究極にシンプルな相続・承継の秘訣とは 徳川宗家19代目が語る代替わり
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相続の秘訣は「会って話を聞く」こと
入江:徳川宗家、あるいは徳川一族として、これから日本社会や世界に貢献していきたいことがありましたら教えてください。 徳川:約260年間全く戦争がなかったのはなぜなのか、あるいはなぜ明治維新のときに西洋列強によって分割支配されなかったのか。そういった大きな疑問に対して答えていくのは、専門の学者ではないですけれども、ある種の当事者として非常に大事な義務ではないかと思っています。 また、日本では“エリート”と言われる方でも日本史をきちんと要領よく説明することができません。外国人や若い人などの日本史に詳しくない人に対しても、納得のいく、なるべく簡潔な説明を提供していくことは、私個人のライフワークだと考えています。 入江:徳川宗家のように受け継がなければならない伝統や資産があってスケールの大きいお話を伺っていると、「うちには関係ない話だ」と思う方もいるかもしれませんね。ですが、一般の家庭であっても、やはり世話になった子どもには多く残したい、先祖伝来の土地は後継者に残したい、という様々な思いも含めて相続へのご希望をお持ちということもあります。 相続財産はもちろんのこと、伝統・理念なども含めた一家のレガシーまで円滑、円満に承継していくためのアドバイスをお聞きしたいと思います。 徳川:一番重要なのは、親御さんがお子さんに色々なお話をされることだと思います。よく、小学校のお子さんをお持ちの親御さんに「子どもに歴史に興味を持ってもらえるようにするにはどうすればよいでしょうか」と聞かれるのですが、「それは皆さんの昔話をするのが一番ですよ」とお伝えしています。 私は松平家の祖父母の昔話も実によく聞いていました。それはかなりの糧になったと思っています。父も息子である私に対して、自分の来し方から仕事のこと、また「こういう本を読むといいよ」ということまで、様々なことを話してくれました。そういうことがなければ親の考えは何も伝わりませんし、後から手探りでの推測になってしまうと大変です。死後に遺言など、いきなり文書でポンと出てきても困りますよね。 だからこそ、これから相続があるという方はまず親子で会ってみて、お話をする機会を増やされていくことがよいかと思います。
●徳川家広さんのプロフィール
とくがわ・いえひろ/作家・翻訳家。1965年、東京生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、米ミシガン大学大学院で経済学修士号を取得。国連食糧農業機関FAOローマ本部とハノイ支部で勤務後、米コロンビア大学大学院で政治学修士号を取得。2000年末に帰国後は政治経済評論家としても活動。著書に『自分を守る経済学』(ちくま新書)、『マルクスを読みなおす』(筑摩選書)ほか訳書多数。2021年6月から公益財団法人徳川記念財団理事長。2023年1月、徳川宗家19代当主に。 (記事は2024年8月1日現在の情報に基づいています。)
堤 美佳子(ライター・編集者)
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