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紙面から from Asahi Shimbun

核なき世界へ 被爆国から2015  
ミュージシャン・ホリエアツシさん   (2015年12月3日掲載)

写真 麻生健撮影

 ■時代の波にのまれない

 原爆の悲劇を忘れず、再び起こさない。そのために自分の言葉で伝え、行動する――。被爆70年の今年を機に、こうすることができたらすてきだなと思って。それが原爆が投下された8月に長崎で歌った「NO(ノー)~命の跡に咲いた花~」につながりました。

 祖父母(故人)が被爆者ですが、自分が被爆3世と意識したことはありませんでした。言いたいことを詞にするほうじゃなかったけど、自分自身のあり方に責任を持たない風潮が強くなっている気がして。ネット社会も原因なのか、匿名が人の心をむしばむ危機感を覚えるようになりました。

 そして、戦争や原爆を誰もが意識した今年。背中を押され、「自分だけじゃなく周りの人の幸せを守るため、自覚と責任を持とう」とのメッセージを出せればと思いました。  ♪僕らは逃げも隠れもしない 怖いけど一人じゃない ここから始まる未来と ここに至る過去を抱いて

 明確な意思を持つことは恥ずかしくない。特に今の時代、波にのまれないために意思を表すことは大事ですね。

 ♪命の跡に咲いた花は 遠い国から届く便り 語る言葉を失(な)くしたとき その花を探すから 答えはある

 70年前、空も、地面も、命も全て失われました。悲しみを乗り越えてきた先人の思いと努力があり、僕たちは生きている。当たり前に花が咲いていて、木が茂っている。失われた後に築かれた風景を描く。過去のことというだけで、終わらせるわけにはいきません。

 8月のステージ。そこから見える人たちの心に、平和を願う気持ちが宿ったように感じました。ミュージシャンとしても大きな経験でした。「伝えなきゃ」という時はきちんと伝えることができるよう、信頼とか努力を大切にしたい。

 (聞き手・山野健太郎)

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 ほりえ・あつし 1978年、長崎市生まれ。98年に幼なじみのナカヤマシンペイさんとロックバンドのストレイテナーを結成。ソロでは映画やファッションショーの音楽、舞台のテーマソングなども手がける。