取り違えタイムカプセル
一年ぶりの初投稿です。
一年ぶり!?
この作品は春の新性癖応援キャンペーンにて作成されました。
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「……出てこないなぁ。」
ぼやきながらスコップで木の根元を掘る。残暑が厳しく、山奥の空気と混じってなお拭えないほどの不快感をもたらす。スマホの通知には「渋滞で一時間位遅れる」の連絡。それでもまぁ来るだけましか。他の連中は仕事で来れなかったり、そもそも連絡がつかなかったり。「ずっと友達でいような」と言っても、流石に子供の約束だ。
もう一度、足元を掘る。硬い感触。……いや、これは木の根っこだ。
「タイムカプセル、ここであってたよなぁ?」
何分もう10年も前のことだ。「多分この辺だろう……そうだったよな?」くらいの確信しかない。いくら山の中で再開発も舗装工事も行われないとはいえ、それでも菓子箱サイズのものを掘り当てられる自信が揺らいでくる。
「何入れたんだっけな……。」
当時嵌っていたものか、あるいは宝物か。子供のころに見たそれが同じ輝きを持っているかはわからないが、せめて集まった奴らと語らう時間は同じくらい輝いていて欲しいものだ。一度大きく息を吸う。スマホのバイブレーション。遅れると言っていた健一からだった。
『海斗か? そろそろつくぜ。今どこだ?』
相変わらずのよく通る声だ。故郷の山の中だと山道を駆けまわった記憶が春風のように脳裏を駆ける。
「神社の山だ。タイムカプセル埋めたとこの。」
『あーおけ分かった。車止めてくるわ。10分ぐらいでそっち着くから待ってろよ! でっけえシャベル持ってきたからさ!』
通話終了。……そういえば俺とあいつの思い描いている「タイムカプセルを埋めたところ」は同じなのだろうか。違ってたら不味いな。麓まで迎えに行くか。その前に入れ違いになるとまずいから連絡を――。
「あれ?」
圏外。いやおかしい。さっきまで普通に通話できてたよな? メッセージを送ろうとしても送信エラー。麓の方で停電でもあったのか?
「君、何してる。」
風が止む錯覚。肝が冷える。女の子の声。背後から。……ゆっくり振り返る。小さな子供。小学生くらいの女の子か? なんでこんなところに、と思ったが、それは俺が問われていることだった。
「あー、タイムカプセル掘り返しているんだ。タイムカプセル。わかるかな?」
とりあえず怖がらせないようにスコップを傍に置く。彼女は訝しむような眼でこちらを見ている。
「タイム、カプセル?」
少女は首をかしげている。よく考えれば最近は埋める機会もないのかもしれない。そもそもまだ小さい子供だし。
「仲のいい友達同士とさ、小学校卒業するときにこの山に埋めたんだよ。みんなの将来の夢とか宝物とか入れてさ。で、今掘り返しに来たってわけ。そろそろ健一――友達も来るんだ。君こそ、こんな山奥で一人? 友達とか家族とか、一緒じゃないの?」
話しているとさっきの肝が冷えた感覚がほぐれて冷静になってくる。小さな子供を一人で置いていくのは憚られるし、健一と合流がてら一度麓に戻った方が良いかもしれない。ついでに公民館に顔を出せばこの子の親を知っている人もいるだろう。
「……それって、これくらいの大きさの、これくらいの箱?」
彼女は直方体の大きさを手で示す。確かに、これくらいの箱だった、ような……。
「確かにそれくらいだったと思う、けど……。」
「じゃあ掘るのはそこじゃなくて隣の木の下だ。箱が埋まってるのはそこだけ。だったら君の箱はきっとそれだ。」
「え?」
何か妙に含みのある言い方であった。彼女の意図を理解しかねていると、後ろから良く通る声が聞こえてくる。
「おー! 海斗! 顔見るの久々だな! 元気だったか!?」
「健一! お前変わんねぇな!!」
久しく見ない見慣れた顔であった。日焼けした浅黒い肌に短髪。野球部だったころから何一つ変わらない。高校のときも毎日顔を突き合わせていたのだから忘れるはずもないのだから。
「休憩中だったか?」
「あ、いやさっきそこに女の子、が……。」
――いない。辺りを見回しても声を出してもどこにもいない。
「あれじゃね? 掘り過ぎて熱中症にでもなったか? ほらこれ買って来たから飲めって。」
投げ渡されたのはキンキンに冷えたスポーツドリンク。これまた懐かしい。こんなやり取りを何度やったことか。
「サンキュ。……いや見間違いじゃないと思うんだよなぁ。まぁいいか。で、またえらくデカいの持ってきたな……。」
「お前のもでかいだろ。」
なんて、二人してスコップ片手に笑い合う。
「そんで見つかったのか?」
「いや、まだだ。この辺の木の根元だと思うんだが……。」
もう既に3本。どれも外れだった。
「……あれ? ここじゃないのか?」
健一は既に掘り終わった木の根元を見る。確かに俺もそこだと思っていたが……。
「とりあえず手あたり次第掘っていこうぜ。そのうち出てくるだろ。」
そう言って、俺はなんとなく、先ほど少女が示した木の根元を掘る。かつん。
「――……出てきたわ。」
「……マジかよ。」
浅く入った刃先から覗く、やや錆びた金属の箱。タイムカプセルだ。……いや、なんとなく違和感が……?
「早く開けようぜ! 現地組の特権だ!」
「ん? あ、ああ。」
だがその違和感は、健一の急かす声に流される。彼は他のメンバーに送る動画の撮影に入る。
「恭介! 邦弘! 幸次! 見てるか! 海斗がタイムカプセル掘り当てたぜ! 今から開けるからな!!」
カメラと視線が箱に向く。俺はゆっくりと箱を開く。
あまりにもあっけなく、箱が開く。中に入っていたのは……箱3つ。3つ?
「……うん? これ俺らの埋めた箱か?」
5人で埋めたんだから3つはおかしい。違和感が頭を――
「いや、そうだろ。3人で埋めたんだから。」
――すり抜ける。そうだった。埋めたのは俺と健一と恭介の3人。恭介は今日、急な仕事で来れないとか言っていたから二人で来たんだった。まだ1年目なのに休みが取れないなんて運がない。
「悪い悪い。あまりにも急に見つかったんだから疑っちまった。で、この三つの箱、どれが誰のだ?」
箱のデザインはどれも同じ、確かこれは……近所の駄菓子屋のおばちゃんに貰ったんだっけ? まぁともかく、誰のがどれかは分からない。
「開けりゃわかるって! 俺最初に開けていいか!? ど・れ・に・し・よ・う・か・な……。」
健一は開ける気満々で箱を選んでいる。久々の再開だしテンションが上がっているんだろう。かく言う俺は、すり抜けたはずの違和感が、妙に気になって仕方がない。何かを見落としているような……。
「うし! これだ!」
健一が箱を開く。彼が中から取り出したのは一枚の紙きれ。随分と古いように見える。箱の中にずっと入れられてたからだろうか? そもそもこんなの入れたっけ? 俺は入れた記憶がない。とすると健一か恭介のものだろう。
「なんだその紙?」
「読んでみる。えーっと……。」
20年後の私へ
元気ですか? 私は元気です。
私は小学校を卒業して、来月から中学生になります。
水泳選手になる夢は叶えられましたか? 私も今がんばって水泳の選手になれるように練習しています。
オリンピックでメダルをとれるくらいすごい選手になっていてください。
応援しています
小林 恵衣
……? 誰だ? いや、そもそも20年後? 俺たちは10年後に掘り出そうって約束したんだよな? 完全に別の誰かのものを掘り出してしまったようだ。
「うっわぁなっつかしー!」
「え?」
横を見る。先程までカメラを回していたはずの幼馴染は、急に見知らぬ女へと成り果てていた。日に焼けた肌は一緒だが、まずもって性別が違う。年齢も……見る限り少し上な気がする。
「書いた書いた! 卒業文集にも書いたっけなぁ。」
「……そういやそうだった、っけ?」
微妙にかみ合わないはずの記憶の歯車が、ガチガチと異音をたてながら回りだす。そうだ、恵衣は水泳が凄い上手くて、中学の頃も大会に出ずっぱりだったんだが……。
「いやぁ、男ならよかったんだけどねぇ。」
彼女はわざとらしく胸元を強調する。ゆさり、と質量を伴って揺れるそれは、こと水泳においてはあまりにも大きな枷であった。結局高校の頃には記録も出なくなって、けれどもスポーツに携わる仕事をしたいからと、今はインストラクターの仕事をしている、そうだった、よな?
「まぁ文集なんて見返さないからねぇ。いや、海斗は見返すたちだっけ? 実家に置いてるんなら後で見せてよ。」
「お、おう? そうだな。」
恵衣が冗談めかして笑う。いつもこんなんだっけ? なんとなく調子がかみ合わない。屈託のない、見覚えのあるはずの笑顔が妙に見慣れず気恥ずかしい。
「次は君が選びなよ。順番だ。」
促されるまま、俺は手近な箱を取った。箱を開ける。中には先ほどと同じような、小さな紙切れが一枚。
「読んでみてよ。」
「えーと……。」
20年後の私へ
変わりないでしょうか。私は来月からみんなと離れるのでとても不安です。
けれども、このタイムカプセルがある限り、きっとまたみんなで集まれると信じています。
その時みんなの前で恥ずかしくないように、たくさん勉強していい大学に入って、いい仕事ができるように頑張ってしてください。
私もずっと勉強するようにします。私の将来がいい物でありますように。
中村 京子
「京子……?」
「ああ、うん。こんなこと書いてたんだ……。どうしよっか……。」
恵衣が気まずそうな笑みを浮かべる。そもそも俺にとっては知らない名前だから何も言いようがない。何か気まずくなるようなことが……あったっけ……。あったような……。
「あー……。」
思い出す。そうだ、京子は中学から私立に行ったのだが、結局うまくいかず、そのまま俺たちと同じ学校に帰ってきて、そこからずいぶんと荒れていたのだった。最終的に水商売に手を出して、結局今も連絡が取れず……。噂では男をとっかえひっかえしてるとか、
「あ、あれ? 京子って今日来ないって連絡あったよな?」
「え? 私の方には着てなかったと思うけど? そもそも連絡つかないし……。同級生に聞いても誰も知らなかったんだよね。」
「う、うーん? なんか、さっきからおかしくないか? なぁ、恵衣。お前今いくつだっけ?」
「幾つって……同級生なんだからわかるでしょ。32だって。」
「俺今22だけど。」
沈黙。俺は理解ができずに、そして彼女は、俺が何が理解できていないかすら理解できていない様子だった。
「え? 何かおかしい?」
「……? あれ? 何がおかしいんだ?」
自分でも何かよくわからなくなってきた。年齢が違っても同級生なのは普通……だよな?
「ほらほら、最後のも開けちゃいなよ。終わったら涼みに行こう。」
「お、おう?」
最後の箱を空ける。またもや紙切れが一枚。ああ、自分の字だ。見ればわかる。妙に丸っこい字だ。
20年後の私へ
久しぶり! 元気にしてる?
今どこで何をしているのか、そんなの決まってるよね!
私はこの町でみんなと一緒に過ごしてるはず!
京子は勉強で一番だからきっとこの町で一番賢い子になってるし、恵衣はオリンピックでメダルを取って街の誇りになってる!
それで私は大好きな子の町をもっともっと良くするための仕事をしているんだ!
絶対当たっているよね!
大村 香
「あれあれ、そんなの書いてたんだ?」
恵衣がのぞき込んでくる。なんだか妙に気恥ずかしい。
「子供ん時んことやからね。夢見とったんやって。」
口をついて出た言葉に、少し違和感を覚える。……こんな喋り方だったっけ? じんわりとした夏の暑さが妙に堪える。
「まぁみんなそうだよ。思い描いてた夢の通りだなんて、大抵うまく行かないものだって。」
「せやねぇ。ウチもまさか町出るとは思ってなかったけど、出たら出たで割とええ感じやし。出張ついでとはいえこっちにも寄れたしな。」
そうだ、たまたま出張の帰りに寄れそうだったから、休みをとってこっちに来たんだった。しかし服くらいはちゃんとしておけばよかった。スーツのまま山の中はやはりちょっと無茶があったか……。暑いし、歩きづらいし。蒸れるし。いやけどそれでも恵衣の格好はラフすぎる。シャツ一枚って。なんなら汗で透けて下着丸見えだし。うわでっか……。
「あはは! 香見過ぎだって!」
――懐かしい。あの頃もこんな感じだったっけ?
「でかいのが悪いわ。ウチの頭くらいあるやん! 頭突っ込んだろか?」
「ほれほれよしよーし。30超えてまだ赤ちゃんでちゅねぇ。背も伸びないしねぇ。」
恵衣の胸元が丁度私の頭の位置だから、抱き着いたら必然彼女の谷間に頭を突っ込むことになる。私も恵衣に話しかけているのか胸に話しかけてるのかわからなくなったことさえあった。――あのころと変わらないハリ。いや、少し柔らかくなった? 熟れているのか、なるほどな。
「そぉんな悪い赤ちゃんには……こうだ!」
がばっ。一瞬にして視界が暗くなる。加湿器の傍にいるかのような湿度。濡れる顔面。シャツの中に閉じ込められたと気づいたのはその数秒後だった。
「むー!? んん!? んむぐ!?」
「あっはっはっは! ちょっとは成長しなよ?」
数分後。脳まで蒸し焼きの私と笑う恵衣。ひとしきり笑ったところで、タイムカプセルの底を見る。
「あれ? なんかまだ残ってた。」
紙切れ――もとい、写真を恵衣が取り出した。市民プールで撮ったであろう、子供の時の私たちの写真。3人揃って、笑顔で。なんともまぁ懐かしい。
「プールかぁ……。懐かしいなぁ。」
「そういやこの市民プール、来年閉まるんだって。」
「えっマジ? まぁ大分古かったしな。」
他愛のない会話。見慣れた景色が変わっていくのは妙なもの寂しさもあり。……まぁ、一人かけている時点で私たちも変わってしまったか。
「まぁ泳ぐだけなら私のところのジムがあるし、今どきの子は市民プールなんていらないのかもねぇ。」
なんて、彼女は笑う。私も適当に相槌を打つ。夏の終わりの寂寥感。何かを置いてきてしまったような錯覚。20年前は遥か遠く。それでも変わらない友情を噛みしめながら、私達は惜しむように山を下りた。
◆
「くぁ……。」
帰り道の新幹線の中、大きな欠伸を一つ。久々に会って少しはしゃぎ過ぎたか。明日は午前だけでも休みでよかった。
ふと、何かが引っかかって、共有していた映像を見る。タイムカプセルを掘り当てたあたりからの映像。小ぶりなシャベルで掘り当てたそれは、映像越しでも輝いて見える。
「京子! …… 見てる? タイムカプセル、掘り当てたから今から開けるね!」
「あれ? ウチらが埋めた箱ってこんなんやっけ?」
「いや、そうだって。3人で埋めに来たじゃん。」
「すまんね。いきなり出てきたもんやから疑ってもうたわ。で、これ、どれが誰のや?」
……妙なところはない。その後の展開もいたって普通。私は何が気にかかったんだろうか。
「まぁええか。」
新幹線に揺られ、自宅に帰る。僅かな揺れと疲れが眠気を誘い、ゆっくりと意識が落ちていく。年の所為か、妙に疲れっぽくなってしまった。
「若い頃は、良かったなぁ……。」
独り言のようにつぶやき、私は違和感ごと意識を手放した。
朦朧とした意識の中、4人の少年と一緒にタイムカプセルを埋める夢を見た。山奥で、全員でふざけながら、深く、深く埋めたそれ。絶対掘り当てような、なんて約束をしながら、夜闇の中に声が溶けて行った。(了)