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くまクマ熊ベアー 作者:くまなの

クマさん、新しい依頼を受ける


 846/846

822 クマさん、今後の方針を決める

「それで、あなたたちは、これからどうするの? ベルトラ草は、魔物がいて採取はしてないんでしょう」

「二人が巨大スネイクを倒してくれたから、ベルトラ草の採取に行こうと思う。マーネさんに作ってもらうにしてもベルトラ草は必要だから」


 確かに、マーネさんに薬を作ってもらうにしても薬草は必要だ。


「場所さえ教えてくれたら、わたしたちが採取してくるわよ」


 マーネさんなら、ベルトラ草がどんな薬草なのか知っている。代わりに採取してくることはできる。


「気持ちはありがたいが、少し見つけにくい場所にあるから、俺たちが採取に行ったほうが速い」

「でも、魔物がいて採取はできなかったんでしょう」


 薬草を採取する近くまで行ったけど、魔物がいて採取ができなかったと言っていた。


「巨大スネイクから2日ほど逃げ回っていたから、魔物も移動しているかもしれない」


 つまり、行ってみないと分からないってことだ。


「確認だけど、あなたたちの実力は? さっきは採取するだけなら2人のだけの方がいいって言っていたけど。もしもの場合、魔物と戦えないと命に関わるわよ」


 それはマーネさんも人のことは言えないんじゃと、心の中で思ったけど。マーネさんの場合、自分の身が守れないから、護衛としてわたしを雇っている。


「一応、俺たちはDランク冒険者だ。俺は剣を使う。リディアは弓がメインだけど、魔法は少し使えるから、多少は戦える」

「流石にあんな大きなスネイクは無理だけど」


 あれは大き過ぎる。

 ジェイドさんのパーティーぐらいの実力がないと無理だと思う。

 Cランクの実力は欲しい。


「それと、さっきも言ったが、魔物との戦闘は避けている。リディアは目と耳が良くて索敵が得意なんだ。魔物が通った跡とか気付いてくれる」

「魔物が通った跡?」

「足跡とか、木に体を擦り付けた跡、ウルフなら毛が落ちているとか見て、なんとなく魔物が通った場所が分かるのよ。そういった場所を避けて進むの」

「リディアのおかげで魔物を回避できている。どうしても先に進まないと行けないときは、魔物の種類と数を確認して、倒せる魔物と数と判断したら、リディアが弓や魔法で奇襲をかけて、俺が突っ込んで倒す」


 正面から戦うのではなく、遠くから攻撃をして、ダメージを負ったところに攻撃。

 魔物だって、いきなり襲ってくる。

 お互いに正々堂々と戦う必要はない。

 先に見つけたほうが有利に戦うことができる。

 わたしだって、探知スキルで居場所を確認して、先に攻撃を仕掛ける。


「思っていたよりも優秀なのね」

「これしか、戦う方法がないだけさ」


 ちゃんと自分たちの戦い方法を確立しているなら、偉いと思う。

 無理な戦いはしない。


「パーティーを組むことも考えたけど、妹の病気のために他の人を頼めないだろう。頼めたとしても、報酬の分配で言い争いになるかもしれない」

「それに、わたしたちが見つけた薬草の場所を教えることになるから、もしパーティーを解散したあとに冒険者が薬草を採取に来る可能性もあるから」


 確かに、無いとは言い切れない。

 薬草の情報を手に入れることができれば、ゼクトさんたちは不要だ。

 もちろん、そんなことをしない冒険者もいる。

 でも、組んだ冒険者がしないとは言い切れない。

 パーティーを組む相手を間違えれば、薬草を手に入れることができなくなる。


「そうね。森にあるものは誰のものでもない。誰が採取しても、咎められることはないわ」


 マーネさんが言うには、森の中のものは誰のものではない。

 国が管理するならともかく 一番初めに見つけたからと言って、その人のものになるわけでもない。

 だから、なるべく他の人に知られないように対処することは、よくあることだと思う。

 せっかく苦労して見つけたものを他人に奪われたくはない。

 ゲームでも経験値や金稼ぎスポットは知られたくない。奪い合いになるからね。


 一通りに話を聞いたマーネさんは考え込む。


「ユナ、この子たちを連れて行くか、連れて行かないかは、あなたが決めなさい」


 考えていたと思ったら、いきなりそんなことを言い出した。


「わたしが?」

「この中で、一番強いのはあなたよ。ユナにはそれを決める権限がある」

「権限なら、雇い主のマーネさんじゃないの?」

「違うわ。わたしがある権限は頼むだけよ」

「それって、同じじゃ」

「ユナには、それを断る権限がある。雇い主が無理難題を言うかもしれないわ。ユナはそれを断れる。危険な場所にいる場合、一番強い者、経験者が行動を決める権利があると、わたしは思っている。それが、一番、命の危険がないから」


 確かに、ドラゴンを倒せとか無理難題を言われたら断る権利はある。


「もし無理難題を言うなら、それを実行する力がある者を高いお金を払って、雇うのが雇い主の役目よ」


 そのための冒険者ランクだ。

 低ランクでは無理でも、高ランクになれば可能。


「だから、この場で最終決定を決めることができるにはユナなのよ」


 押し付けられていると思うけど、正しい。


「ちなみに、わたしは戦闘では役立たずよ」


 マーネさんは、なぜか胸を張って言う。

 そうは言うけど、スネイクが嫌う液体は役にたった。


「薬草の採取なら、俺たち2人だけで」

「わたしたちに薬草の場所を知られたくない気持ちは分かるわ。でも、さっきの巨大スネイクが、森に入ってすぐの近場に出るなんて異常よ」

「そうなの?」

「この森は深いわ。どれだけ広がっているか分からない。昔にサーニャが召喚鳥を使って調査しようとしたけど、空を飛ぶ魔物に襲われて、すぐに中断したそうよ。ただ、サーニャ曰く、『森はどこまでも広がっていた』と言っていたわ」


 サーニャさん、来たことがあったんだ。

 それとも、王都から召喚鳥を飛ばしたのかな?

 クリモニアまで飛んで来たことがあったから、可能だと思う。


「それがたった2日、森に入っただけで、あんな魔物に襲われるなんて」

「2日?」

「2人は森に入って2日なのか?」

「そうだけど。2人は?」

「……10日です」

「魔物を避けて、遠回りしたせいね。それがユナとあなたたちの実力の差よ」


 褒めてくれるのは嬉しいけど。

 移動はくまゆるとくまきゅうがいてくれたからだ。

 くまゆるとくまきゅうがいなかったら、わたしはともかく、マーネさんは徒歩になり、時間がかかったと思う。


「……兄さん」

「……分かった。彼女……」


 ゼクトさんが、わたしを見る。


「ユナでいいよ」


 マーネさんは年上だから「さん」付け呼びにしたけど、年下のクマの格好した、わたしの呼び方に悩んでいた感じだったので、自分から答える。


「ユナがいいなら、頼む。俺たちも一緒に連れて行ってくれ。もし、危険な状況になったら、俺は見捨てても構わない。でも、リディアだけは守ってくれ」

「……兄さん!」


 わたしが見捨てる前提?

 まあ、ゼクトさんからしたら、2人の妹が大切なんだろう。


「ユナ、それでどうするの?」


 どうするのもなにも、拒否はできない雰囲気でしょう。


 わたしは考える。

 個人的なことを言えば足手まとい。

 わたしのメリットは道案内ぐらいだ。

 もう少しメリットがほしい。


「そうだね。めぼしい薬草とかの生息地を知っていたら、マーネさんに教えてあげて」

「それは……」

「別に奪うつもりはないよ。目的の薬草が手に入れば、この森に来るのは今回が初めで最後だし」

「そうね。わたしには用はないわね。それに、先ほど言ったけど、あなたたちと取り引きができれば問題ないわ。今後、この森の薬草が必要になれば、あなたたちに頼めばいいことだし」

「……分かった。それなら、案内する」


 取り引き成立だ。わたしにメリットはないけど、マーネさんにメリットができたから、よしとする。


「あと、わたしの指示には従ってもらうからね」

「分かった」

「よろしくね。ユナちゃん」


 2人は了承してくれる。

 これも巨大スネイクを倒したおかげみたいだ。

 ちなみに、リディアさんはユナちゃん呼びらしい。


「それじゃ、一緒に行くなら、くまゆるとくまきゅうを紹介するね。黒いクマがくまゆる。白いクマがくまきゅう。わたしの召喚獣だよ。なにもしなければ、襲わないよ。でも、わたしたちに、なにかをしようとしたら、襲うから気を付けてね」


 一応忠告はしておく。

 ゼクトさんたちが襲いかかってくるとは思わないけど。なにが起きるか分からないのが人生だ。

 いきなり、クマの着ぐるみを着せられて異世界に飛ばされることもある。

 それに比べたら、冒険者に襲われる確率のほうが高いと思う。


「くまゆるとくまきゅうね。可愛らしい名前ね」

「この子たちは魔物が近くにいれば教えてくれるから、安心していいよ」

「それじゃ、わたしの出番はないわね」

「でも、なにか気付いたことがあったら教えて」


 話もまとまり、わたしたちは洞窟を抜けることにする。

 わたしはくまきゅうに、マーネさんはくまゆるに乗り、2人は歩く。


「出口まで、どのくらい?」

「そんなに遠くない」

「巨大スネイクに襲われて、少し走った程度だ」


 ゼクトさんの言うとおりに、しばらく歩くと、外の光が見えてくる。

 探知スキルを使う。

 出口の方面には魔物はいない。


「それにしても、本当にスネイクが近寄ってこないな」

「わたしたちが通ったとき、何度も襲われたわ」

「わたしが作った薬よ。効果があるのは当たり前でしょう」


 それ以外にも、くまゆるとくまきゅうがいるから、襲ってこない理由があるかもしれないけど。黙っておく。

 薬が巨大スネイクに効果があったのは事実だ。


 そして、わたしたちは無事に洞窟を出ることができた。


一緒に行くことになりました。


文庫版11巻が予約受付中です。発売日は10/4になります。よろしくお願いします。


※本日より、投稿を水曜日と日曜日に戻させていただきます。

休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合は活動報告やX(旧Twitter)で連絡させていただきます。


【書籍発売予定】

書籍20.5巻 2024年5月2日発売しました。(次巻、21巻予定、作業中)

コミカライズ12巻 2024年8月3日に発売しました。(次巻、13巻発売日未定)

コミカライズ外伝 2巻 2024年3月5日発売しました。

文庫版10巻 2024年5月2日発売しました。(表紙のユナとサーニャのBIGアクリルスタンドプレゼントキャンペーン応募締め切り2024年8月20日、抽選で20名様にプレゼント)(次巻、11巻10月4日発売予定)


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。

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