鍼灸治療を行なう際、考慮すべき診察内容は多く、西洋医学のように科目分けされ一部分を診ることにとどまらず、身体の全体像をつかみながら、季節や時間帯までにも気を配らなければならないということは、その情報処理に大変な時間を費やしてしまいます。
ましてや、考慮すべき診察情報の意味が曖昧では、お手上げ状態にならざるを得ません。
伝統医学の診察で使われる四診も患者の状態を診る方法でしかないため、季節の移り変わりを考慮することはできないという状況です。
鍼灸治療を行うにあたって、何を目標に、どのような現象を起こしているのかはっきりわからないと思っている人は多いように思います。
そのため「痛みを感じる箇所または硬結に針を刺すことで痛みなどの症状が軽減する」というシンプルな視点での治療が一般的になっており、多くの西洋医師もそのように解釈しているようです。
約二千年前に記された伝統医学の代表的古典である「黄帝内経」に鍼灸治療ではツボや経絡はもちろんのこと、特徴的な臓腑の働き、また、四季などの時間経過も考慮すべきであることが示されています。
しかし、人体と自然現象を特殊な伝統医学的解釈法で認識し、それらの関係性を考慮した治療を行うということは大変に複雑で難しいことです。
その結果、どの要素を重視すべきかで意見が分かれ様々な派が作られてきました。
臨床において何を重要視すべきかという点も診察で判断すべきなのですが、診察法すべてを把握していないために実施可能な診察法のみに頼らざるをえないという事実もあるのではないかとも思います。
そこで、「人工知能のフレーム問題」というものに着目してみました。
「人工知能のフレーム問題」とは、人工知能が思考する際、枠組みとしてのフレームを規定してあげなければ、うまく機能しないというものです。
当面の問題がどのような可能性と関係するかをどれだけ高速のコンピュータで評価しても、振るい分けをしなければならない要素が無数にあるため、抽出する段階で無限の時間がかかってしまうということです。
あらかじめフレームを複数定義しておき、状況に応じて適切なフレームを選択して使えば解決できるように思えるのですが、どのフレームを現在の状況に適用すべきか評価する時点で同じフレーム問題が発生するのです。
チェスや将棋で人工知能がスムーズに機能するのは、ルール(思考フレーム)が明確だからです。
フレームとは、現象などを規定する枠組みであり、ルールの決定であるといって良いと思います。
このフレーム処理という枠作りを鍼灸治療法に対して行い、鍼灸が目標とするものは何であるのか?という「鍼灸のルール」ともいえるものを規定してみて、そこに至るために診察と治療をいかに段階的に使うかを表現してみたいなぁと思います。