慰謝料支払を認めた判決(仙台地裁平成30年3月20日判決)
本件の原告は,60代男性であるが,現物株式の投資経験は15年以上あり,資金の性格は余裕資金と適合性に関してはそれ程問題とならない者である。原告は被告岡三証券(以下,「被告会社」という。)の従業員(以下「被告従業員」という。)に対して,毎日自己の取引している外国株式について株価の終値を報告するように求めていた。しかし,被告従業員は原告から株価が値下がりしたことを叱責され,その後外国株式の株価の終値について虚偽の報告をするようになった。なお,原告は複数の株式を保有していたが,値段を高く報告していた銘柄もあれば安く報告していた銘柄もある。また,その後の株価の変動等により,原告には最終的には損失は発生していない。
本判決は,被告従業員の株価の虚偽報告は原告の「正確な外国株式の値動き及び自己の損益状況に基づいて外国株式の取引を行う権利又は法律上の利益」を侵害するとして不法行為を構成するとして慰謝料として50万円の支払い及び弁護士費用5万円を認めた。
慰謝料額の算定においては,①被告が虚偽報告を行ったのは本件取引で損失が生じたことについて,原告が被告を厳しい口調で叱責したことも起因していること②虚偽報告発覚後は支店長らと共に謝罪し誠実に対応していること③原告が被告の処分を望んでいる訳ではなく宥恕する旨の発言をするとともに損失を少なくしたい旨発言し,新たに買い付けた株が値上がりしたら一件落着と考えてもらってよい旨発言し,現に当該株式は値上がりし,原告は最終的には利益を得ていること等が考慮されている。
2 社債の販売が詐欺と認定され,販売会社の実質的代表者,役員及び勧誘担当者ら並びに関連会社及びその代表取締役の責任が認められた事例(名古屋地裁平成29年12月27日判決)
本判決は,株式会社K&A(平成25年6月破産手続開始決定。以下「K&A」という。)が販売した社債(少人数私募債)に係る投資被害について,当委員会所属の弁護士らが中心となって結成された「K&A投資被害弁護団」が提起した集団訴訟の判決である。
本判決は,まず,K&Aの社債販売の違法性について,K&Aは,社債販売に当たり,①クレジット債権等の取得・回収,②K&Aグループ企業を通じたレストランなどの店舗経営,出版事業やシステム開発事業等の事業に充て,これにより元本償還と配当を行う旨の説明を行っていたものの,K&Aが社債の元本償還と高利配当を見込むことができるような事業(①債権回収事業,②投資事業)を営んでいた事実は当初からなかったと推認するのが相当とし,少なくとも同社を実質的に支配・経営していた被告については,早晩,顧客に対して高利配当はもちろんのこと元本償還もできなくなるであろうことを知りながら,顧客らに本件社債を販売し続けたことが認められ,したがって,本件社債の販売は詐欺行為であると認められると認定している。
また,本件社債の販売スキームが破綻必至かどうかをさて措いても,K&Aの営業担当者らが本件社債の有する元本欠損のリスクを殊更に過小視し,本件社債は元本が償還されることが確実な安全な金融商品であるとの説明を行っていたことは,商品のリスクにつき著しく正確性を欠き,その安全性を顧客らに誤信させる説明であり,詐欺的要素をはらむ違法な勧誘であったと認定している。
その上で本判決は各被告らの責任を判断し,販売会社の実質的代表者,役員及び勧誘担当者ら並びに関連会社及びその代表取締役の各被告らの共同不法行為責任ないし会社法429条1項に基づく責任を認め,原告らの請求をほぼ全面的に認めた(控訴はなく確定)。
なお,関連会社及びその代表取締役の責任については,まず,関連会社は,詐欺行為である本件社債販売の実現を容易にし,その犯罪収益を他に流出・隠匿するために利用されていたとして,違法な本件社債販売に関して共同不法行為責任(民法719条1項)を負い,少なくとも幇助責任(同条2項)を負うとした。その上で,代表取締役について,会社法429条1項に基づく責任を認めたものである。
また,一部の被告から,原告らの受領した利息を損益相殺すべき旨の主張がされていたが,本判決は,原告らに対する配当金の交付は,原告らを誤信させ続け,新たな取引を勧誘するなどの手段とされたにとどまり,本件社債の配当金交付によって原告らが得た利益は,不法原因給付によって生じたもので,損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象とすることは許されないとした。
以上のとおり,本判決は,K&Aの社債販売という本件の具体的事案における事例判断を提供するものである。
【判決文は先物取引裁判例集78巻262頁,金融・商事判例1539号16頁に掲載】