星 3話 星



『まさか そなたが…!』

『昨夜時敏堂(シミンダン)にいたのは私です どんな罰も甘んじて受けます


その前に一度 この絵を見てください 何卒 父上をお助け下さい!』


『王世孫に縄をかけろ!!!!!』


『王様!』



※王世孫(ワンセソン):王の孫 王位継承者



左議政(チャイジョン)をはじめ 官僚たちが取りなすものの


英祖(ヨンジョ)は聞く耳を持たない



『王様 父上が死んでしまいます


骨が透けるほど痩せ 息を吸うのもままなりません


私は知っております お祖父様も父上の身が心配なはずです


他でもない お祖父様の息子なのですから…


父上はお祖父様を恨んでおりません!お助け下さい


お祖父様 父上をお許しください!』


『私は誰の父親でもない この国の王だ!』



そこへ 王世子が米びつの中で死亡したとの報告が入る



『王世孫の処罰はなかったことにする 父親がこの子を救ったのだ』



英祖(ヨンジョ)は 僅かに表情を変えたものの 憮然として立ち去る


官僚と従者の行列がこれに続き 民たちもそれぞれの場所へ戻っていく


さめざめと泣くイ・サンの傍には ソン・ソンヨンとパク・テスだけが残った



父との思い出は そんなに多くないが


その1つ1つが イ・サンにとっては二度と得られない幸せな時間だった



『私が… 私が父上を殺した』



自分が王様を説得できなかったという後悔の念で 涙が止まらなかった


そんなイ・サンの傍に いつまでも寄り添う2人だった



民たちの間では 王世子が無くなった以上 その息子である王世孫イ・サンも


間もなく廃位され殺されるだろうと まことしやかに囁かれた



王世孫の友達になったと吹聴するパク・テスは その噂に口をつぐむ


女官見習いだったソン・ソンヨンは 叔父に連れられ


もう一度行首(ヘンス)に会う



※行首(ヘンス):集団のまとめ役 番頭・支配人のような地位



『朝廷に伝手を作るため推薦したのに!


王世孫の逃亡を助け 宮殿を追い出された?!』


『申し訳ございません!』


『私まで罪に問われたらどうする気だ!』


『王世孫は王位に就くお方です 心配なさることは何も…』


『王世子が死んだ今 老論(ノロン)派の次の狙いは王世孫を退けることだ


王世孫のもとに使者が向かった!


なぜか分かるか?王世孫が廃位されるのだ』



王の使者は 恵嬪ホン氏と王世孫に対し


宮殿に戻るようにとの王命を伝える



※恵嬪(ヘビン):亡き王世子の妃



宮殿に戻ることも 王に許しを請うことも


王になることも拒否するという息子に…



『私はあなたを王にしたいのではありません ただ助けたいだけです


家門を守ってほしいわけでも 権力を手にしてほしいわけでもありません


王にならなければ あなたは死ぬしかない それがあなたの運命です』



母の言葉に愕然とするサン



『王世子様は自らの死で あなたを救ったのだと思います


あの方はそういう人なのです


誰よりもあなたのことを大切にしていました


この母を恨むのは一向に構いません ただ…


王世子様は あなたが生きることをお望みのはず


よいか 父の思いに応えたいなら 王位に就くのです


何としても王になり 生き延びるのです』



サンは 米びつの中から聞こえた父の声のひとつひとつを思い返す



「行くのだ 死んではならぬ」


「無事か?そなたは無事なのか?」


「そなたを死なせるわけにはいかぬ」



宮殿に向かう 恵嬪ホン氏と王世孫イ・サンの行列


それを見物する民の中に ソンヨンとテスの姿があった


もはや手の届かないサンに 寂しさを感じて帰ろうととする2人



すると… 行列が止まり サンが駆けてくる!



『行く前に そなたたちに会えてよかった あの後 何もなかったか?』


『ご心配なく 大丈夫です』


『王世孫様こそ大丈夫ですか 罰を受けると聞きました


そんなのデタラメですよね』



大丈夫だと 2人を安心させるサン


しかし 宮殿に入れば もう二度と2人に会うこともなくなる


寂しそうなサンを見て2人は…



『王世孫様が出られないなら 私たちが行きます!』


『僕らが宮殿に行って 王世孫様をお守りします』


『それでは 友達同士 指切りをしよう』



涙がこぼれそうになりながら サンは 2人に小指をさしだした



『親友との約束だ 何があっても必ず守る


きっと生き延びてみせる 必ず来てくれ』


『待っていてください 何があっても今度こそ約束を守ります!』


『王世孫様…』



英祖(ヨンジョ)の前で サンを弁護しようとする恵嬪ホン氏


そんなホン氏を下がらせ 英祖(ヨンジョ)は サンと2人で向かい合う


英祖(ヨンジョ)の前には サンの廃位を願う上奏文の山がある



『王命に背いたうえに民の前で恥を晒したのだ 当然の結果だろう


今夜までに結論を下さねばならぬ この上奏文に何と答えようか』



生き延びようという決意をもって 宮殿に戻ってきたのだ


しかしサンは たちまち窮地に立たされる



『私の願いどおりに結論を出されるのですか』


『妥当であればな』


『私を廃位しないでください』


『なぜだ』


『生きるためです 生きて孝を尽くし 友との約束を守りたいのです』


『待て!それでは通らん!』



王世孫になるということは 国を担うことである


生きたいとか 友との約束とか 自分都合の理由ではだめだと


英祖(ヨンジョ)は厳しく戒める



『そなたの勝手な都合で王になっても 政治を誤り民を苦しめるだけだ』


『では証明します 王世孫に相応しいと証明します いかがですか』


『証明するだと?小賢しい!実に小賢しい!』



何を言っても否定される


サンはそれでも 厳しく恐ろしい祖父から目を逸らさなかった



便殿において 英祖(ヨンジョ)は サンに対する処分を言い渡す



“王世孫は罪人を庇護し 軽率な行動で王室の尊厳を損なった


その罪は重大である しかしこれは王世孫が未熟なためであり


国の根本を揺るがしたとは言えない


晋の陸機が周処を改心させたように


罰を与える代わりに 重い責務を負わせ 王世孫を教化する


よって王世孫を 王位を継ぐ地位とみなし 王世子の責務を負わせる


本日から 王世孫の部屋を東宮殿に移す


王世孫の教育担当を 侍講院(シガンウォン)に格上げし


王世孫の護衛官を 王世子付きに昇格させる”



※侍講院(シガンウォン):教育を司る官庁



本来 王世子の住まいである東宮殿に移るサン


しかし これを不満に思う臣下たちの 抗議の座り込みが続いていた



サンは 後継者として相応しいと証明すべく 文武から芸術に至るまで


早朝から夜中まで精進を続ける



一方テスは 宮殿に入るためには 避けていた去勢をするしかなく


何度も何度も試みるが 恐怖に負けて実行できないでいた


ソンヨンは 行首(ヘンス)の屋敷の前で座り込みをし


再び女官見習いにしてもらおうとしていた



夜になっても勉学に励むサンのもとへ 英祖(ヨンジョ)が現れる


政治とは何か?と聞くと サンは習った通りの模範的な答えを言う


そして 『父上の遺言通り立派な聖君に…』 と口走ってしまう



教育を担当する官僚は凍りつき サンも失言に気づき下を向く


ギロリとサンを睨みつけた英祖(ヨンジョ)は…



『王世子が“聖君になれ”と言ったのか』


『……』


『よかろう では聖君とは何だ』


『民の願いを知ろうとする王のことです』


『民の願いとは何だ』


『それは… 食べ物に困らぬことです』


『では 王が最初にすべきことは何だ』


『税金を減らし 法を整えることです』


『違う! 何だ!』


『その… 民を搾取する官吏を監視し… 刑を軽く…』


『違う!』


『それでは聖君とは… 過度な徴用を減らし生業に専念させ…』


『まるで違う!そんなことも知らずに あんな大口をたたいたのか!』



王の求める答えが何なのか… 官僚たちも戸惑っている


学んできたすべての知識を以ってしても サンには正解が分からない


英祖(ヨンジョ)は 3日のうちに答えを出せと命じ


答えられなければ戯言の罪を問うと言い捨て 帰っていくのだった



書庫の中の書物に いくら目を通しても サンは答えを探すことが出来なかった


そこで 民からの上奏文をすべて読むと言い出す


上奏文の数は とても読み切れる量ではない


しかしサンは たとえ眠らなくても読もうと決意する



官僚たちは この難問に答えることが出来ず サンは失脚するだろうと噂した


教育担当のチェ・ジェゴンは そんなサンを ただ黙って見守っていた


ジェゴンの講義を受けるサンが…



『都では子供たちが 客引きをし僅かな金を稼いでいるとか


なぜ子供たちがそんな仕事を?』


『身寄りがなく貧しいからでしょう 生きるために必死なのです』



ジェゴンは 民の上奏文から知識を得 講義に集中しないサンを戒める


それでもサンは 夜から朝まで 眠る時間を削り上奏文を読み続けた


眠らないばかりか サンは 民が食べているものと同じ粗末な食事をする


そんなサンを心配する恵嬪ホン氏と叔父ホン・ボンハン



『王様は一体 何をお考えなのでしょう』


『初めから廃位するおつもりだったのかも…』



民の食事は不味く 思わず吐き出してしまうサン



『分からない


民と同じものを食べ 民の上奏文を読んでも… 分からない!』



3日が過ぎ サンは英祖(ヨンジョ)の前に…



『申してみよ』


『民のため 王が最初にすべきことは…


貧しい民が両班(ヤンバン)の奴婢になるのを防ぐことです』


『もう一度機会をやる それも大切なことだが 最も重要なことではない


これが最後だ 答えろ』



3日間寝ずに 考え抜いて考え抜いたサンだった



『分かりません いくら考えても答えを出せませんでした』


『3日間 何をしていたのだ 約束通り龍袍を脱げ』



※龍袍(りゅうほう):龍の文様をあしらった皇族の衣装



ここで諦めるわけにはいかなかった


サンは 必死に期間の猶予を願い出る


そんなサンに向かって 英祖(ヨンジョ)は1冊の台帳を放り投げる



『王室の財産を管理する内務庫(ネタンゴ)の台帳だ


報告によると 東宮殿の予算を使い果たしたそうだな


その金を何に使ったのだ!


小遣いが増えて嬉しいか?東宮殿の予算は自分のものとでも思ったか!


3千両もの大金を一体 何に使ったのだ!』



答えられないサンに英祖(ヨンジョ)は失望し


もはや王世孫の資格はないと 宮殿を出るように命じる



聖君になると 父に約束した


宮中で生き延び 必ず待っていると ソンヨンとテスに約束した


そのどちらの約束も守ることが出来ない



サンが出宮する朝 英祖(ヨンジョ)のもとに内官(ネグァン)から報告が入る


3千両の東宮殿の予算の使い道が分かったと…


報告を受けた英祖(ヨンジョ)は 直ちに司憲府(サホンブ)に向かい


そこへ 官僚とサンを呼びつける



※司憲府(サホンブ):不正の摘発・法的処置を行う 司法権を持つ官庁



もう宮殿を去るしかないと落胆していたサンは


戸惑いながら英祖(ヨンジョ)の前に立つ


最後まで語ることのなかった予算の使い道


サンは 子供たちからの上奏文の話をする



『客引きで生計を立てる子供たちがいるのです 
しかし先日 客引きが禁止され


用無しになった子供たちは 清に売られてしまうそうです


ほとんどが身寄りのない子供たちです


彼らの書いた字は 恐怖で震えていました


行けないと分かっていながらも 清への船が出る前に何とかしようと…』



『それで勝手に予算を使い果たしたのか!』


『来年の分を節約して 埋め合わせるつもりでした


申し訳ありません 大罪を犯しました』



もはや厳罰は免れないと覚悟を決め うなだれるサン


英祖(ヨンジョ)は 官僚たちに向かって怒鳴りつける



『その上奏文を なぜ私に見せなかったのだ!!!』


『申し訳ございません!あの上奏文は文章が乱雑で解読できず…』


『たわけたことを!民の声を聞くべき言官(オングァン)が訴えを無視するとは!


上奏文を受けた言官(オングァン)を罷免し!


子供たちを清に売った商人を捕えよ!』



※言官(オングァン):王に対し意見を述べる役職



慌てふためき 命令を遂行するため散っていく官僚たち


サンには 何が何だか分からない



『王世孫を連れて東宮殿へ戻れ』


『はい 王様』



立ち尽くすサンに 英祖(ヨンジョ)は…



『そなたがしたことは まさに政治だ よくやった』


『え…』



厳しくも 満足そうにサンを睨みつけ 英祖(ヨンジョ)は立ち去る


チェ・ジェゴンは 問いの答えを聞かないのですか と王に問う


英祖(ヨンジョ)は サンの代わりに答えよ とジェゴンを促した



『恐れながら… 民のために王が最初にすべきことは


民を慈しむ心を持つことです』


『そうだ 民を思いやり民のために何かをしたいという心 それが政治だ


王世孫は 答える代わりに実践してみせた』



英祖(ヨンジョ)の心が王世孫イ・サンに傾きかけていることに


反勢力は警戒心を強める



『心配するな すべては計画通りに進んでいる 大切なのは次の段階だ


蛙の子は蛙であることを目の当たりにすれば 王の心も変わるはず』



一方 ソンヨンは とうとう行首(ヘンス)の屋敷の前で意識を失い


テスは 叔父パク・タルホを待ち伏せし 宮殿の前で座り込んでいる


タルホはテスの姿に気づき 尚洗(サンセ)ナム・サチョの後ろに隠れた



『まだ粘っているのか』


『あいつが握ってる包みは包丁です』


『困った奴だ』



サチョはテスに食事をさせ 内官(ネグァン)にならなくても


宮中に入る方法があると切り出す



同じ時 ソンヨンは 屋敷の使用人の部屋で意識を取り戻す


外に出ると 使用人の男たちが大量の鉄砲を担ぎ運んでいた


ソンヨンに気づいた男たちは 咄嗟に鉄砲を隠し ソンヨンを追いたてた



ふたたび宮中で 日々の修練が始まったサン



『今日は地方から優秀な子供たちを招き 
王世孫様との討論の場を設けました


討論の前には「四書」や「大学」の考講(コガン)試験があります』


『指定された経書を その場で暗唱するのですね』


『はい 今回は「四書」と「大学」のみで 「周書」は扱いません』



しかし いざ始まってみると サンがまだ習得していない「周書」の問題が…


サンを引き摺り下ろしたい反勢力は 侍講院(シガンウォン)の中にもいたのだ


必死に思い出しながら暗唱するサンだったが とうとう行き詰ってしまう



すると子供たちの中から進み出る者があり スラスラと続きを暗唱し始めた


感心した英祖(ヨンジョ)が この子供に注目する



『名前は?』


『チョン・フギョムです』



英祖(ヨンジョ)は 今後 経典の講釈にはチョン・フギョムを同席させよと命じる



そこへ 内官(ネグァン)が慌てふためいて飛び込んでくる


サンが以前住んでいた王世孫殿の庭から 武器庫が発見されたというのだ


寝耳に水の話に サンは驚くばかりである


しかし 官僚たちは…



『亡き王世子様の仕業に違いありません』


『昨年あった不吉な噂をお忘れですか


王世子様が謀反を企て 武器を確保していると 告発まで至ったあの噂です』


『王世孫殿で武器庫が見つかったことは


王世孫様も 逆賊と内通していた証拠です!』


『王世孫様を呼び 真相を明かすべきです


推鞄庁(チュグクチョン)を設け 謀反の根を絶たねばなりません!』



※推鞠庁(チュグクチョン):特別捜査班



サンは 前王世孫殿へ駆け付ける


庭が掘り返され そこには大量の銃と剣が…!


遅れて現れた英祖(ヨンジョ)は サンを問い詰める



『一体どういうことだ 父に預かるように言われたのか!』


『違います 私は何も知りません!』


『最近まで そなたが寝起きしていた場所だ 知らないはずがない!』


『本当に何も知らないのです


なぜこんなものが ここにあるのか… 信じてください』






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