
昔の子供たちは、映画を観たのだろうか?
時間を、60年前にさかのぼろう。
イシマル、4才。
あぶあぶが終わった頃である。
なぜかその頃、映画館にいた。
そこから10年間、映画館の座席に何度も座っていた。
爺様が、大分県の豊後高田市という町で、
映画館を営んでいた。
東映系であったのだが、当時は、海外をはじめ、
なんでも上映していた。
けんじろう君一家が、爺様のウチに訪ねると、
「映画観てきなさい」
爺様に、子供は追っ放われる。
その頃の映画館は、入り口にモギリの方がおり、
ガラスのドアを押すと、キップを千切ってくれるシステムだ。
ところが、子供が映画館に来ることがなかった。
滅多にないのではなく、完全になかった。
映画館とは、大人の遊び場だったのだ。
ソレが証拠に、現代のようにアニメも無ければ、お笑いもない。
かかっているのは、剣劇か、ホラー(化け猫)か、西部劇。
小学生の低学年のけんじろう君には、内容が難しい。
そこで、けんじろう君は、座席に後ろ向きに座り、
あるモノを、ただただジッと見ていた。
そこには・・・
ここで、当時の映画館の構造を語ろう。
基本は二階建て。
一階に150席ほどの、硬い座席があり、
二階は、畳状の桟敷。
そして、一階の一番奥に、
売店がうっすらと灯りをつけていた。
間口半畳ほどの売店に、オバチャンがニコニコ顔で、
けんじろう君を手招きしている。
近づいてゆく。
売店の棚は傾斜しており、
お菓子が、夢のように陳列されている。
パラソルチョコレートだの、
チューブチョコレートだの、
サイコロキャラメルだの。
都コンブだの、
ボンタンアメだの、
ニッケのチューブだの・・・
オバチャンの後ろのガラス棚には、
ラムネが、燦然と並んでいた。
コーラもサイダーもジュースもない時代。
よもや、ペットボトルもなく、
缶製品もなく、水すら売られていない時代。
お茶は、オバチャンが、
売店内の七輪で沸かしたお湯で入れてくれるお茶だ。
おいでおいでしてくれたオバちゃんが、
とんでもないことを言ってくれる。
「好きなもん、食べナ」
チョコを頬張りながら、振り返ったスクリーンに、
女の人が、タンカを切っていた。
「おいおい、グダグダ言ってると、魚腐っちまうゼ!」
一心太助は、美空ひばりだったらしい。