ロシアをだました? 越境攻撃の内幕は?今後どうなる?
世界に衝撃を与えた“越境攻撃”について、その内幕を知るウクライナ軍の兵士はこう話しました。
アメリカを上回る世界最大の核兵器保有国、そして世界第2位の軍事力を誇るロシアがなぜ、他国の軍に領土を掌握されたのか。
ウクライナの越境攻撃から1か月。
この戦争はどこに向かおうとしているのか。専門家の分析も交え、詳しく解説します。
ウクライナの越境攻撃 何が起きた?
プーチン大統領が、政権幹部との会合でこう批判したのは8月7日でした。
その前日、8月6日にウクライナ軍は北東部スムイ州から国境を越えてロシアのクルスク州に進軍。
ウクライナ軍のシルスキー総司令官は攻撃開始から20日ほどがたった8月27日、1294平方キロメートルの地域(東京23区のおよそ2倍)を制圧し100の集落を掌握、ロシア兵600人近くを捕虜にしたなどとして、成果を強調しました。
ウクライナ軍兵士が語る 越境攻撃の内幕とは?
なぜロシア側は気づけなかったのか。
ロシア西部と国境を接する地域で活動するウクライナ軍部隊で広報を担当する兵士が、NHKの取材に応じ、極秘作戦の内幕を明かしました。
敵はこちらが発したうその情報を信じたのだ。われわれはひそかに無人機や衛星を使ってクルスク州を徹底的に偵察していた。
西側のパートナーは衛星からの詳細な情報を提供してくれた。そうした情報がなければ、今回の作戦はより難しかっただろう。
小さなグループで動き、車も別々で移動するなど、すべてが素早い行動で、ロシア側はこうした動きに気づいていなかった。
現地の司令部などでも兵士や将校は作戦について知らず、考えもしていなかった。正直なところ私も多くの兵士と同様、作戦が開始されてはじめてその存在を知った。
ウクライナ軍は長期間、ロシア側に誤解を与えることで、突撃部隊を集結させているという事実を隠すことができたのだ。
しかし、今回の作戦によって自分たちの大統領が起こした戦争がどのようなものなのか、ようやくわがこととして感じているだろう。戦争が自国の領土にやってきたのだ。
ロシアはウクライナ東部で戦っている一方で、自らの領土を守ることができていない。この作戦は敵の戦意を喪失させるものとしても計画されていた。
ウクライナの越境攻撃 専門家はどう見る?
ウクライナの越境攻撃はロシアにどんな影響を与えたのか。そして、この戦争はどこに向かうのか。3人の専門家に話を聞きました。
「ウクライナ軍による攻撃が始まった後、プーチン大統領が反応するまでに一定の時間がかかりました。
プーチン大統領は、国内で情報を必要以上に開示して社会不安が増大することを懸念していたとみられます。
掌握した地域はロシア軍が占領している面積と比較すればわずかですが、外国の正規軍がロシア領内を地上侵攻するのは第2次世界大戦以来初めてで、決して面積の問題ではありません。
これをプーチン政権が許してしまったということに、大きな政治的インパクトがあると思います」
「プーチン大統領にとって、クルスク州の一部が占領されたというのは非常に体裁が悪いので『ウクライナ軍が侵攻した』ということは言わず、あくまで『テロ』と呼ぶことでその脅威を小さく見せようとしています。
突発的、散発的な攻撃であるとか、テロという形で言いかえて矮小化し、なるべくことを大きくしない形でクルスク奪還を目指そうとしています。
ただ、ウクライナ軍のクルスク州への侵攻によって、どう見てもロシアの領土の一体性と主権は侵害されています」
「ウクライナ側のねらいとしては、ロシア優位の流れをなんとかして変えたいという強い思いがあるのは間違いありません。
下手をするとウクライナ軍の精鋭部隊や欧米から供与された最新式の兵器を失ってしまう可能性も出てくるわけで、ゼレンスキー大統領としては大きな賭けに出たということでもあると思います。
アメリカの大統領選挙でトランプ政権が復活した場合、アメリカが停戦交渉の動きを提示する可能性があります。
ウクライナとしては、欧米からの軍事支援を維持しないと戦えないという弱い部分がありますから、そうしたものを想定せざるをえないのだろうと思います」
「電力インフラへの攻撃で長時間の停電が続き、東部の戦線も思わしくない状況で、ロシアと交渉したほうがいいのではないかという人が、ウクライナ国内で多数ではないものの増加傾向にあります。
空襲警報の生活はもう嫌だと、毎日停電がある生活はうんざりだと、そういう世論が強くなっていけば、国内的に交渉に向けた機運が高まりますし、アメリカがトランプ政権になり、対ウクライナの軍事支援が削減されるということになれば、ウクライナは戦線を維持できないので交渉せざるをえません。
ただ、2014年、2015年もそうですが、軍事的に追い込まれた状況下での交渉でウクライナが得たものというのはほとんどありません。
そうした状況下での交渉というのは、ウクライナがロシア側の条件を飲まされるだけなので、そこへ向けていろんな保険をかけている状態だと思います」
「国民や支援する欧米の国々の間で、これだけ支援しているのに結局だめじゃないかというような空気があったのに対し、ウクライナがまだまだやれるということを見せるのは一見、精神論のようではありますが、大きな戦略的インパクトがあったと思います。
ただ、一番大きいのはアメリカに対するメッセージだと思います。
『ロシアとのエスカレーションを恐れて長距離ミサイルの使用などに制限をかけているがそれは幻想だ』、『ロシア本土が侵攻を受けてもプーチンは核兵器を使えていないでしょ』と。
アメリカの政策決定者に対してなのか、次期政権に対してなのかわかりませんが、私がゼレンスキー大統領の声明から一番強く感じるのはそういうことです。
もし停戦の話が具体的になった場合、ロシア側からは併合した領土は当然のこととして、軍備制限や非同盟などウクライナの主権に対して制限を加えたいということを必ず言ってきます。もしそれを飲めば、ウクライナはロシアに何をされても全く逆らえない国になってしまいます。
こうした主権に関する条項にロシアが介入してきて、ウクライナを属国化するというような事態を避けるために、今回占領した土地を“人質”とする可能性もなくはないですが、やはりあまりにも領域として小さすぎて、これだけで取引のチップになるとは考えにくいというのが、現状の私の見方です」
「2020年にロシアが公開した核ドクトリンの中では、核使用条件の1つを『通常兵器によってロシアが侵略され、国家の存在が危機的になったとき』と定めています。
この2年間、ロシアはウクライナのザポリージャ州やヘルソン州を占領、違法に併合したとき、ウクライナに軍事支援を与える欧米に対して核使用の可能性を示唆し、核の脅しを使ってきましたが、今回アメリカの当局の発表でもロシアが核使用の準備をしている兆候はありません。
これまでウクライナへの軍事支援の中で、ロシアから報復があるのではないかという懸念が、常に欧米諸国の足かせとなってきましたが、今回のロシアの対応はこれを見直す議論のきっかけになるのではないかと思います」
「ウクライナは、交渉で最も重要なことは、その時点の軍事的ポジションと、どういう交渉カードを用意できるかだと、よく分かっていると思います。
ロシアの一定地域を占領しておくことで、将来ありえるロシアとの交渉に向けてカードを用意しておく。軍事的なメリットを得るよりも、政治的な目的がかなり強い作戦ではないかと思っています。
停戦交渉が行われるかどうかはまだわかりません。
1年、2年のポーズ(一時停止)が必要だと合意できれば、動くかもしれませんが、私は可能性が低いと思っています。
停戦できたとしてもあくまでその場しのぎで、ロシアが軍事力を復活させて再び侵攻してくることも大いに考えられます」
「この戦争全体の軍事的な帰すうを決するのはやっぱり東部戦線なんです。
この東部戦線でロシア軍の進撃をどこで止められるのか。止められなければ、本当にウクライナという国が半分ぐらいロシアに占拠されちゃう可能性が見えてくるわけです。
それは避けなければいけないんだけれども、ウクライナに果たしてその能力があるかどうかです。これが、秋になって地面がぬかるんで大規模な軍事作戦が止まるまでの、ここから先、長く見積もって3か月、現実的には2か月ちょっとぐらいの焦点になってくると思います。
ウクライナのクルスク作戦の勢いは止まりつつあるように見えます。
このまま止まってしまい、アメリカからも大規模な武器の使用制限の緩和といった話が来ず、プーチン大統領も停戦の話を始める様子もないとなれば、この作戦は軍事的に失敗ではないにしても、政治的には全然成果がなかったということになります。
そういう終わり方になってしまうのか、何らかの形でウクライナを利するような着地点があるのかどうかにも注目しています」
取材を終えて
この1か月、専門家やウクライナ政府高官からその狙いについてさまざまな見方が示される中、ゼレンスキー大統領が8月28日に首都キーウで行った会見で「終戦計画の一環だ」と“枠付け”したことでよりクリアになった気がする。
私は6月下旬からキーウを訪れ取材を始めたが「終戦計画」という言葉をウクライナ側から聞く機会が多くなった。
この「終戦計画」は「ロシア軍の撤退」「領土の奪還」など、ウクライナが望む条件で戦争を終わらせるためのシナリオが描かれていると思われるものの、詳しい内容はまだわからない。
それでも越境攻撃によって支援疲れが続く欧米側を刺激したことは間違いなく、この流れでウクライナ勝利のシナリオを打ち出すことでウクライナ支持の国際世論を高め、軍事支援の継続、強化を引き出すことが、ゼレンスキー大統領の最初の狙いか。
また、近しい人を失い、ミサイルにおびえる日々を過ごすなど、戦争疲れが顕著なウクライナ国民向けにも、先に見える「出口」を示すことが大事なのだ。
ただ、ロシアは現状においてウクライナと停戦する意思はなく、自分たちにとって有利な環境を整えようと東部戦線での攻勢をいっそう強めている。
われわれが「終戦」の現実を目の当たりにするのはまだ先のことになると思わざるをえない。
松尾 寛
1996年入局 熊本局 新潟局 国際部を経てモスクワ支局などを歴任
現在は国際部で欧州ロシア担当のデスク
ロシアによるウクライナ侵攻などのニュースを担当
木村 和穂
2009年入局 ヒューマンドキュメンタリーの制作に主に従事
軍事侵攻以降ウクライナ取材を継続
好きなウクライナ料理はボルシチとサーロ(豚の脂身の塩漬け)
横山 寛生
2014年入局 札幌局や山口局などを経て2022年から現所属
学生時代にロシア語を学ぶ
金 知英
2014年入局 福岡局を経て2019年から国際部
朝鮮半島情勢を取材
海老塚 恵
2018年入局 京都局を経て2023年8月から現所属
ウクライナ情勢のほかアメリカ、国連などを中心に取材
WEB
特集 ロシアをだました? 越境攻撃の内幕は?今後どうなる?
「ロシアはうその情報を信じ、われわれの動きに気づいていなかった」
世界に衝撃を与えた“越境攻撃”について、その内幕を知るウクライナ軍の兵士はこう話しました。
アメリカを上回る世界最大の核兵器保有国、そして世界第2位の軍事力を誇るロシアがなぜ、他国の軍に領土を掌握されたのか。
ウクライナの越境攻撃から1か月。
この戦争はどこに向かおうとしているのか。専門家の分析も交え、詳しく解説します。
ウクライナの越境攻撃 何が起きた?
プーチン大統領が、政権幹部との会合でこう批判したのは8月7日でした。
その前日、8月6日にウクライナ軍は北東部スムイ州から国境を越えてロシアのクルスク州に進軍。
ウクライナ軍のシルスキー総司令官は攻撃開始から20日ほどがたった8月27日、1294平方キロメートルの地域(東京23区のおよそ2倍)を制圧し100の集落を掌握、ロシア兵600人近くを捕虜にしたなどとして、成果を強調しました。
ウクライナ軍兵士が語る 越境攻撃の内幕とは?
なぜロシア側は気づけなかったのか。
ロシア西部と国境を接する地域で活動するウクライナ軍部隊で広報を担当する兵士が、NHKの取材に応じ、極秘作戦の内幕を明かしました。
敵はこちらが発したうその情報を信じたのだ。われわれはひそかに無人機や衛星を使ってクルスク州を徹底的に偵察していた。
西側のパートナーは衛星からの詳細な情報を提供してくれた。そうした情報がなければ、今回の作戦はより難しかっただろう。
小さなグループで動き、車も別々で移動するなど、すべてが素早い行動で、ロシア側はこうした動きに気づいていなかった。
現地の司令部などでも兵士や将校は作戦について知らず、考えもしていなかった。正直なところ私も多くの兵士と同様、作戦が開始されてはじめてその存在を知った。
ウクライナ軍は長期間、ロシア側に誤解を与えることで、突撃部隊を集結させているという事実を隠すことができたのだ。
しかし、今回の作戦によって自分たちの大統領が起こした戦争がどのようなものなのか、ようやくわがこととして感じているだろう。戦争が自国の領土にやってきたのだ。
ロシアはウクライナ東部で戦っている一方で、自らの領土を守ることができていない。この作戦は敵の戦意を喪失させるものとしても計画されていた。
ウクライナの越境攻撃 専門家はどう見る?
ウクライナの越境攻撃はロシアにどんな影響を与えたのか。そして、この戦争はどこに向かうのか。3人の専門家に話を聞きました。
「ウクライナ軍による攻撃が始まった後、プーチン大統領が反応するまでに一定の時間がかかりました。
プーチン大統領は、国内で情報を必要以上に開示して社会不安が増大することを懸念していたとみられます。
掌握した地域はロシア軍が占領している面積と比較すればわずかですが、外国の正規軍がロシア領内を地上侵攻するのは第2次世界大戦以来初めてで、決して面積の問題ではありません。
これをプーチン政権が許してしまったということに、大きな政治的インパクトがあると思います」
「プーチン大統領にとって、クルスク州の一部が占領されたというのは非常に体裁が悪いので『ウクライナ軍が侵攻した』ということは言わず、あくまで『テロ』と呼ぶことでその脅威を小さく見せようとしています。
突発的、散発的な攻撃であるとか、テロという形で言いかえて矮小化し、なるべくことを大きくしない形でクルスク奪還を目指そうとしています。
ただ、ウクライナ軍のクルスク州への侵攻によって、どう見てもロシアの領土の一体性と主権は侵害されています」
「ウクライナ側のねらいとしては、ロシア優位の流れをなんとかして変えたいという強い思いがあるのは間違いありません。
下手をするとウクライナ軍の精鋭部隊や欧米から供与された最新式の兵器を失ってしまう可能性も出てくるわけで、ゼレンスキー大統領としては大きな賭けに出たということでもあると思います。
アメリカの大統領選挙でトランプ政権が復活した場合、アメリカが停戦交渉の動きを提示する可能性があります。
ウクライナとしては、欧米からの軍事支援を維持しないと戦えないという弱い部分がありますから、そうしたものを想定せざるをえないのだろうと思います」
「電力インフラへの攻撃で長時間の停電が続き、東部の戦線も思わしくない状況で、ロシアと交渉したほうがいいのではないかという人が、ウクライナ国内で多数ではないものの増加傾向にあります。
空襲警報の生活はもう嫌だと、毎日停電がある生活はうんざりだと、そういう世論が強くなっていけば、国内的に交渉に向けた機運が高まりますし、アメリカがトランプ政権になり、対ウクライナの軍事支援が削減されるということになれば、ウクライナは戦線を維持できないので交渉せざるをえません。
ただ、2014年、2015年もそうですが、軍事的に追い込まれた状況下での交渉でウクライナが得たものというのはほとんどありません。
そうした状況下での交渉というのは、ウクライナがロシア側の条件を飲まされるだけなので、そこへ向けていろんな保険をかけている状態だと思います」
「国民や支援する欧米の国々の間で、これだけ支援しているのに結局だめじゃないかというような空気があったのに対し、ウクライナがまだまだやれるということを見せるのは一見、精神論のようではありますが、大きな戦略的インパクトがあったと思います。
ただ、一番大きいのはアメリカに対するメッセージだと思います。
『ロシアとのエスカレーションを恐れて長距離ミサイルの使用などに制限をかけているがそれは幻想だ』、『ロシア本土が侵攻を受けてもプーチンは核兵器を使えていないでしょ』と。
アメリカの政策決定者に対してなのか、次期政権に対してなのかわかりませんが、私がゼレンスキー大統領の声明から一番強く感じるのはそういうことです。
もし停戦の話が具体的になった場合、ロシア側からは併合した領土は当然のこととして、軍備制限や非同盟などウクライナの主権に対して制限を加えたいということを必ず言ってきます。もしそれを飲めば、ウクライナはロシアに何をされても全く逆らえない国になってしまいます。
こうした主権に関する条項にロシアが介入してきて、ウクライナを属国化するというような事態を避けるために、今回占領した土地を“人質”とする可能性もなくはないですが、やはりあまりにも領域として小さすぎて、これだけで取引のチップになるとは考えにくいというのが、現状の私の見方です」
「2020年にロシアが公開した核ドクトリンの中では、核使用条件の1つを『通常兵器によってロシアが侵略され、国家の存在が危機的になったとき』と定めています。
この2年間、ロシアはウクライナのザポリージャ州やヘルソン州を占領、違法に併合したとき、ウクライナに軍事支援を与える欧米に対して核使用の可能性を示唆し、核の脅しを使ってきましたが、今回アメリカの当局の発表でもロシアが核使用の準備をしている兆候はありません。
これまでウクライナへの軍事支援の中で、ロシアから報復があるのではないかという懸念が、常に欧米諸国の足かせとなってきましたが、今回のロシアの対応はこれを見直す議論のきっかけになるのではないかと思います」
「ウクライナは、交渉で最も重要なことは、その時点の軍事的ポジションと、どういう交渉カードを用意できるかだと、よく分かっていると思います。
ロシアの一定地域を占領しておくことで、将来ありえるロシアとの交渉に向けてカードを用意しておく。軍事的なメリットを得るよりも、政治的な目的がかなり強い作戦ではないかと思っています。
停戦交渉が行われるかどうかはまだわかりません。
1年、2年のポーズ(一時停止)が必要だと合意できれば、動くかもしれませんが、私は可能性が低いと思っています。
停戦できたとしてもあくまでその場しのぎで、ロシアが軍事力を復活させて再び侵攻してくることも大いに考えられます」
「この戦争全体の軍事的な帰すうを決するのはやっぱり東部戦線なんです。
この東部戦線でロシア軍の進撃をどこで止められるのか。止められなければ、本当にウクライナという国が半分ぐらいロシアに占拠されちゃう可能性が見えてくるわけです。
それは避けなければいけないんだけれども、ウクライナに果たしてその能力があるかどうかです。これが、秋になって地面がぬかるんで大規模な軍事作戦が止まるまでの、ここから先、長く見積もって3か月、現実的には2か月ちょっとぐらいの焦点になってくると思います。
ウクライナのクルスク作戦の勢いは止まりつつあるように見えます。
このまま止まってしまい、アメリカからも大規模な武器の使用制限の緩和といった話が来ず、プーチン大統領も停戦の話を始める様子もないとなれば、この作戦は軍事的に失敗ではないにしても、政治的には全然成果がなかったということになります。
そういう終わり方になってしまうのか、何らかの形でウクライナを利するような着地点があるのかどうかにも注目しています」
取材を終えて
この1か月、専門家やウクライナ政府高官からその狙いについてさまざまな見方が示される中、ゼレンスキー大統領が8月28日に首都キーウで行った会見で「終戦計画の一環だ」と“枠付け”したことでよりクリアになった気がする。
私は6月下旬からキーウを訪れ取材を始めたが「終戦計画」という言葉をウクライナ側から聞く機会が多くなった。
この「終戦計画」は「ロシア軍の撤退」「領土の奪還」など、ウクライナが望む条件で戦争を終わらせるためのシナリオが描かれていると思われるものの、詳しい内容はまだわからない。
それでも越境攻撃によって支援疲れが続く欧米側を刺激したことは間違いなく、この流れでウクライナ勝利のシナリオを打ち出すことでウクライナ支持の国際世論を高め、軍事支援の継続、強化を引き出すことが、ゼレンスキー大統領の最初の狙いか。
また、近しい人を失い、ミサイルにおびえる日々を過ごすなど、戦争疲れが顕著なウクライナ国民向けにも、先に見える「出口」を示すことが大事なのだ。
ただ、ロシアは現状においてウクライナと停戦する意思はなく、自分たちにとって有利な環境を整えようと東部戦線での攻勢をいっそう強めている。
われわれが「終戦」の現実を目の当たりにするのはまだ先のことになると思わざるをえない。
松尾 寛
1996年入局 熊本局 新潟局 国際部を経てモスクワ支局などを歴任
現在は国際部で欧州ロシア担当のデスク
ロシアによるウクライナ侵攻などのニュースを担当
木村 和穂
2009年入局 ヒューマンドキュメンタリーの制作に主に従事
軍事侵攻以降ウクライナ取材を継続
好きなウクライナ料理はボルシチとサーロ(豚の脂身の塩漬け)
横山 寛生
2014年入局 札幌局や山口局などを経て2022年から現所属
学生時代にロシア語を学ぶ
金 知英
2014年入局 福岡局を経て2019年から国際部
朝鮮半島情勢を取材
海老塚 恵
2018年入局 京都局を経て2023年8月から現所属
ウクライナ情勢のほかアメリカ、国連などを中心に取材