非営利団体Internet Archive、大手出版社に敗れる。著作権侵害とフェアユースのバランスとは

大手出版社との訴訟で控訴していたInternet Archive。デジタル書籍貸出のフェアユースに関する主張をしていたが、これが退けられた。結果に対し、関係者からは賛否両論の反応が上がっている。
Photograph: Getty Images

非営利団体のInternet Archive(インターネットアーカイブ)は、インターネットの歴史の行方に大きな影響を与える可能性のある重要な訴訟に敗訴した。9月4日(米国時間)、米国第2巡回区控訴裁判所は、Internet Archiveの長年にわたるデジタルアーカイブに反対する判決を下し、「アシェット対Internet Archive」事件における以前の判決を支持した。先の判決は、Internet Archiveの書籍デジタル化プロジェクトのうち、1件が著作権法に違反しているというものだった。

特に注目すべきは、控訴裁判所の判決は、Internet Archiveの貸出慣行がフェアユースによって保護されるという主張を退けたことである。フェアユースの原理は、特定の状況下で著作権侵害を許容するが、控訴審はこの論点を「説得力に欠ける」と評し認めなかった。

コロナ禍で生まれた「緊急図書館」

2020年3月、サンフランシスコを拠点とするInternet Archiveは、National Emergency Library(NEL)と呼ばれる緊急図書館プログラムを立ち上げた。パンデミックによる図書館閉鎖により、学生や研究者、読者は何百万冊もの書籍にアクセスできなくなっていた。そこでInternet Archiveは、自宅にいながら必要な書籍にアクセスしたいという、一般の人々やほかの司書からの要請に応えたと述べている。

NELは、Internet Archiveが図書館の書籍の現物をスキャンし、電子書籍ではなく通常の読書材料としてデジタルコピーを貸し出すという、進行中のデジタル貸出プロジェクト「Open Library」から派生したものである。Open Libraryでは、書籍は1人ずつしか貸し出せなかったが、NELではこの比率のルールを撤廃し、代わりにスキャンされた書籍を一度に多数の人が借りられるようにした。

NELは、立ち上げ直後に反発の的となった。一部の著者は、これは海賊行為に等しいと主張した。これを受けて、Internet Archiveは2カ月以内に緊急策を中止し、貸出上限を復活させた。しかし、すでに損害は出ていた。20年6月、アシェット、ハーパーコリンズ、ペンギン・ランダムハウス、ワイリーなどの大手出版社が訴訟を提起した。

23年3月、地方裁判所は出版社側の主張を認める判決を下した。ジョン・G・コルトル判事は、Internet Archiveが「派生著作物」を作成したとし、そのコピーや貸し出し行為には「何ら変革をもたらす要素はない」と判断した。アシェット対Internet Archiveの略式判決後、当事者間で条件交渉がされた。その詳細は公表されていないものの、Internet Archiveは依然として控訴した。

コーネル大学でデジタルおよびインターネット法を教えるジェームズ・グリメルマン教授は、最近のフェアユースの解釈を踏まえると、この判断は「それほど驚くべきことではありません」と話す。

Internet Archiveは控訴審によって、ある意味“勝利”も収めている。第2巡回控訴裁判所は地方裁判所の当初の判決を支持したが、Internet Archiveを営利団体とは見なさないことを明確にし、同団体が明らかに非営利組織であることを強調した。グリメルマンはこの判断を正しいと見ている。「第2巡回控訴裁判所がその誤りを修正したことを喜ばしく思います」と話す。彼は、その用途を商業的と分類することは誤りであると主張する第三者意見募集制度(アミカスブリーフ)に署名している。

判決には賛否の反応

「今回の控訴審判決は、著作者や出版社が書籍やそのほかの著作物に対してライセンスし、その対価を受け取る権利を支持するものです。著作権侵害には多大なコストがかかるだけでなく、公共の利益にも反するということを明確に示しています」と、米国出版社協会(AAP)の会長兼最高経営責任者(CEO)であるマリア・A・パランテは声明でこう述べた。「もし疑いがあるとしたら、裁判所はフェアユースの法理の下では、著者の著作権の重要な一部である派生作品の価値を無断で利用したり、作品全体を新しいフォーマットに変換したりしても、何ら創造的な変化をもたらすことはないことを明確にしています」

Internet Archiveのライブラリーサービス部門ディレクターであるクリス・フリーランドは「(Internet Archive以外でも)電子的に利用可能な書籍を、Internet Archiveがデジタル貸し出ししていることに関する今回の判決」に失望していると声明で述べた。「わたしたちは裁判所の意見を検討しており、今後も図書館が書籍を所有、貸し出し、保存する権利を擁護していくつもりです」

また、書籍へのデジタルアクセスの拡大を頻繁に提唱している非営利団体、Author's Allianceのエグゼクティブ・ディレクターであるデイブ・ハンセンも、この判決に反対している。「作家は研究者であり、読者でもあります」と彼は言う。「Internet Archiveのデジタル図書館は、作家が新しい作品を生み出す手助けとなり、また、自身の作品が読まれることを望む作家の利益をサポートしています。今回の判決は大手出版社や著名な作家にとっては利益となるかもしれませんが、ほとんどの人にとっては、利益よりも損害のほうが大きいでしょう」

終わらない法的問題

Internet Archiveの法的問題はまだ終わっていない。23年には、ユニバーサルミュージックグループやソニーを含む音楽レーベルのグループが、音楽デジタル化プロジェクトに関する著作権侵害でInternet Archiveを提訴した。この訴訟は現在も裁判所で審理中である。損害賠償額は最大4億ドル(約573億円)に上る可能性があり、Internet Archiveにとっては存続の危機となる可能性もある。

著作権法にとって特に波乱含みの時期に下された今回の新たな判決。過去2年間に、生成AI(人工知能)ツールを提供する大手AI企業に対して数十件の著作権侵害訴訟が起こされており、これらの訴訟の被告の多くは、AIトレーニングにおける著作権データの使用はフェアユースの原則に守られていると主張している。そのため、裁判官がフェアユースの主張を否定するような大きな訴訟は、注目を集めている

またこの判決は、デジタル上での文化保存活動におけるInternet Archiveの重要性が強く認識されている時期に下された。ウェブサイトのコピーをカタログ化するInternet Archiveの「Wayback Machine」は、ジャーナリストや研究者、弁護士、そしてインターネットの歴史に関心をもつ人々にとって欠かせないツールとなっている。米国議会図書館による国家的な取り組みをはじめ、デジタル保存プロジェクトは他にもあるが、一般に公開されているものは他に類を見ない。

(Originally published on wired.com, translated by Eimi Yamamitsu, edited by Mamiko Nakano)

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