温暖な気候と恵まれた風土のもと造られる岡山の地酒が9月3日、東京・新宿に大集結! 岡山県が生産量の9割以上を占める酒米「雄町」で醸された日本酒などを紹介するイベント『岡山蔵元大集結~お江戸にまたまた、雄町どうさまです!~』が開催され、蔵人たちが直接その魅力を伝えた。

  • 『岡山蔵元大集結~お江戸にまたまた、雄町どうさまです!~』が東京・新宿にて開催された

雄町ってどんなお米なの?

そもそも雄町とは、1859年に備前国上道郡高島村字雄町(現岡山市中区雄町)の農家が発見した酒造好適米である。現在広く普及している酒米「山田錦」や「五百万石」のルーツとなった品種で、日本最古の混じりけのない原生品種だ。

雄町の生産量の約95%を岡山県が占めており、多くが備前地域で栽培されている。背丈が150cm程度と高いがゆえに、倒れやすく病害虫にも弱いため栽培が難しいとされており、一時は生産量が激減。このことから"幻の米"と呼ばれるようになった。

  • 他と見比べればその長さは一目瞭然

しかし、酒蔵の根強い要望により再び生産量が回復し、近年では広く全国の酒蔵に愛用されるようになり、雄町の酒を愛する"オマチスト"と呼ばれるファン層も現れる人気ぶりなのだとか。

  • まめ農園の目黒貴之氏

同イベントのトークセッションでは、幻の酒米「雄町」を栽培する気鋭の生産者をゲストに迎え、「雄町の酒の魅力を米作りから考える」をテーマに造り手との熱いトークを繰り広げた。

雄町米の生産者である、まめ農園の目黒貴之氏は「(雄町米は)割と顔色に出てくる品種なのかなと。水が足りないとか、全部発信してくるような品種です。(他品種と比較すると)世話する時間が長いので、愛着がわいてきます」と伝えた。

また、背丈が高い雄町米は、しっかり実るとその分だけ稲穂の比重が大きくなり倒れてしまうのだとか。目黒氏いわく「頭を垂れるどころか自重が支えきれなくなって、寝転んじゃってるぐらいの方が実りは深い」という。

  • 左から十八盛酒造 石合敬三氏、辻本店の辻麻衣子氏

そんな雄町米を使うにあたって酒の造り手たちはどんなことを感じているのだろう。

落酒造場の落昇氏は「感触が全然違うんです。(別の品種は)結構固いのですが、もう雄町はふわふわ」と表現する。

続けて、辻本店の辻麻衣子氏は「(米を洗ったときの)水の吸い方が全然違う。一般米ですと1時間とか2時間とか水につけててもそんなに変わらない。でも、雄町米は10秒違うとべちょべちょになったり、逆に10秒短いと固くなってしまったり、本当に繊細です」と、その扱いの難しさを語った。

雄町から造られるお酒とは…?

当日は県内から14蔵がブースを出展。また、今回初の試みだという雄町酒のポジショニングマップも展示され、各蔵が丹精込めて醸した「雄町」のお酒の特徴や酒質の傾向などを紹介した。

  • 酒蔵推奨の雄町酒ポジショニングマップ

ちなみに偶然、会場で出会ったきき酒師の漫才師「にほんしゅ」のふたりにも、雄町をはじめとした岡山の酒の魅力を尋ねてみた。

「穏やかでやわらかい甘みとか旨みがある。もちろん後味がドライで辛口っぽいものもあると思いますが、やさしい旨み・甘みなど、ソフトな印象ですね」と、その魅力を笑顔で伝えてくれた。

  • 日本酒きき酒師漫才師「にほんしゅ」。左からあさやん氏、北井一彰氏

それでは、気になる岡山の酒蔵や地酒をいくつか紹介していこう!

辻本店

製造する酒の原料を全て岡山県産の雄町米のみに絞る辻本店。雄町米のスペシャリストといっても過言ではない同社のフラグシップ酒は、酒米・雄町の歴史がはじまった1859年にちなんで名づけられた「御前酒 1859」である。

  • 辻本店の辻麻衣子氏

同社の杜氏である辻麻衣子氏は、このお酒を次のように表現する。

「香りは吟醸香と呼ばれるような、いい香りを程よく感じられます。酸味と旨みのバランスが非常にいいお酒です」

そのコメント通り、やわらかい口当たりとエレガントな香りが特徴的な「御前酒 1859」は、長くその余韻を堪能できる上品な一本であった。

十八盛酒造

五代目当主「石合多賀治」の名を冠した「多賀治」シリーズは、雄町をはじめ飯米の朝日米で醸したものなどバラエティに富んでいる。

その中でも「多賀治 純米雄町無濾過生原酒」は、非常にインパクトのあるお酒。どっしりとした甘みと酸が織りなすボリューミーな味わいに加え、心地よいガス感やキレを感じることができる。

  • 十八盛酒造 石合敬三氏

そのほか、同社代表取締役の石合敬三氏がおすすめしてくれた「たかじ プロトタイプ 無濾過生原酒」にも注目してほしい。山田錦を使った試験醸造の本商品は、フルーティーな香り、フレッシュな口当たり、しっかりとした酸からのスッとしたキレ味など、秀逸に造られた一本だ。

雄町で醸した多賀治が、どしっと腰を据えておちょこで飲みたくなるお酒だとしたら、たかじは女子会でワイングラスを用いて飲みたくなるきらびやかなお酒。機会があれば、ぜひ2本の違いを楽しんでみてほしい。

落酒造場

岡山県で最も硬い水で造られているという「大正の鶴 RISING 赤磐雄町」は、全量赤磐雄町で醸した一本。雄町ならではのふくよかさと、熟成をさせることで生まれるなめらかな旨みを楽しめる。

ちなみに、RISINGは、晴れの国・岡山と蔵元杜氏である落昇氏の名前"昇"から名づけられたのだとか。

  • 落 昇氏

お酒の楽しみ方を落氏に尋ねると、「暑い時期は、ちょっと冷やして飲んでもいいですが、真骨頂はぬる燗で」とのこと。温度変化によって変わる味わいをぜひ楽しんでみて。

熊屋酒造

ふくよかな味わいを堪能できる「純米大吟醸 備前雄町 伊七」は、岡山のみでしか販売していないという希少な一本。人気を博しており在庫が少ない、と話すのは同社の代表取締役である庵谷晴男氏だ。

  • 熊屋酒造 代表取締役の庵谷晴男氏

同氏は、「食中酒として料理と一緒に飲んでもいいし、食後にゆっくり飲んでもいいお酒です。飲み飽きないというのが特徴でもありますね」と、その魅力を伝えてくれた。

三冠酒造

三冠酒造が雄町で醸すのは、「和井田 生もと純米 生原酒」。同社の前畠眞澄氏は、「ボディがしっかりしているのでチーズ系など味の濃いものと合わせてもらえたら」とポイントを解説。

  • 「和井田 生もと純米 生原酒」

実際に飲んでみると、しっかりとした酸を感じたあとに押し寄せるコクと骨太な味わいは非常に印象的だった。確かにこれは、チーズや肉など、パンチのある料理にも負けないだろう。厚みのある酒を飲むならこちらがおすすめだ。

白菊酒造

蔵内で低温熟成させ、雄町ならではのふくよかな味わいとやわらかな香りを十分に引き出した「純米大吟醸 雄町」。香りは穏やかで、すっきりときれいな味わいを楽しめる料理に合わせやすい万能な一本だ。

  • 白菊酒造の渡辺秀造氏

実は雄町以外にも朝日米など、多様な品種を使って醸す白菊酒造。ほかの米を使った酒との違いを楽しんでみるのもアリだろう。


岡山を代表する酒米「雄町」で造られるお酒はまさに千差万別。さまざまなタイプの中からお気に入りの味わいを見つけてみてはいかがだろうか。