(社説)NHK国際放送 編集の自由守るために

社説

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 NHKのラジオ国際放送などの中国語ニュースで先月、中国人の外部スタッフが、靖国神社の落書きのニュースを読んだ後、原稿にない発言をした。中国語で沖縄県尖閣諸島について「中国の領土です」、英語で「南京大虐殺を忘れるな」などと述べた。

 いずれも十分に吟味して伝えるべきテーマについて、スタッフが、直接関係のないニュース中で一方的に意見を述べたことは問題だ。NHKの対応や情報公表は後手に回るが、原因究明と再発防止に正面から取り組んで欲しい。

 ただ、この問題を機にNHKの放送の自主性が脅かされることがあってはならない。

 国際放送に対しては、国の広報のような役割が、過度に期待されてきた経緯がある。

 NHKの国際番組基準は「わが国の重要な政策および国際問題にたいする公的見解」を伝える、「解説・論調は、公正な批判と見解のもとに、わが国の立場を鮮明にする」としている。

 放送法にも、「国の重要な政策に係る事項」などについては、総務大臣が指定する事項の国際放送をNHKに求める仕組みがある。費用として政府が交付金も支出する。編集権はNHKにあり踏み込んだ求めは控えられてきたが、2006年に当時の菅義偉総務相が、拉致問題を重点的に取りあげるよう命令した。

 過去には、当時の経営委員長が「利害が対立する問題については日本の国益を主張すべきだ」、会長が「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」と発言したこともある。

 日本の立場を海外に正確に伝えることは必要だが、単なる政府の代弁者に見えては、独立した公共放送ならではの信頼と注目は得られない。また日本に報道・編集の自由があると世界に示すこと自体にも意味があるはずだ。放送法は「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」も求めている。

 NHKは発表文で「NHK全体として安全保障の観点への意識が欠けていたことも原因」とした。動機も十分判明せぬ段階で、安全保障という言葉をもちだした。国と立場が一体化しているようにも見える。放送の私的利用を容易に許した甘い体制をまずは直視すべきだろう。

 再発防止にAI音声の導入も検討されるが、事件に無関係なスタッフが不利益を受けないことを望む。自主的な編集を守るためにも、有効な再発防止策を取り、国際放送以外も含めて局内に萎縮が広がらないように努めてほしい。

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