[社説]官民協働で「体験格差」縮小を
日焼けした顔に目を輝かせ、友達と夏休みの思い出を語り合う。そんな光景が果たして、今年も各地の教室で見られただろうか。
経済的な理由から学校外での体験の機会に恵まれない子どもたちの存在が関心を集めている。いわゆる「体験格差」という新たな教育課題に、官民の協働で取り組む必要がある。
習い事やスポーツ、自然体験、企業の職場見学など「体験」の範囲は広い。情操を豊かにし、他者理解やコミュニケーション力を育む効果がある。学校の授業では得られない達成感を味わうことで自尊感情が高まる点も重要だ。
その享受に差が生じている。公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンの調査によると、年収300万円未満の世帯では「子どもが1年間、学校外で体験活動をしていない」と答えた割合が30%に上る。同600万円以上の世帯では11%で約3倍の開きがある。
体験が少ないほど自己肯定感が低くなるという調査結果もあり、次世代の育ちに与える悪影響が懸念される。家庭の経済力による学力の格差はよく知られ、自治体による無料塾開設などの対策がとられてきた。これからは体験格差にも目を向けた施策が必要だ。
先駆的な動きはある。長野市は今年度、市内の小中学生全員に3万円分のポイントを配る事業を本格実施した。参画パートナーと呼ぶ団体や個人が提供する習い事や体験プログラムを利用できる。
民間の役割も大きい。NPOが仲介役となり、企業が企画した体験機会を困窮家庭の子どもにつなぐ仕組みも最近生まれた。国や自治体はこうした動きを後押しするとともに、図書館や博物館といった既存施設の活用にも知恵を絞るべきだ。公費を使う場合は適切な効果検証も欠かせない。
豊かな体験は創造性や発想力を伸ばし、イノベーションの支えにもなる。不利な環境にある全ての子どもが利用できるよう、自治体などが施策を拡充する際には家庭への周知を徹底してもらいたい。