「家庭の弁当がいい」は本当? 識者が指摘する選択制給食のわなとは

聞き手・足立朋子

 利用するかどうかを選べる「選択制」の給食。神奈川県内の公立中学校では、この選択制が広がったことで、全国最下位だった給食実施率が押し上げられてきた。しかし、学校給食に詳しい鳫(がん)咲子・跡見学園女子大教授は「選択制には『わな』がある」と指摘する。

 ――選択制給食についてどう考えますか。

 「選択制は、民間業者がランチボックスを届けるデリバリー方式とほぼセットです。なぜデリバリー方式かというと、自前の調理場を持たないので安く済むから。人口規模が大きい政令指定市で全国的に中学給食の実施が遅れ、財政上の理由からデリバリー方式を選ぶ自治体が多かった」

 「神奈川県では『中学は弁当』という時代が長く、ほかの自治体で実施率が上がるなか、ソフトランディングする手法の一つとして選ばれたのではと思います」

「ハマ弁」に貼られたレッテル

 「ただし、選択制に潜むわなのようなものがあります。例えば、横浜市が実施したアンケートによると、生徒がデリバリー方式の給食を利用しない理由の一つに『取りに行くのが面倒だから』というものがあります。上位ではありませんが、中学生ぐらいの年代では、食べる子と食べない子とで行動が変わることに敏感なんだと感じました」

 「横浜市ではかつて、デリバリー方式の弁当『ハマ弁』を利用していた子どもに『親に弁当を作ってもらえない子』というレッテルが貼られ、利用が低迷したこともありました。全員喫食制の方が子どもを分断することなく、安心して利用できると思います」

 ――選択制の自治体では、生徒や保護者が「弁当を食べたい」「持たせたい」と望んでいるとの調査もあるそうです。

 「それは先ほど言及した選択制のわなによる可能性もあります。もし、全国的に給食の無償化が進んだとき、『それでも弁当』という人がどれほどいるでしょうか」

 「給食は食育の生きた教材としても位置づけられています。セーフティーネットとしての役割を考えると、重要なのは、給食を利用しない子が代わりにどんな昼食を食べているか、です」

高校でも給食をやったほうがいい理由

 「家庭の弁当だけでなく、コンビニで買う子や日によっては食べない子もいるでしょう。でも、給食以外で、給食並みの栄養を確保するのはかなり難しい。私は、高校でも給食をやった方がいいと思っているくらいです」

 ――高校も、ですか?

 「はい。厚生労働省の調査によると、高校生世代の男子の1割が朝食を食べていない状況です。弁当を持参できる家庭かそうでないかの格差が一番出る時期でもあります」

 「私は2021年に1年間韓国に留学しましたが、韓国では小中高に給食があり、ほとんどの自治体で無償化されていました。韓国では大学受験が熾烈(しれつ)で、高校で夕食を食べるほど生徒たちが遅くまで勉強していて、事実上の義務教育になっています」

 「韓国では、もともと困窮家庭を対象とした給食費支援制度があったのですが、支援を申請することへのスティグマ(差別や偏見)に配慮して、2000年代に所得を基準とした選別的福祉から、全員を対象とする普遍的福祉へと大きくかじを切ったのです」

 「高校生に給食がないことは、女性活躍の面からも疑問です。私の友人が、子どもが高校生になるのでフルタイムの仕事から離職するというのです。『部活もあり、朝5時に起きてお弁当を作るので、残業しながらでは体が持たない』と」

 「日本の女性は歯を食いしばりすぎていますし、『キャラ弁』文化もあったりして、我が子さえ良ければと思いがち。『こどもまんなか』というのであれば、学校に行く時期の子どもの昼食を親だけの責任にせず、公で保障する時期に来ているのではないでしょうか」

給食施設は災害時などにも活用できる

 ――日本でも給食無償化が議論されていますが、財政面が課題です。

 「韓国では給食を地域の農業振興策としていました。国際競争に疲弊した農家が、オーガニックを志向した高付加価値の農作物『親環境農産物』の販路として給食をとらえ、安全な給食を求める保護者らと呼応して運動を展開したのです」

 「10年の地方選挙では、国産の親環境無償給食を公約とした候補が大量当選し、ほとんどの自治体で一般の農産物との差額などを支援する事業を実施し、日本の都道府県にあたる『道』も支援しています」

 「少子化が進み、日本では給食施設への投資が抑制される傾向にありますが、給食施設は高校や夏休みの学童保育子ども食堂や高齢者への配食、災害時の炊き出しなど、小中学校にとどまらない活用ができます」

 「北海道伊達市給食センターはレストランを併設し、地域の人がお金を払って栄養バランスのとれた給食を食べています。給食事業を小さく、安上がりにしようという発想を転換し、地域の様々な課題解決のツールとして再定義してほしいですし、そのためには市民の後押しも必要です」(聞き手・足立朋子)

 中学給食についてのご意見をお待ちしています。現役の中学生やかつて中学生だったみなさん、保護者や栄養士の方など、どんな給食にしてほしいですか。メール(kanagawa@asahi.comメールする)でお寄せください。

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この記事を書いた人
足立朋子
湘南支局長
専門・関心分野
保育・教育 労働、子どもの権利
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    BossB
    (天文物理学者・信州大准教授)
    2024年9月6日12時40分 投稿
    【視点】

    栄養バランスを考えた学校給食は続けてほしい、高校にも給食を導入するべきだ、そして無償にしてほしい(もしくは払えない家庭は無償)と思います。私の子供たちはアメリカの公立学校(小学校と高校)にも通っていましたが、給食は無償で、朝ごはんも食べられました。しかし栄養価や食の内容は日本の給食の方が圧倒的に優れていると思います。アメリカの給食はアメリカの大量消費経済を象徴したような醜いもので、メインがピザ、ハンバーガー、ホットドッグ、野菜バーもありましたが、野菜をとりなさい、と言われてもほとんどの子供たちは無視してとらない、毎日廃棄物が山のようにあり、子供の半数は肥満でした。 『親に弁当を作ってもらえない子』というレッテルを貼るのは、日本独特の文化だと思います。この異様な文化も変えていくべきだと思います(何が原因とかはわかりませんが、、、みんな一緒、出る杭は打たれる観かな?)。私の息子たちも、学校で給食がない日に日本風の弁当ではなく、サンドイッチとかコンビニおにぎりとか持っていくと、かわいそーとか、親に愛されていない、とか訳のわからんことを言われたことがしばしあるそうです。息子たちが地方の学校に通っていた時は、学童の先生や保護者にまで、「弁当を作ってあげてください、かわいそうです」と言われたことがあります。息子たちは1ミリもそんなことは気にしておらず、周りの生徒が「アホだ」と言っていました。そこで他家庭の弁当の内容を拝見すると、結局スーパーの冷凍食品が多く、体に悪いよな、それ、と思ってました。私なら、全粒粉パンの純正ピーナッツバターサンドイッチとりんごの方がいいな、と。 やはり、給食でお願いします!多国籍多文化背景を持つ息子たちも日本の給食はサイコーだと言っています。

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