(時時刻刻)PTA集金、ずさん使途 全国組織で背任、事務局任せの末
ほとんどの学校にあり、保護者と教職員が加入する任意団体「PTA」でお金に関する問題が各地で相次いでいる。解散や脱退の動きもあり、存在意義が問われている。(小林未来、浅田朋範、杉原里美)
■修繕費、30万円のはずが2000万円
8月23日、川崎市であった日本PTA全国研究大会。「ご心配とご迷惑をおかけしておりますことを心からおわび申し上げます」。全国からPTA関係者約3千人が集まる大会の冒頭、太田敬介・日本PTA全国協議会(日P)会長は頭を下げ、組織体制の強化を誓った。
約1カ月前の7月17日、2019~21年度に日Pの常務理事や専務理事を歴任した青羽章仁被告(54)が埼玉県警に背任容疑で逮捕された=後日、同罪で起訴。青羽被告はさいたま市PTA協議会でも会長を務めたことがある「実力者」だった。
立件されたのは、日Pが22年度に発注した、所有ビル「日P会館」(東京都港区)の雨漏り工事。起訴状によると、青羽被告は、自らの利益を得る目的で工務店に代金を水増し請求させ、日Pに約1205万円の損害を与えたとされる。さいたま地検は青羽被告の認否を明らかにしていない。県警は、青羽被告が水増し分を自身が関与する会社を通じて受け取ったとみている。
前年実績を元に当初予算で計上された「修繕費」は30万円。だが、決算時には修繕費の支出が約2千万円となったことで、一部から疑問の声が上がっていた。日Pは、23年9月に開いた記者会見でこう説明していた。雨漏り工事が必要になり、実際に工事を始めると複数箇所に腐食などが見つかり、追加工事を繰り返したため見積もりより大きく上ぶれした――。
青羽被告は常務理事を退任後も「参与」という立場で日Pに残っていた。事務局員に青羽被告の知人が採用されるなど、関係者の一人は「(青羽被告が)事務局を仕切っていた」と話す。
日Pの22年度決算は、修繕費以外の支出も含め約4700万円もの赤字になった。年度途中で収支をこまめに把握せず、青羽被告が「実権」を握る事務局に任せた結果、全体の収支を日Pの幹部らが把握したのは、年度決算の直前だったという。
日Pは、全国の保護者らが支払うPTA会費の一部などをもとに運営している「公益社団法人」だ。ガバナンスに疑問をもつ会員の一部は昨年、会計書類などの閲覧を請求したが、日Pはこれまで一部の資料を除き応じていない。日Pは「(情報閲覧請求について)捜査が落ち着いた段階で法律にのっとり応じる」としている。
青羽被告は以前会長を務めていたさいたま市PTA協議会でも協議会名義の口座から現金485万円を横領したとして、業務上横領の罪で今年7月に起訴されている。
■学校の「財布」扱い、各地で 草刈り機・望遠鏡部品・机・椅子…税金で買うはずが
PTAのお金が学校の「第二の財布」のようにみなされる不適切な取り扱いも各地のPTAで起きている。
23年度に初めて小学校のPTA委員になった兵庫県稲美町の会社員男性(40)は前年度の会計報告を確認したところ、使い道が分からない20万~30万円のお金が「教育振興費」という名目で、学校に渡されていた。PTAの会計資料を作っているのは学校側で、通帳も学校が保管していた。
草刈り機に2万5千円、天体望遠鏡の部品に3万7千円……。教頭に依頼して領収書を確認したところ、税金で購入されるはずの物品を、学校の判断でPTAのお金から購入していた。
本来、公立学校の経費は、学校の設置者が負担することになっている。公立学校が学校経費に当たらない部分について民間から寄付を受ける場合は、自治体が指定する手続きを取らなければならない。
町が全校を調査したところ、他の学校でも、机や椅子などがPTA会費から購入されていたことが判明。町は昨年度末、PTAから寄付を受ける際のルールを定め、学校に通知した。男性は「自分たちの会費が法律や自治体の規則に抵触するかたちで使われていることに憤りを感じる」と話す。
さいたま市の女性(44)は、PTAの広報委員だった一昨年の夏、市立小学校の理科室のカーテンを洗濯した。
この学校では、年度初めの保護者懇談会でカーテンの洗濯係を決めていた。この年はコロナ禍で保護者が集まる機会がなく、PTAの委員が洗濯を担当することになった。女性はカーテン約8枚を近くのコインランドリーで洗った。ただ、コインランドリーで支払った約600円は、どこにも請求していない。PTA本部から「自宅で洗うか、コインランドリーで洗うかご自身の判断でお願いします」と説明されたため、各家庭の自腹だと思っていたという。
さいたま市によると、学校のカーテンを洗濯するために使える予算は「役務費」の一部として計上され、各校に配分されている。ただ、額は限られ、プール清掃やピアノの調律、窓や床の清掃などにかかる費用もこの予算から支出する。予算内でカーテンの洗濯をする場合は原則、市がリスト化した名簿に登録してあるクリーニング業者に学校が依頼して請求書をもらう。
保護者によるクリーニングは、あくまでPTAの善意による活動として「予算外」の扱いになっているとみられ、立て替えた領収書があっても出金することはできない。女性は言う。「保護者の『善意』で成り立つ仕組みはおかしい」
■「教委は『任意』と放置しないで」 識者「ルールづくりや情報公開要求を」
PTAで会計上の不適切な扱いがあったり、不透明な支出があったりするのはなぜなのか。PTA会計に詳しい公認会計士の岩崎淳さんは「長年同じ人に会計を任せていたり、役員のなり手が少なく押しつけ合ったりする状況がある」と指摘する。
一方、担当者が1年で交代するPTAも少なくない。「引き継ぎの時に帳簿が合っていなくても無視するなど、内部統制の仕組みを作る意識に欠けているのではないか」。監査を担当する監事も、不審な点があっても、何も言わないケースが多いという。
不正が起きない仕組みを作るために、岩崎さんは「正確に記録を付け会計担当者以外の目を入れてチェックすることが重要」と指摘。たとえば、文房具など買った物品と領収書は同じ番号をつけて管理し、通帳と印鑑を持っている人は別にし、3~6カ月で区切って第三者がチェックする。「不正が起きる機会をなくし、会計担当者を守ることにもつながる」
そもそもPTAは、保護者ら会員から集めた会費で活動している。「会費を払っている人には、適正に使われているかを知る権利がある」と岩崎さん。「教育委員会は『PTAは任意団体だから』と放置せず、基本的なルールを定めたマニュアルを作ったり、情報公開を求めたりしてほしい。任意団体で起きているお金の不正を問題視することについて、誰も反対しないだろう」
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