大学生が接種しにくい様々な理由

さらに、HPVワクチンを接種したくても接種できていない方々が想像以上にいることがわかりました。接種の大きな障害になっているのが、「住民票の問題」です。

HPVワクチンの積極的勧奨が差し控えられていた8年間で接種しそびれた世代(平成9年度〜19年度生まれの女子、以下「キャッチアップ接種世代」)に対しても、公費で接種できる「キャッチアップ接種」の期間が2025年3月末まで設定されています。 ですが、キャッチアップ接種は、住民票のある自治体で行うことが原則のため、親元を離れた大学生がスムーズに接種できず困っているという現状があります。実家に住んでいない学生のうち、少なくとも半数以上の学生は住民票を移していません。

住民票を実家に残したまま一人暮らしをしている大学生が接種するには、帰郷したり、地元の役所との煩雑な手続きが必要になったりします。ですが、授業やバイトなどで帰郷できるタイミングは、年末年始やお盆などの長期休暇になりがちで、この時期はクリニックもお休みが多く、日程調整に難渋しがちです。

自治体によっては、住民票の登録がなくても住んでいる自治体でも接種できる仕組みを整えていますが、動いてくれない自治体もあるため、私たちは、2023年8月に「日本全国どこでも接種できるようにしてほしい」という要望書を厚生労働省に提出しました。結果は、「住民票を移すことが大前提である、またHPVワクチンだけ特別扱いをするわけにはいかない」という理由から、残念ながら実現には至りませんでした。

また、接種の意義は理解しながらも、「ちょっと面倒だな」と思って後回しにしている方もいます。「いつか接種しよう」と思っていても、クリニックに予約の電話をかけるのが億劫で後回しにしている学生や、平日は授業、休日は部活やアルバイトで、接種のための予定を空けられない学生もいます。

『学生団体Vcan』のメンバーのリアルな声を反映し、学生接種の問題にも向き合う。写真/中島花音
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私は、『学生団体Vcan』のメンバーと一緒に、私が所属する大学の産婦人科医局にお願いをして、平日の接種外来を学生が予約できるようなフローを全学メールで広報活動をしたり、土曜日の決められた時間で学生が接種できるように看護師さんにご協力をいただいたりしました。この取り組みには、「授業の合間に病院に立ち寄って接種できたのがよかった」と感想を教えてくれた人もいました。

こう話すと「電話ぐらい面倒がらずにすればいいのに」と思われる方もいるかもしれません。ですが、10代後半~20代のキャッチアップ接種世代にとっては、「健康」というトピックスは必ずしも、日常生活における優先度が高いわけではありません。他の友だちと過ごすことや恋愛、勉強や将来の夢のために時間を費やす方がどうでしても優先されがちです。ましてや、現在の問題ではなく、「将来の自分の健康に関わること」だと、実感が湧きにくく後回しになってしまうことは理解できます。

東京大学、筑波大学、愛媛大学、長崎大学などでは、希望者に対して集団接種という形式で、学生に接種の機会を届けています。SNS上では「集団接種」という言葉が一人歩きし、「無理やりワクチンを打たせるなんてけしからん」という想像から、炎上してしまいました。本来、集団接種とは「希望者が、設定された日時に集まりワクチンの接種をすること」であるのに、言葉が一人歩きすることで印象が大きく変わることの怖さを感じ、改めて発信の難しさを考えさせられました。

今も大学には、集団接種に関してはクレームの電話がかかってくることがあるとも聞きます。接種を希望している人が打てることはとても大切なことであり、さらに、大学で集団接種できるというしくみを作るのはとても大変だったと思います。なおさら、尽力してくださった大学職員の想いが必要以上に誹謗中傷されるということは解せません。