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外に帰ろうとする師を止めようとするこはね/Novel by ケルビィン

外に帰ろうとする師を止めようとするこはね

3,273 character(s)6 mins

畜生… プロジェクトKV公式が…!

う… ううっ…

唯一の創作者… ケルビィン
ううっ… 素晴らしい響きだ

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 ふと帰りたくなるという『帰還衝動』。故郷は遥か遠く。僕は帰りたいと願うばかりになってしまった。理由はとくにない。
 もちろん、ここでの生活というものは愛おしい。斬り合いを指示したり、切っ先が目の前をかすったり、あるいは切り傷を受けたことだってあるにはあるけれど、それでも故郷にいただけでは体験のしようのなかったことをいっぱい味わうことができた。
 それでも、この我が身から湧きあがる欲求はなんだろうか。
 もし生徒を置いていって、彼女たちがどういう反応をするのかはよくわかっている。それでも、この韓紅に染まったカピラの清流を見る度に、僕は故郷を思い浮かべるのだ。白樺の木々が立ち並ぶ防潮林と、その向こうにある金色の淡い月に照らされた海。どうしてだろう、植生も水質も何もかも違うというのに、この騒めく心は。
 だから、ある日、僕はついに帰ることにした。皆が本当に寝静まった夜まで寝ずに待ち、草木も静まる丑三つ時とやらの時報が鳴り響いたとき、僕は帰還という行為に手を染めることにした。
 月夜の中、秋の夜風が吹き荒ぶ中、僕は手持ち鞄片手にそそくさと駅へと向かった。この無限の回数券がもたらす効果は、いついかなる時でも発動し、那由他につながる鉄道は僕をただ故郷へと運んで行ってくれることだろう。生徒への申し訳なさと期待感の板挟みになってしまうが、僕はそれでも期待感を選んだ。
 そして、その罰はすぐに下る。
「師匠、あんまりにもあんまりじゃん」
 こはねが、刀を抜いて僕を待っていた。
 僕もすぐさま刀を抜く。
「……こはね、よくわかったね」
「当たり前だよ、師匠がここ最近になって遠い目をしてたり、帰りたいとか故郷とか独り言呟いてたりしてたし。多分、師匠は自分の状態に完全に気付いてなかったんだろうけれど、私にはわかるもん」
 数秒で鍔迫り合いになり、そして発生する衝撃。
 その衝撃を利用して、後ろに一気に跳んで、いったん態勢を整える。はっきり言って、不利だ。カピラの学生たちは何らかの神秘的な要素を纏っているうえに、体力もあるし、耐久力さえある。刀を日常の喧嘩で使用するくらいだ。
 一方、僕は剣術をある程度嗜み、さらにここにきてちょっと練習を再開するようになっただけの、普通の人間である。レイヴンとしてアリーナ一位に君臨したこともあるが、白兵戦では何も意味をなさない。いや、動体視力が役に立つのは共通するけれど。
 だから、僕が勝つには、短期決戦。それもこはねを一方的に痛めつけ、なおかつこちらは何の切り傷も受けないという戦法だ。はっきり言って、大人としては最低だが、レイヴンとしては最高峰の戦術である。
 僕は地面を蹴って、一気にこはねとの距離をつめた。
「こはね! 君だって故郷にいつかは帰るくせに!」
 刃の切っ先が、激しく火花を散らす。
「そうだよ! でも、怖いもん! お婆ちゃんとかが! あと田舎に帰ったら冷水で体を洗うしかないし! 師匠の故郷ってどんな場所なの!」
「普通に暖かい常春の半島だあっ!」
 隙をついて一撃。
「ぐっ……師匠の一撃、意外と重いっ……」
 こはねの一閃を、さっと左にかわす。
「しかも、捉えるのが……早すぎるよっ!」
 二連の斬撃を、二つとも斬撃で打ち消す。
「これでもかつてはレイヴンだったんでね! 自由気ままに自治体をめぐり、好きな戦場で戦い、旨い飯を食い、旨い酒を飲む……あれほど楽しい生活はなかったね!」
「師の故郷とその周りはどうなってるのさ!?」
 相手の乱れ切りを全てかわし、そして腹部に一撃を入れる。
「……師匠、こんなに強いなら、師匠が戦えばいいのに」
 互いに息切れをしてるけれど、その度合いは僕の方が激しい。
「そ、そりゃ君たちのためにならんし、そもそも僕はこの通りだ。君一人倒すのにも、こうやって体力を激しく消耗してしまう」
 こはねは歯を食いしばりながらも、こっちに向かってきた
「私一人倒すのにって……まだ勝ってもない癖に……!」
 そうだ、わざと言った。こはね、君がこうして引っかかってくれるから。ただでさえも気が高ぶり、判断力が低下している中で挑発したんだ。予想通り、隙だらけで防御なんて考えてもなさそうだ。
「隙アリ」
 脇腹に一発。それだけで十分だった。こはねは仰向けに地面に倒れる。
「……師匠」
「ごめんね、こはね」
「……わかった……私の負けだね……だから、お願い。最後に、抱きしめてほしいな……」
 僕はその場から早く立ち去ろうとしたけれど、それでもこはねの願いを聞き届けないわけにはいかなかった。もう会えることもないような、別れが近づいているのだから。
 僕はそっとこはねを抱き上げ、そして抱きしめる。
 その体温は、僕に涙を流させようとした。
「師匠……やっぱり師匠って泣き虫だね」
「うるさいやい」
「……あと、キスもお願い」
「わがままだぞ……まあいいけれど」
「……恥ずかしいからさ、お互い目を閉じよう?」
 僕は目を閉じて、ゆっくりこはねの唇に口づけをした。それと同時に、腹部に痛みが走る。まるで、何かが刺さったような……。
「師匠、全てわかってたよ? さっきのが挑発なのも、師匠がこうやって私に最後の餞別をくれようとするのも」
 驚きながら目を開けると、腹部に短刀が刺さっていた。刃にはライスシャワーと刻まれていた。
「こ、これは……”短刀UMAMUSUME”シリーズっ! や、やられた……袖に隠してたのか!」
「安心して。まだ深くは刺さってないよ。師匠の対応次第で変わるけれど」
 なるほど、僕が抵抗すれば命はないということだろう。そして、こんな状態のこはねのことだ。僕の後を追うのは間違いない。僕が死ぬのはいいが、未来ある生徒が死ぬのは嫌だ。もうこれ以上、誰かの命を奪いたくはない。
「……わかった。帰ろう。このカピラのそれぞれの住処に」
「……はい!」
 こはねのお婆ちゃん、すみません。色々とあなたの孫を歪めてしまいました。この責任はいつかどのような形でも取りますので、どうかご容赦のほどをお願いします。
 帰りは、こはねと一緒に手をつなぎながらだった。
「今日は寮に泊まってもらうね。まだ信用できないもん。勝手に帰っちゃうかもだし」
「あはは……」
 秋の夜風が、ふわっと紅葉の葉っぱを僕の鼻先に運んできた。そうか、秋だ。ここに来たのも、秋のときだった気がする。それからずいぶんとあったものだった。
「……師匠は、故郷に帰ることができたら、そのレイヴンとかいう職業にまたなるつもりだったの?」
 こはねが不安そうに尋ねてきた。それは僕の希望を奪ってしまったんじゃないかというものに違いなかった。
「多分、そうでもないと思うよ」
 でも、どうしてなのかはうまく説明できそうになかった。言葉が何も思い浮かぶことがなかったから。ただ、これだけは言えた。
「君たちといて……誰かの未来を見守るのって、いいなって思えるようになったから……」
 こはねはどこか嬉しそうに、でも頬を膨らませた。
「もうっ……見守るってそんな他人事みたいに……私の未来には、師匠がいるんですから」
「……そうだね。もう、僕一人の人生じゃないのか」
 背負ってしまったみたいだね……この僕も……。
 そうだ、もう投げ出すことはできない。衝動に任せて全てと抗った、あの日々にはもう戻れない。この日々でも何かと抗うのは変わらないけれど、それは衝動からではない。目的が……生徒の未来という目的があってこその、抗いだ。
 そして、この手にそれがきちんと握られていて、それを捨てることはしてはならないし、かなうこともない。彼女が僕にとって、最後の錨だった。あの日々から発つための、この日々に身を置くための、錨だ。
「お風呂、一緒に入ろうよ、師匠」
「師匠と生徒の関係は?」
「その建前を使えなくする一歩だもん」
「……あはは」
 その錨は、僕の手をぎゅっと握って、離そうとしない。

Comments

  • ペイt…ケルヴィン君!!(ブーストチャージ音) 糸此上かおるを…彼女も忘れないであげてね…(byキサラギ)デザイン的にはトキと絡ませてみると面白そうだと思うんだ、クールキャラのダブルピースは健康に良いんだ… ごめん、手前泣くね…

    17 hours ago
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