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今、漫画業界に起こっている事

 僕は大手電子書店ストアを毎日巡回していますが、毎日、配信される新刊の数が鰻登りです。最近では少ない日でも300冊。大手ストアでは多い日だと1000冊以上の新刊漫画(WEBTOONも含む)が今配信されています。全くもって異常事態ですね。

10年前の30倍くらい? 体感では去年に比べても1.5倍くらい出ている気がします。 ここ2、3年でしょうか、電子書店市場の拡大に伴って中小出版社を中心とした企業が、 電子書店に下ろすために編集部を大幅に拡張し、これまでより大量の漫画作品を供給するようになりました。

もちろん、その中でヒットする作品はごくわずかです。本来こんなに低いヒット率では、普通どこの編集部も原稿料や固定費で赤字になってしまいます。

・・・ですが、当たった時が大きい!

1書店で単月1億円以上売り上げる作品も現れるようになりました。全書店合計だと2億、もしかして3億円以上の売上上を出す作品もあるかもしれません。そこから電子書店の手数料や作者への印税を考えると、契約によりますが大体3〜分の1くらいが出版社の手残りです。紙の時代の感覚だと100〜200万部くらい単行本が毎月売れて生まれる利益と同等です。そして紙の場合はメディアミックスが爆裂している時しか、そんな状態は続きません。長くて数ヶ月。ですが電子はあまり関係ありません。一度プラットフォームのアルゴリズムに乗ってしまえば数年、この状態が続く事も珍しくありません。しかも紙と違って返品もない、断裁費用も、倉庫代もかからない。在庫気にしなくて済むって、商売として最高なんです。 一般には大ヒットと言うと重版が何度もかかり、アニメ化されて関連商品が街に出回ってを想像するかもしれません。


・・・ですが、最近の現場の感覚は違います。今、多くの編集部が目指すのは単月でそれらの売上を長期期間出し続ける作品。それらは毎日約1000作品配信される作品のわずか上位、数作品のみ。 それらをビッグヘッドと最近は呼ぶそうです。 そのビッグヘッドを狙って今、各編集部はしのぎを削っています。

もちろん、それを狙っているのは出版社だけではありません。まずそこに、これまで出版社の下請けとして漫画作品を作っていた各編集プロダクションが競争に加わりました。紙の単行本を出すわけではないので、出版社を介さずに直接電子書店や取次と契約すれば利益率が上がるからです。

さらに、様々な会社が漫画事業を始めました。TV局やゲーム会社、IT、数多のスタート アップ、ベンチャー、もうどこもかしこも漫画編集部を持っています。さらにさらに、電子書店自身もオリジナル作品を自社が抱えた編集部で作るようになりました。 ちなみに現在、この電子書店発の編集部作品が各ストアで上位を占めるようになってきています。彼らが今、圧倒的に強い編集部です。

考えれば当然です。自分たちが作ったプラットフォームですから、あらゆるユーザーデータを知ることが出来ます。そのデータを解析した上で作られたマーケットイン作品なので すから勝率はデータを知らずに作っているところより遥かに高いでしょう。 まあ、それはともかくプレイヤー数は鰻登りです。躍起になって各編集部は作家さんを集め、作品を配信するようになりました。

編集部が増えればデビュー出来る作家の数は増えます。これは作家にとっては良いことです。さらに編集部間の競争によって原稿料や各種条件もじわりじわりと上昇しているようです。これも良いことですね。 ただし、それは市場が順調に成長してたらの話です。昨年、国内の電子漫画市場はピークに達したと思われます。つまりこれまでの市場の成長は見込めなくなったと思われます。

ですが、前述したように編集部の増加は止まっていません。作品の数は2023年よりも増えています。ですがビッグヘッドの枠は増えていません。むしろ出版社など既存の編集部から見れば、目指すべきビッグヘッド枠は電子書店ストアのオリジナル作品によって徐々に減り始めています。 椅子取りゲームの始まりです。そしてついに今年、あちこちの編集部が急激な赤字になり始めていると聞きます。ヒット率が下がり、頼みの既存作の売上も急激に徐々に低下し始めているからです。

特にアーカイブが少ない新設編集部は苦しい。新設編集部は、新刊で稼ぐしかありません。ですがそれらは毎日1000冊以上投入されるのですから・・・ 過去作が少なく、固定費が高い編集部から危険信号が点灯し始めました。これらの変化は恐ろしいことにこの1年ほどで起きたことなのです。特にこの半年の変化が凄まじい。数うちゃ当たるの作戦で、作品を大量投入していた出版社の編集部もヒット率が下がり利益率が下がってきたので、これまでのような作品投入は出来なくなってきました。

それとは逆に電子ストア配下の編集部は勢いづいています。自社ストアで販売するのですから圧倒的に利益率が違います。また、出版社に比べ固定費の低い編集プロダクション達が作品数を増やし始めています。 僕もこの状況はある程度、予想していましたが、思ったより3倍早く訪れました。時間が加速している感じがします。

一方、作家の環境も、それに合わせて激変し始めています。確かに原稿料が出る仕事は溢れていますが、ヒットにありつける可能性がものすごく減っているのです。 競争原理から原稿料や印税率こそ下がりませんが、違う部分が下がっています。例えば作品に対する営業や宣伝コスト。各社、当たるかどうか分からないものに宣伝費をかけなくなってきました。宣伝費や営業コストをかけるのは、ビッグヘッドに成長する可能性がある作品のみ。連載序盤はどこもコストをかけてくれません。

すると99%の作家は打ち切られるか、打ち切られないものの、ずっと原稿料だけに収入を頼る活動を続けることになります。ビッグヘッドになれなければ印税は雀の涙。 作家達は自衛のために、自らSNSで作品を宣伝するようになったのです。

沢山の作家達がSNSに自分の作品を載せるようになりました。SNSに載せてバズると商業作品も多少は動くのです。ですが、そんな作家達はある日思います。あれ?これ自分で直接売った方が儲 かるんじゃ・・・と。 と、編集部からの原稿料を放棄してAmazonインディーズなどに導線を作って自分たちで売るようになりました。

元々、SNS運用が上手な作家達はある日気付きます。原稿料+印税よりも、分配金だけの方があるかに大きいと。 実際にそれで、毎月700万も稼ぐ作家さんが現れました。元々、成人漫画では見られた現象が、ついに一般漫画でも生まれはじめたのです。成功者が現れれば後に続く人たちはさらに増えます。

ただ、それもあっという間に人が溢れると思います。結局、youtuberと同じですね。事務所に所属しているのが芸能人、それ以外がYoutuber。稼ぎとか世の中に対する影響力は大差がなくなってきています。漫画家も同様に商業作家と個人作家の区別はなくなり、どっちも器用に活用するしかありません。では、我々が取るべき生存戦略とは?

結局、自分たちが面白いと思う作品を作り続けるしかないんです。マーケットインで作ろうとしても、市場のスピードが早すぎて、作っているうちに市場は変わってしまいます。 だから、僕たちが出来るのは激しくなる競争の中で、それでもひたすら自分を磨くしかないんです。ひたすらセンスを磨き、技術を磨き、淡々と直向きに創作に向かい合う。出来た作品はその時、最適な場所で読者に届ける。それがSNSなのか電子書店サイトなのか、雑誌なのかは分かりません。

ちなみに僕は最近はもう、どこに載せるかとかを考えて漫画を作っていません。ひたすら面白いと思うものを作って、その時一番、合うと思うサイトに卸す。それだけです。まあ、僕たちも生き残るのに必死です。でも、サバイバルを考えるのってワクワクしませんか?僕はこういった状況が大好きです。どうとなってもやっていけると思っています。 まあ、取り留めもないこんな異様に長いX投稿を最後まで読んでくれる勉強熱心な皆さんも、どんな時代でも対応できるでしょう。多分、ここから起きる数年は、漫画業界市場最大の変化になると思います。革命期、動乱期、戦国時代の到来です。ワクワクしますね。今日のコラムでした!


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コメント

ああ
数字なんてどうでもいいけど、数字がないと餓死するんだよなあ
なんやねんこれ
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漫画制作スタジオ株式会社コミックルーム代表取締役社長 マンガ原作者(TSUYOSHI、恩を仇で返された令嬢の家族が黙っている訳がない等) 小学館裏サンデー、マンガワン創刊編集長 漫画業界に対するコラムを書いています。
今、漫画業界に起こっている事|Zoo (石橋和章) 漫画原作者&漫画編集者
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