体調不良でぶっ倒れていたら、怠け者のＴ様が看病に来た。私には百姓の血が流れている。だから、ゆっくりすることが苦手だ。やることを見つけては、常にちょこまか動き続けている。怠け者のＴ様は、率先して横になった。そして「寝なよ」と言った。斬新だなと思った。看病って普通、横になっている人を甲斐甲斐しく世話することだと思っていた。だが、Ｔ様は率先して倒れた。倒れながら「寝なよ」と言った。

Ｔ様には「病人には優しくするべきである」という概念がなかった。否、概念はあるのだろうが、それは概念で終わり、行動に移されることがなかった。Ｔ様は「温泉に入りたい」と言った。正確には「温泉に入った後、美味しいものを食べながらビールを一杯ひっかけたい」と言った。病人に何を言っているのだと思ったが、Ｔ様に悪気はなかった。思ったことを口にしただけで、私に「やれ」と言っている訳ではなかった。だが、自分では絶対にやらないＴ様は、結果的に周囲にそうなるように仕向けている。

岡山在住の心ある読者の方から、美味しいぶどうが届いた。これを食べて元気になってくださいという思いがこもった、瑞々しい贈り物だ。Ｔ様は、この瞬間だけ機敏になった。自ら率先して箱を開け、ゴミを始末し、ぶどうを洗い、皿に乗せ、いつでも食べられるように準備万端に整えた。Ｔ様は「これでいつでも食べられるよ！」と言った。この時点で、Ｔ様はすでに何粒かぶどうをつまみ食いしていた。私がもらったぶどうを、私より先に食べるその根性を素敵だなと思った。怠け者のＴ様を見ていると「やらない力」が凄いなと思う。Ｔ様は、本当にやらない。だから、やった時の威力が凄まじい。

私は試しに聞いてみた。小さな頃、親から「早くしなさい」と怒られたことはあるか。Ｔ様は「ない」と言った。そして「早くしなさいとか怒らない方がいいって言うけど、言われて育った人の方が社会性があるように見える」と言った。なるほど。確かに。私も自由奔放な親に育てられたが、社会にまったく馴染めていない。Ｔ様は怠け者だが、怠け者の自分を隠す。だから、第一印象は良い。しかし、第一印象がピークで、そのあとはガッカリされ続けるだけの人生なので辛いと言った。わかる。わかるよ。だけど、Ｔ様が率先して怠けてくれたおかげで、こちらも「それなら俺も横になるか」という流れが生まれた。結果、ちゃんと昼寝が出来た。

結局、看病らしい看病は一回もしないまま、美味しいものを食べに行こうぜと誘われてＴ様と一緒に遊び倒した。私も、ぶっ倒れながら「俺は、元気な時も元気じゃない時も常に望んでいることは遊びたいの一点に尽きるのだな」と思っていたので、遊び相手の登場が嬉しかった。Ｔ様の「看病をしない看病」は、私の体調不良をぶっ飛ばした。Ｔ様はめちゃくちゃだが、一緒にいると実に楽だ。理由はたくさんあるが、第一位は「心配をしないこと」だと思った。第二位は「鎧がないこと」で、Ｔ様が素だから、こちらも素になることができる。第三位は「寝相が悪いこと」で、私はＴ様のパンティーを何回も見た。エロさはなく、自由だけがあった。裸で生きている人を見ると、武装がバカらしくなる。俺もパンツ丸出しで生きようと思った。