「世襲議員がお気楽に言うな」解雇規制見直し論に立憲4候補が猛反論

立憲自民

松井望美 北川慧一

 自民党総裁選の立候補予定者による解雇規制をめぐる発言を、立憲民主党代表選(23日投開票)に立候補した4人が批判している。解雇規制の緩和につながる恐れがあり、労働者の不当解雇を助長しかねないとみるためだ。次期衆院選での政権交代を掲げる4氏は、自民への対抗心を鮮明にしている。

 12日の自民総裁選の告示を前に「労働市場改革」を訴えたのは、河野太郎デジタル相と小泉進次郎元環境相。河野氏は5日、継続的な賃上げに向けた解雇時の金銭補償ルールの必要性を主張した。小泉氏は6日、「日本の経済社会にダイナミズムを取り戻す」と解雇規制の見直しを改革の本丸に掲げた。

 こうした案に、立憲代表選の4候補が一斉に反論した。

 「昭和の化石みたいな政策だ。首を切られる人が増え、日本の経済と社会はますますダメになる」。8日の福岡市内で行われた記者会見で、枝野幸男前代表(60)が一蹴すれば、泉健太代表(50)も「自民は経営者目線でしかない。人を大事にしないことが明確になった」。吉田晴美衆院議員(52)は「欧米のまね」と非難した。

連合が問題視 労組に根強い警戒感

 背景には、立憲の支援組織である連合の姿勢がある。解雇規制をめぐっては、労働契約法で「客観的に合理的な理由」などがない解雇は無効と定められているが、具体的な内容までは明文規定がない。経営上の理由で人員を削減する「整理解雇」については、削減の必要性や解雇を避ける努力をしたかなどの4要件が判例で示されている。

 民間企業の労働組合などを傘下にもつ連合が問題視してきたのが、解雇時の金銭補償ルールの整備だ。リストラを助長すると、労組が懸念を示している。河野氏の主張に類似した制度については、労使双方の主張に隔たりがあり、導入に向けた議論は滞っている。

 一方、小泉氏は、整理解雇4要件のうち、解雇を避ける努力をしたかという要件の見直しを提案。従来は希望退職の募集や余剰人員の配置転換が求められてきたが、学び直し(リスキリング)や再就職支援を大企業に義務づける法改正をめざすとした。小泉氏の手法も、雇用の流動化につながる恐れがあり、労組には根強い警戒感がある。

 立憲4候補のうち、労働市場の流動化は必要だとしたのは野田佳彦元首相(67)。ただ、方法論には異を唱え、「人手不足の産業が待遇改善したら、行きたくなる。あるいは、新しい魅力がある産業が出てきて、勤めたくなる。自然体の労働市場の流動化があるべき姿だ」と主張した。さらに、河野氏と小泉氏という世襲議員による相次ぐ発信に、野田氏はこう語気を強めた。

 「自分が(選挙で)落ちる心配も、解雇される心配もない。そういう人たちがお気楽にものを言うな」(松井望美、北川慧一)

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この記事を書いた人
北川慧一
経済部|労働キャップ
専門・関心分野
労働政策、労働組合、マクロ経済
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    星野典久
    (朝日新聞政治部次長)
    2024年9月9日18時51分 投稿
    【視点】

    河野太郎氏と小泉進次郎氏が解雇規制の見直しを掲げた背景がとても気になります。何度も指摘していますが、「改革」の美名のもとで「規制緩和」が行われると、多くの場合で、その恩恵を得ることができる人がいます。解雇規制の緩和であれば、大企業と人材派遣会社がまず思い浮かびます。「規制緩和」で気をつけなければいけないのは、その裏で誰かの安全や財産が脅かされていないかという点です。 労働規制の見直しを訴えている知識人やオピニオンリーダーはだれなのか。彼らと政治家との関係はどうなっているのか。また河野陣営と小泉陣営の財界との関係のほか、献金元やパーティー券購入の動きにも目を光らせたいと思います。

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    岩尾真宏
    (朝日新聞名古屋報道センター長代理)
    2024年9月9日20時5分 投稿
    【視点】

    小泉進次郎氏は、「自民党が真に変わるには、改革を圧倒的に加速できるリーダーを選ぶこと」とし、「長年議論ばかりを続け、答えを出していない課題に決着をつけたい」と主張します。政治のスピード感を強めたいという意志を感じますが、「議論ばかり」でとどまっていることには、当然ながらそれだけの理由があるはずです。  解雇規制の見直しなどは、生活に直結しかねず、国民の安定的な暮らしを脅かす恐れがあるからこそ、時間をかけて議論を続けてきたものです。多くが賛成するものならば、当然ながらすぐに決着したはずです。「決められない政治」はもちろん問題ですが、一方でスピード感重視の「決めすぎる政治」もまた、後世に禍根を残しかねません。  政治家が政策を判断するにあたっては、当然ながら自らの体験や思い、支持者などから直接聞いた話といった「背骨」があるはずです。なぜ解雇規制の見直しをするべきだと考えるに至ったのか。そのことをきちんと説明できるだけの言葉を持っているのでしょうか。野田氏の言葉はそうした点を指摘しているように感じます。  話が少しそれますが、業務時間外に上司や取引先などからの電話やメールを拒む「つながらない権利」といった概念が広がっていることを、恥ずかしながら最近知りました。世界でこうした動きがある中で、総裁選での労働をめぐる政策議論は、もっと別の視点が必要ではないかとも思います。

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