デジタル庁「運用コスト3割減」主張も実態は2~4倍増…関係者「8割は日本の自治体に不必要」なAWSを使わざるを得ない自治体の怒り

 政府が情報管理の効率化のために整備する「ガバメントクラウド」。省庁、自治体が個別運用してきた管理システムを、クラウド上の共通サービスに移し2025年度までに運用経費を20年度比で3割減らす目標だ。しかし、これがなかなかうまくいってない。なぜなのか。元経済誌プレジデント編集長と作家の小倉健一氏が解説する。全3回の第1回目。

目次

経費削減のはずが「移行前の2~4倍のコストに!?」

 2025年度末までに、全国1741の自治体が業務システムを標準化する「自治体システム標準化」が進められている。デジタル庁が整備している「ガバメントクラウド」を活用することで、システムの運用コストを下げることを目指しているが、実際にはいくつかの自治体で、移行前の2~4倍にコストが跳ね上がるという試算や見積もりが出ており、困っている状況だ。

  例えば、愛知県一宮の中野正康市長が4月5日付で作成した資料(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_gyozaikaikaku/jyunnbi1/jyunnbi6.pdf)によれば、コストが4倍になることなど、以下のような問題が指摘されている。

<オンプレからガバクラへ移行する自治体は大幅(コスト)アップ(当市:5千万円→2億円)>

<外資ガバクラの、従量課金、為替相場による変動は、予算立てが難しい>

<インシデント対応など、住民サービスに直結する基幹業務であり、最大の関心事項>

<移行完了目標時期が最優先では、モダン化できないままの移行、非効率となるおそれ>

<国産事業者の育成など、競争環境に向けた整備を期待>

 ()内は筆者が補った。ITに詳しい市長が実名でつくった資料とあって、専門用語もあり、外資の名指しを避けているようだ。何が言いたいかわかる人には分かればいいと考えたのだろうが、読者にはわかりにくいだろう。中野市長は、次のようなことを主張していると思われ、筆者の責任で書き換えてみる。

ガバメントクラウドの運用にかかる費用が増加している理由は
 

<ガバメントクラウドへの移行に関して、現在自治体が自前で運用しているシステム(オンプレ)からガバメントクラウドへ移行すると、費用が大幅に増加する。現在のシステム運用費用が5千万円であるのに対し、ガバメントクラウドに移行すると約2億円に跳ね上がってしまう。この費用の増加は、自治体にとって大きな負担となる。アマゾン(AWS)が提供するガバメントクラウドでは、利用した分だけ料金がかかる従量課金制度や、為替相場の変動によって料金が変わるため、予算を立てるのが非常に難しい。ガバメントクラウドに移行するシステムは、住民の生活に直結する重要な業務を支えるものであり、問題が発生した際の対応が非常に重要である。デジタル庁は、時間がない中で、期限厳守を言い続けているが、かえって効率が悪くなる可能性が高い。アマゾンが業務を独占している状況ではダメで、国内の事業者を育てるなどして競争させないとダメ>

 中野市長の指摘は、河野太郎デジタル大臣率いるデジタル庁の問題の本質を捉えている。ガバメントクラウドの運用にかかる費用が増加している理由はいくつかある。

 まず、初期コストの問題だ。デジタル庁が求める期限内でのシステムを移行を達成するために、ほとんどの自治体は現在の事業者に頼らざるを得ない状況にあり、その結果、費用が下がらず、高いまま維持されるケースが続いている。加えて、回線の準備やクラウドサービスの利用、アプリの管理を行うために、ガバメントクラウドのための「運用管理補助者」という新たな役割が必要となり、その分等の追加費用が発生している。これらの整備にかかる一時的な経費については国からの補助が行われているが、補助金だけでは足りず、さらに5000億円の補正予算が組まれる事態に至った。それでも、依然として資金が不足しているとの声が多く、地方自治体の財政が厳しい状況に置かれている。

ほとんどの自治体が『アマゾン』のサービスを使わざるを得ない状況

 次に、運用コストの問題だ。ガバメントクラウドは外国の4つの会社(アマゾン、マイクロソフト、GCP、OCI)から選ばれたサービスを利用することになっているが、その中でもほとんどの自治体が『アマゾン』の『AWS』というクラウドサービスを使わざるを得ない状況にある。これは、自治体が使っているアプリケーションの多くが、『AWS』でしか動作保証がないためであり、結果として、自治体はクラウドを自由に選べず、競争がないために費用が高止まりしてしまっている。さらに、『AWS』には多くの機能があるが、自治体では「その中の約2割しか使われていない」という声をよく聞く。

 つまり、多くの機能に対してお金を払っているにもかかわらず、その大半を活用できていないため、結果としてコストが増加している。この2割しか使っていない。つまり、ガバメントクラウドの8割は不要な機能であるかもしれないという指摘は、これまで筆者が折に触れて指摘を続けてきたものなのだが、こうした声を気にしてか、デジタル庁はこのようなリリースをしている。

この逆転現象は、一体どういうことなのか。その「カラクリ」は…

 時事通信iJAMP(7月8日)の記事『ガバクラ機能、地方で85%利用=デジタル庁が初調査』によると、むしろ使っているのが8割強で、使われていないのが2割弱と、まるで筆者の指摘の逆さまのような結果を発表している。この記事を具体的に引用してみよう。

<国と地方自治体の共通クラウド基盤「ガバメントクラウド(ガバクラ)」の機能(技術要件)のうち、86.6%に当たる264項目で利用実績があることがデジタル庁による初の調査で分かった。地方に限ると84.9%(259項目)。ガバクラはオーバースペック(過剰性能)との批判があるが、実際は情報セキュリティーやデータベースを中心に大半の機能が利用されている>

<ガバクラについては、21年に行った8自治体・グループの先行事業検証結果を基に、約8割の機能が使われていないとの批判があった。今回の調査結果について、デジタル庁関係者は「技術要件はガバクラに必要なもの。決してオーバースペックではないことが示された」と話している>

 この逆転現象は、一体、どういうことなのか。その「カラクリ」は、記事内の別の箇所にある。

<高い安全性が求められるガバクラの技術要件は305項目に及ぶが、デジタル庁はこのうち何項目が実際に使われているかを6月25日時点で調べた。調査はガバクラの大半を占めるAWSを導入した130自治体が対象で、1システム・団体でも機能を使っていれば利用実績に含めた>デジタル庁は、調査で<1システム・団体でも機能を使っていれば利用実績に含めた>のだという。一度だけ使ってみて、もう2度と使うことがない機能でも利用実績に換算してしまっている。これは、単純に利用実績をかさ増しするための姑息な調査と言わざるを得ない。

実証実験で使ったことを1回のシステム利用としてカウント

 例えば、調査対象となっている笠置町(京都府相楽郡)だ。笠置町はガバメントクラウド及び標準準拠システムを利用することが、4府県38市町村にとって、さらにどのような費用をどの程度圧縮することに貢献するのか、先行事業を通して分析・検証するとして、あらゆる機能を実証実験のために利用している(ガバメントクラウド先行事業(市町村の基幹業務システム等)の中間報告)。

 つまり、実証実験で使ったことを1回のシステム利用としてカウントしているわけだ。そんなことをしてしまえば、利用実績などいくらでもかさ増しできるのは明白だ。さらに、その報告書内の「投資対効果の検証」が記載されており、神戸市、盛岡市で経費が削減できるかのように述べられている。これは全面的にインチキと言っていい。そのインチキの根拠となるのが、報告書内で、控えめなフォント数(文字の大きさ)で書かれた「為替レートは、令和3年(2021年)度に実施した計画時の試算で用いたUS$1 =¥115 とする」という文言だ。
ほとんどの自治体が米国にあるアマゾンのAWSを利用するのだから、コストは為替レートに大きく影響されるのは明らかだ。現状の為替レートを考えても、コストは2割、3割は上昇している。

「このままでは、ガバメントクラウドに移行せず、既存のシステムを利用したほうがコストが安くなってしまう。ガバメントクラウドの技術要件はアマゾンの提供するAWSに準拠したものだが、約8割は日本の自治体に現状必要ない。この不要な技術要件がAWSの独占を生み、国産クラウド育成を阻んでおり、コストを著しく上昇させている」(デジタル庁関係者)河野太郎デジタル大臣率いるデジタル庁は、解体的出直しが必要だ。

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