バイキングの「生中継!日本全国 地引き網クッキング」は、何かをしながら見ていたら思わず手を止めてしまう。画面のあちこちで何かが起こっている。スタジオも食いつくように見ているのがワイプ越しに伝わる。丁寧に準備を整えつつも、「非」予定調和を追求するスピリッツに溢れた企画。
8月13日 少しばかり追記。「やらせ!」は入れとかないとね。
地引き網クッキング
バイキング、坂上忍がMCの月曜日。サンドウィッチマンの「生中継!日本全国 地引き網クッキング」。
もう、Twitterやネット記事で話題になっているけど、まあ、面白い。ながら見してたら手が止まる面白さ。
マツコ・デラックスが「この地引き網のコーナー秀逸だ」と坂上忍が伝えると、サンドウィッチマン富澤も、「芸人の視聴率ハンパないですよ」と言う。3回目にして勢いが凄い。
でも、そんな業界の評判はどうでもいい。
「笑っていいとも」という怪物番組の後で、面白くないだの視聴率が低くて打ち切りの危機だとかごちゃごちゃ御託を並べるまえに、とりあえず見ろ!って感じ。
とにかく、録画してでも見たらいい。趣味が合わなきゃそれまでだけど。
ザ・「テレビ」
とにかく「テレビ」って感じがする。いろんなものがごっちゃになっていて、生で何が起こるか分からなくて、その場その場で変わって行くのが全部見える。
あちこちで何かが起こっている。わらわらと集まる子どもたち、砂浜に座り込むおばあちゃん。海水浴場で地引き網をする人、名産品を売り込む人、太鼓を叩く人、踊る人、旗を振る人。チャンバラする人。
企画自体は、地引き網で捕れた魚を料理するというものだけれど、だいたいなんで地引き網なのか全く意味が分からない(笑)。必然性がない。そこがいい。
ホントくだらねえ!。
丁々発止でボケまくり
サンドウィッチマンは、伊達も富澤もボケまくる。
その人ロケ地のフリップを見せるときから、上下逆、裏にする、水平にしてカメラに見せないわ。ボケだらけ。
地元の人にツッコみまくる。群がる子どもたちに「エルボー食らわせてやりますよ」と富澤が言えば、スタジオの坂上忍から、「料理の先生にもエルボーしといて」と、丁々発止。
素人いじりのサンドウィッチマン
富澤:後ろでスケベな女たちが踊ってますけどね。
伊達:若い人一人も居ませんでした。みんな腕にBCGの跡あります。
2人は強面だけれど愛嬌があって、地元の素人とも存分に絡む。ぼんやり~ぬTVでのロケの経験が生きているという声を聞く。
そういえば、サンドのライブには、必ず見に来る小島さんという素人の方がいて毎度毎度イジっていて、もう恒例のコーナー。座席で立たせて話させる。最近はとうとうマイクを渡してスポットライトを当てる。DVDのエンドロールにも名前が載っている。
この辺りからしても、素人の人と絡むときに、当たりが強く「イジるぞ」というこわもての雰囲気を醸し出しつつ、根底には愛があるというスタンスが、「地引き網」の明るさに繋がっているんだろう。
ワイプから伝わるスタジオの楽しさ
サンドウィッチマンと、坂上忍らスタジオの出演者のやりとりも面白い。ワイプで抜かれているスタジオの出演者がとにかく楽しそう。ワイプを通して、おもしろがっているのが伝わる。
ホラン千秋もフリップを書き換える富澤にGood Job!をだす。
富澤:ホランちゃんの大好きなあのコーナーやりますよ。
ホラン:私このコーナー大好きなんです
伊達:大好きなんでしょ、ありがとうワイドナショーで言ってくれて。
坂上:伊達君、なんで湘南でフラダンスなの?
伊達:何でかは分かりません。
富澤:いちいちくだらないことを質問しないで下さい。見てください、あのサーファーのかず。あいつら(地引き網で)引っ張り上げますよ。
坂上:富澤君今日も期待してますよ!
富澤:楽しみに待っててください。
予定調和でなく予定を変えるための仕掛け
だいたい、海水浴場だ。予定の魚が捕れなければ、料理も変わる。フリップも変わる。
坂上:湘南の地引き網で鯖がとれるの?
伊達:とれないと思いますよ。
案の定、サバは捕れない。
坂上:そんなにころころ変わっていいの?
伊達:しょうがないじゃないですか、サバとれなかったんだから。こんなサーファーいっぱい居ることでサバいるかってんだ!
逆ギレ(笑)。
伊達が「これサバじゃねえだろ!」と言うとすかさず、「スパイシーサバ フライ トルコ風」フリップは、「スパイシー サバ コノシロ フライ トルコ風」に。根底から変わる。
“サバを3cm幅に切り~”というテロップが用意されてたけど、サバは捕れなかったので、「3cmには切りません、もう」と、料理の先生まで投げやりな言い方(笑)。
「じゃあ あのフリップ捨てろー!」と伊達。
公開やらせだ!文句言わせないぞ!
5月26日、荒波のため漁ができず、どうしようという空気の中。
地元の漁師:とれたとれた やる。伊達:え?何言ってんだよ富澤:やらせをやるってコトですか?伊達:じゃあ今日捕れた体でやると? ということは今日やらせですね。漁師:おう。 おう。伊達:今日はやらせをやるぞー!おー! 公開ヤラセだ!文句言わせないぞ!坂上:伊達君。俺ねえ、いまのやらせを大声で言うの 大好き。富澤:初公開です。やらせをやります!伊達:せっかくなんでちゃんとガチでやってる体でやりますから。ついてきて下さいね。富澤:みなさん、スタジオの皆さんも、テレビを観ている皆さんも⋯⋯ 共犯者です!伊達:じっくりためなくていいんだよ。
予定調和、やらせに敏感になっている視聴者とテレビ局。やらせ批判を回避するために、予定調和ではないですよとわざわざいう役回りを置いて小手先で批判をかわすのではなく、そのままさらしちゃう。
7月21日には、前回に引き続いて中継の時間が短くなった。伊達が「あと (予定時間は) 2分半あるんですけど、中継があと1分で出ました。どうなんってんだ、ホントに」と言うと、富澤が
またか!またぶった切る気か!
という。きちんとカメラはがくがくズームで寄る。
予定が崩れることを念頭に置いて、そこで起こった出来事を逃さずつかまえるという舞台設定と姿勢と技術で臨んでいる感じが、素敵だ。
※この項、8月13日追記。
カオスな躍動感
おじいちゃんの漁師に網の説明をさせて、ほったらかして行ってしまうサンド。
鳴り物隊や、ダンス隊を呼んでおきながら、「太鼓うるせえなあ!」と伊達。
しまいには、富澤が「太鼓やめさせろー!」。
名産品を勧められ食べない伊達、食べても「しょっぺ」。
ガラス細工が紹介されると、値段を聞いた伊達が「8万!?、高えな!」。
そして、入れ歯が外れるおじいちゃん。
その場で物事が起きているという躍動感。逃さないカメラ。
このカオスなロケ現場を仕切るサンドウィッチマンと、スタッフ。
* *
中継の最後には「3年B組!」「やっぱりイナバ!」「白鶴丸!」と。このあと何するんだと期待させる。
画はおんなじなんだけどね。
伊藤アシスト
バイキングは、毎日フジテレビアナウンサーが、サブ進行をしている。Yahoo! 急上昇検索ワードランキングなど、情報を伝える役目。
月曜日の伊藤利尋アナは、カメラを見ながら背中越しで起こっていることを逃さず、反応する。
坂上忍に「カラオケのうまい伊藤さん」と振られると、「そんなにカラオケうまくねえし!」と半ギレ。
「オモバカ」の佐野アシストならぬ、伊藤アシスト。
ちなみに、おぎやはぎ回でも、伊藤アナは「ちゃんとして!」とツッコむ。
起爆剤の月曜日
サンドウィッチマン中継コーナーはしばらく目が離せない。地元の人集合して、祭って感じで、あちこちで拾いきれないほどのことが起こって無秩序で。
祝日になるので普段見ない人も見る機会の多い月曜日に、このコンテンツを用意しているスピリッツが素敵だ。
月曜日2回目、坂上忍が中継先を呼ぶとき、「呼んでみようか、バイ・・・え〜、サンドウィッチマン!」と、明らかにバイキングと間違えてしまった。海で漁をしているということもあるだろうけど、坂上忍が彼らをバイキングって呼び間違えたのも分かる気がする。あれが「バイキング」の象徴って思っちゃう。
全ての曜日で当たりがなくても、一個でも勢いのある企画があれば番組自体が勢いついて行くのかもしれない。
メタに楽しむ目線
バイキングは32年間続いた怪物番組の後ということもあって、注目度が高くなっている。そして作り手でも出資しているスポンサーでもないのに視聴者は視聴者を気にしている。気にしていると言うより、叩くための格好のネタ。この番組の行く末そのものは業界的にも視聴者からも注目されている。野次馬にはコンテンツそのものより、視聴率の低迷自体がネタになっている。
実はこれがテレビ好きとしては楽しかったりする。コンテンツそのものだけでなく、この番組の行く末自体をメタ視点で楽しむ状況もある。まあ、「地引き網」はそんなの超えてるけど。
変化を楽しめるバイキング
視聴率が悪いことを楽しんでいるわけではない。視聴率が悪いと叩かれながら、作り手がどうしていくのかを見られるのが楽しい。演者がカラオケやる企画は速攻で終わったし、川栄のロケ企画も「評判が悪いんで辞めました」と変わっていく。
水曜日MCおぎやはぎも、ラジオで “ダイオウイカのコーナーはどんどん変わって行くと思う”と話している。
さらにおぎやはぎは、「バイキングやばいんだよ。みんなで何とかしないといけないんだよ」と、視聴率が低いこと自体をラジオでネタにしている。TBSラジオの「JUNKおぎやはぎのメガネびいき」、フジテレビの「バイキング」。またいで視聴していると、面白さも増してくる。
野次馬を抱え込むフジテレビ
野次馬的でしっちゃかめっちゃかで節操がなくて、色々ぶち込みんでいくのがフジテレビらしさだと感じている。笑っていいともグランドフィナーレのお笑いレジェンド集合、去年の「FNS歌謡祭歌謡祭」三谷幸喜の歌、アウトな人を揃えて笑いに換える「アウト×デラックス」。フジテレビはテレ東に抜かれて大変だとか言われているけど、フジテレビスピリッツはちゃんとある。
月曜バイキングは、とっても「フジテレビ」だと思えて、テレビっ子としてはワクワクする。
三谷幸喜の歌は、「放送事故!」だの「自分の好きな歌を汚された!」だの、ネット上は大盛り上がりだった。そんな「文句」も飲み込む勢いがあった。
バイキングも視聴率うんぬんの文句を抱え込む番組になってきてしまっている。
これからどうなっていくのか、それ自体が楽しみだ。
そして「生中継!日本全国 地引き網クッキング」は、そんなメタ視点がなくても楽しい。