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DXを推進するために、情報システム部門の機能や役割を再定義した。従来の情報システム部門が抱えている3つの問題について改善を実施。情報システム部門が事業計画などに積極的に関わり、事業部門との距離を縮めていった。

 最近ではDX(デジタルトランスフォーメーション)専門の組織を立ち上げて、本格的にDXへ取り組み始めている企業が増えている。今回は、コーセーの情報統括部がDXに取り組む過程でどのように機能や役割を変えていったかを紹介する。

従来はシステム開発観点で判断

 まずは、従来の情報システム部門の位置づけや役割と、コーセーにおけるそれがどうであったかを振り返る。

 従来の情報システム部門でありがちな仕事の形はこうだ。新たな施策やプロジェクトを事業部門が企画し、施策の全体像を検討した上でシステム化の要素があれば情報システム部門に相談が入る。情報システム部門は出来る、出来ないの大まかな判断を下す。出来るとなれば、システム化に対する要件を改めて事業部門と整理し、ITベンダー向けにシステム開発依頼をするためのRFP(提案依頼書)を作成。そのRFPに対するITベンダー各社からの提案を評価、選定し、実際のシステム開発をスタートする。その後はプロジェクトを管理しながらリリースまでもっていく。

 コーセーの情報統括部も、かつては同じような流れで仕事をしていた。これらのプロセスに注目してみると、情報システム部門がプロジェクトに参画するタイミングは業務要件の定義後であり、「こういうことをやりたいが出来るか」というやりとりをトリガーに仕事がスタートするイメージだ。

 このときの役割は、「出来る・出来ない」をシステム開発の観点で判断する最後のゲートキーパーのようなものであった。これが従来の情報システム部門の役割かつ責任であり、さらには期待値であったともいえる。しかし、これではDX推進だけでなく、今の時代のシステム開発に求められる期待に応えられなくなってきた。

情報システム部門の3つの問題

 従来の情報システム部門には大きく3つの問題がある。1つめは、情報システム部門が施策やプロジェクという点。2つめは、情報システム部門と事業部門で役割や責任が大きく分断されている点。3つ目は、情報システム部門が自分たちでプロジェクトをやり切ることを前提としていない点である。

 これら3点は、多くの情報システム部門が抱えている問題であり、他の部門から見た情報システム部門への評価でもあると考えている。システムがビジネスとは切っても切り離せない状況の今、これでは企業の競争力を高めることは難しい。

 では、これらの問題にどう対処すればよいのか。

 まずは「情報システム部門が施策やプロジェクトに参加するタイミングが遅すぎる」点について、なぜそうなっていたのか、どうやって改善を図っているかを紹介しよう。

 この問題は情報システム部門に閉じた話ではない。会社全体で取り組むべき問題であり、全社的なプロセスの見直し、ガバナンス体制の確立などを含むものだという認識が必要だ。

 プロジェクトや施策の検討において、情報システム部門が最初から参加するケースはかなり少ないのではないか。そうなる要因としては、情報システム部門がバックオフィス業務担当、コスト部門と見られてきたことがあるだろう。経営や経営陣が「システムのことはよく分からないから」「システムは専門家に任せる」というスタンスで、情報システム部門と距離を置いてきたことにも起因する。

 さらに事業部門が情報システム部門に対して抱くイメージも要因として挙げられる。「相談相手や一緒に考えるパートナーというものではなく、同じ会社にいながら何をしているか分からない」「何が出来るか分からない、あるいは相談しても断られるだけ」といったものだ。コーセーにおいても、筆者が入社した2020年はこれに近い状況にあった。