何型ベーシックインカムであろうと、ベーシックインカムの本質は「小さな政府」である

最近、巷では(何度目かの)ベーシックインカム論争が起きている。曰く、ベーシックインカムにも様々な仕組みがあり、ネオリベ型であるとか反緊縮型であるとか、または増税型はダメだが赤字国債型は良いとか、論者によってさまざまな定義があるようだ。

しかし、どの「型」のベーシックインカムにも共通していること、そして一番重要なことは、「ベーシックインカムはその消費対象を個人の選好に委ねる」ということだ。

消費は生産を生み出し、生産は雇用を生み出す。「誰かの消費は誰かの雇用」といえる。仮に皆がベーシックインカム制度によって得た給付でスーパーで買い物をすれば、スーパーの雇用が増えるだろう。政府が国民の消費ニーズに応えるために公共サービスの拡充を決定すれば、サービスを提供するための公共従事者の雇用が増える。消費先の選択が、消費先の生産増に寄与し、生産増が雇用増に寄与する。

ベーシックインカムは、この「消費先の選択」を個人の選好に委ねるため、どの産業の消費〜雇用を増加させるかは、あくまでその時の「個人の欲求」によって決定される。「必要」を満たすのではなく、「需要」を満たすのがベーシックインカムの特徴といえる。

ベーシックインカムの重要なポイントは、この「必要」と「需要」の違いである。そして、政府がおこなう財政政策を考える上で重要なポイントでもある。

マスグレイブが指摘した「公共部門」の定義は、生産の組織形態の差異、生産が公営企業と民間企業のいずれの形態で行われるかに基づいている。いわゆる大きな政府・小さな政府論は(様々な定義が存在してはいるが)、この公共部門の大きさ、経済全体の生産力における公営・民間の割合によって決まると考えられるだろう。例えば、生産力を測る指標として雇用を挙げると、国民一人当たりの公務員数が多ければ大きな政府と定義できるし、少なければ小さな政府と定義できる。

この公共部門、一般政府による財政政策に求められる役割として、「公的欲求(public wants)」を満たすことがある。公的欲求とは前述の「必要」を満たす政策、例えば教育、子育て、医療、介護等の福祉政策、またはインフラ整備、治安、国防、環境保護等、いわば社会が欲している財やサービスを意味する。

これらの公的欲求を満たすための政策を実行する上で、その事業に従事する労働者が必要となる。言い換えれば「必要」を満たすための雇用が要求される。政府は財政政策によって労働力を調達し雇用を増加させることで、国民の「必要」に応えるための様々な事業を展開することになる。なお、「必要」に答えるための公的な事業は、その供給体制を需要に応じて増減させるのではなく、常に一定の規模を維持することを要求されるため、時に「ムダ使い」という批判が出てくることがある。が、その是非は改めて論じよう。

前述したとおり、ベーシックインカムは、消費を個人の選好に委ね、「市場」の需要を満たすことを目的としている。福祉政策やインフラ整備、治安や国防ではなく、あくまで市場を”活性化”させることが目的なのだ。ベーシックインカムでスーパーの売上が増えることがあっても、ベーシックインカムは充実した教育制度や医療制度を構築しないし、道路を作ることもない。市場は「必要」を満たすことはできない。市場がいくら"活性化"しても、要するに景気が良くなっても、「必要とする人」が利用できる子育て、医療、介護等のサービスを提供することはできないのである。治安や国防、環境保護等を市場に委ねた場合は「必要」に対する状況を悪化させる可能性すらあるだろう。

一般政府、財政政策が果たすべき役割は、「市場の足らざるところを埋める」「諸個人の欲求を満たす」といった、経済的なパフォーマンスを達成することよりも、まずは社会に「必要」な事業、サービスを提供することにある。そして、大きな政府・小さな政府とは、これらの公的な事業やサービスの規模を市場と比較することで定義することができる。ベーシックインカムは、その想定するモデルがネオリベ型・反緊縮型・増税型・赤字国債型等、「何型」であろうと、政府の政策決定による「必要」に応じた事業と、その事業に応じた雇用を増やすことよりも、政府が個人(または世帯)に現金を給付することで、個人の選好に基づく消費の活性化を実現する制度であり、本質的に「市場」を重視した制度である。その意味で、ベーシックインカムは、政府による分配よりも市場の効率性を重視した、いわゆる「神の見えざる手」を前提にした、小さな政府思考の政策だといえる。

ちなみに私は「大きな政府」、国民の必要を満たす公共部門の充実を求める立場であり、ベーシックインカムという政策に反対する立場である。しかし、私の政策的な立場とは無関係に、ベーシックインカムとは、公共部門が拡大するわけではなく、国民一人当たりの公務員数が増えるわけでもない。また、国民の「必要」を満たすこともない、ということは客観的な事実として指摘できる。

ベーシックインカムという政策の目的は、あくまで個人の選好による消費の増加と、それによる市場の活性化であり、これらの政策が導き出す結果は、そのベーシックインカムが何型であろうと、必ず「小さな政府」になるのだ。

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