NPO・BONDプロジェクトで視る貸借対照表(B/S)上の問題点Ver1.1

はじめに

先日NPO法人のBONDプロジェクトの財務分析の記事を出したのですが、その際に「数字を並べただけで何が分析か。事業内容やNPOの特性がわかっていない。酷いの一言」との批判を受けました。
・・・財務分析ってまず数字を並べて増減や比率を視るところからスタートするんですが苦笑 

そんな方のために、ものすごい初歩のぱっと見でわかる問題点の見抜き方(初歩中の初歩)を解説します。なお、簡単な仕訳から始まりますのでそのあたりがわかっている方は飛ばして「財務アンバランスについて」からお読みください。

貸借対照表(B/S)が一番大事

財務諸表には主に貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)がございますね。
B/Sは決算時点の資産・負債+自己資本のバランスが示され、P/Lは1年間の事業の成績(売上・経費・利益)が記されています。B/Sは創業から決算時点に至るまでのお金の動きの結果です。P/Lは決算年度1年毎の結果でしかありませんので、連綿と続く経営の状態を判断するにはB/Sの方が断然大事です。

B/SとP/Lの関係性

あたりまえですが、B/SとP/Lには当然に数値的な関係性がございます。
それは、「自己資本」です。P/Lの税引き後の当期純利益(最終利益)がB/Sの自己資本に毎年加算されていくからです。B/Sの自己資本の増減がP/Lの最終利益と一致します。B/Sは過去からのストックを表し、P/Lは一定期間のフロー(お金の流れ)を表しているのです。

これらを踏まえて、B/Sの見方や私の記事に対する批判について反論して参ります。

運用と調達と言う考え方

B/Sは運用と調達という考え方で分析します。
これはどういうことかというと、借方(左側、資産の部)の金額は貸方(右側、他人資本・自己資本)によって調達されている、ということです。
実際の仕訳を考えるとわかりやすいです。なお自己資本は純資産と言ったりもします。

例えば、貴方が自己資金を100万円拠出して、株式会社を新設したとします。その場合の仕訳(B/S)は以下のとおりです。

借方      貸方
預金100     資本金100
資産計100            負債・自己資本計100

これは、借方で運用されているもの(預金)は、貸方の資本金によって調達されたものと言えるわけです。では、この会社でネジを作って販売する事業を営むとしましょう。製作機械100万円、材料費40万円を借入れも使って調達したとします。

借方       貸方
預金0      借入金 40
材料40      負債計 40
機械100     資本金100
資産計140    負債・自己資本計140

こんなB/Sが出来上がります。ここで重要なのは、借方の運用140万円に対して、借入(他人資本)40万円、自己資本100万円で調達されたということがわかるということです。このように、経営資産をどのようにお金を集めて取得したのかを読み取るのが「運用と調達」という考え方です。次にP/Lとの関係性も説明します。

材料40万円分をネジ40万円に機械を使って加工しました。

借方       貸方
預金0      借入金 40
材料0        負債計 40
在庫40      資本金100
機械100    
資産計140      負債・自己資本計140

単に材料が棚卸資産(在庫)に変わるだけで、この時点では利益はまったく発生していません。このネジを全部60万円で現金で販売したとします。

借方       貸方
預金60      借入金 40
材料0           負債計 40
在庫0        資本金100
機械100      利益剰余金20
資産計160     負債・自己資本計160

【損益計算書】
売上60
仕入40
利益20 
↑シンプルに売上60万から材料の仕入にかかった40万円を経費として引いた20万円が利益になります。なお、製作機械は資産性があるので経費にできません。(厳密には減価償却で毎月少しずつ経費にできます。今回は省略)

B/S上の自己資本のところに利益剰余金が20万円計上されましたね。P/Lの利益と一致します。その結果、資産計160万円は他人資本40万円(借入)と自己資本(資本金+利益の累計)120万円から調達されたと言えますね。

この考え方がB/S分析において重要です。
また、後ほど関係がありますが「ワンイヤールール」と言うものがあり、名前のとおり1年以内の負債は「短期」、1年超のものは「長期」と分類されます。短期のものは「流動負債」、長期は「固定負債」と呼ばれます。このバランスもB/Sの分析において重要なので覚えておいてください。


財務アンバランスについて

運用と調達は、企業経営において通常のケースであれば正しいバランスで行われます。正しいバランスとは調達方法が運用にしっかりと見合っている状態を指します。
先ほどの借入金40万円はとくに注釈はしておりませんが、例えば借りる際に
「材料の仕入れにしか使ってはいけません。商品の販売が終わったら、販売代金をもって1年以内に全額返済してください」
と約束されていたとしたらどうでしょうか?通常、他人資本で調達した場合は「何に使っても良い」とはなりません。
よって、流動資産である材料・在庫と、流動負債である短期借入金がB/S上で見合っていれば問題ないのですが、この借入を使って材料を仕入れず30万の車を買ってしまったとしたらどうなるでしょうか?

借方       貸方
預金10          短期借入金 40
流動資産計10       流動負債計 40
機械100
車両30
固定資産計130     資本金100  
資産計140     負債・自己資本計140

このように、本来と違うお金の使い方をしてしまうと、流動資産と流動負債が見合わなくなります。資産のほうが多いなら問題ないですが、この「短期借入金」は商品の販売を持って1年以内に返済する約束ですよね?材料を買うお金が足りません。つまり、負債が返せなくなるのです。
流動資産÷流動負債×100(%)=流動比率
という指標があるのですが、これが100%を下回っていると「財務アンバランス」と呼ばれる状態で、財務が毀損している可能性があります。
例では25%しかありません。こうなると固定資産を処分して返済するか、長期の融資を借りて短期の借入を返済するしかなくなります。
※ビジネスモデルによっては、必ずしもダメとは限らないこともあります。

この概念をもって、本題のBONDプロジェクトのB/Sを視てみましょう。

BONDプロジェクトの2022~2023/10のB/S

画像

直近2年分を並べてみました。
2022/10期の決算においては、豊富な預金のおかげで流動比率も100%を超えており、特段の問題点はありません。負債の部の前受金は2022/11/1以降に使う国や都からの補助金です。万が一、補助取り消しで全額返済しろと言われてもこの時は一瞬で返済可能ですね。
なお、この補助金はしかるべきときに「収益計上」され、他人資本から自己資本にそのまま振り替わる性質があります。ただし、基本的には費用に対応して収益計上されるので、相殺され自己資本に残らないものが大半です。
が、決算時点ではBONDにとって翌期分(3月31日まで)の予算、返還義務があるものもございますので、一旦は負債勘定である「前受金」になっているのです。実際に、使わなかった補助金のうち、返還義務があるものは前受金から仮受金23,178千円に振り替わっており、1年以内に返さなければなりません

問題は2023/10期のB/Sです。表の下部「流動比率」が75%しかないです。ということは、財務アンバランスに該当しますね。流動負債が固定資産に見合ってしまっている状態ですから、何が何に見合っているか見てみましょう。

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流動負債142,053千円の構成ですが、
・未払費用は翌月支払いの当月分人件費等5,767千円。
・前受金は青少年相談・保護事業の補助金67,122千円と自立支援事業の助成金40,741千円で計107,863千円。
・仮受金はR4年度の厚労省自殺対策交付金27,774千円。
未払費用は翌月に払わないといけないお金、仮受金も1年以内に返済を要するお金です。合計33,541千円は真の債務ですね。その分の預金の確保は絶対に必須です。ということは、実際の預金は47,885千円が2023/11/1~2024/10/31までに使えるお金となります。それに加え、未収金も近々現金化される資産なので71,049千円が実質の預金です。
でも前受金は107,863千円ですよね?36,814千円、預金が不足してます。このお金が見合うものは何でしょうか。流動資産に見合うものがないのだから、当然固定資産見合いになってますよね。

はい、土地58,993千円ですよ。

固定資産には土地以外はめぼしい資産は建物9,446千円くらいです。これは内訳をみると借りてる物件の改装費を資産計上しているだけで所有権はない、つまり換価性はないと思われます。
土地代に見合う自己資本は、せいぜい38,645千円です。建物改装費部分は補助金使用が認められているはずなので、それを差し引くと29,199千円が土地に見合って差し支えない部分。土地代のうち、29,794千円は他人資本=前受金にて調達されたのがB/S上確定するわけです。運用と調達の考え方を理解された読者様なら、わかりますよね。これが補助金の真の資金使途です。

これが意味するのはなんなのか?※修正・追記有

これが意味するものは2つ。3つ。
・BONDにとって次年度使うはずの補助金を2023/10/31時点で使ってしまっている。補助金は費消年度が定められていることがあり、時期的な違反の可能性。(要検証)
※ある方からご指摘いただきましたので修正。

①補助金が土地に使ってはいけない場合、資金使途違反の可能性。(要検証)
⇒前受金、つまり未使用のはずの補助金は預金に見合うべきもの。土地の半額程度が前受金見合いということは、意図していたかどうかに関わらず、結果的には土地取得代金に補助金が使われているということを表している。補助金の使途で設備の取得が禁止されている場合、要綱に違反したことになる。

②土地に前受金を使ったなら、2023/11/1~2024/3/31までの運転資金が不足する可能性。※直近赤字の影響もあり手許現預金見合いの自己資本はない。
⇒①が実態である場合に、運転資金の不足を引き起こす。これ自体は単に懸念であるが、何かしらの資金の調達が必要。それが別の補助金であったなら、結局①と同じことになる。次項の前受金振替未処理の場合は、この限りではない。

③実は前受金をなぜか収益計上しておらず、表面アンバランス。
⇒なぜか今期に限って前受金を自己資本に振替していない事情があり、対応する経費のみ先行している可能性?これなら前受金のみを自己資本に加算すれば、実態はアンバランスでないので解決する。ただし、この場合は正確な情報公開をしていないことになるので、私を含め誤認しても仕方がない。正確な情報公開をすべき。

3つの可能性や懸念に言及しました。そもそもね、2023/10期に土地に使って良い補助金なら、いつものように前受金を収益計上して自己資本に振り替えてから普通に使えばよろしい。なぜ、それをやっていないのか?そのヒントは補助金の概要を調べるほかないです。
2023/10期のBONDの財産目録に、補助金名が書いてあるので調べてみます。

・青少年相談・保護事業交付金 67,122千円
⇒色々なワードで検索したが、どの補助金をBONDが得たのか不明であった。活動報告書が有料であった。意味不明。採択された補助金名ぐらい正確に無料で公表しろよ、調べられないだろ。
ある方から得た補助金情報がこの前受金と仮定して要綱をみた。

https://www.mhlw.go.jp/content/001039065.pdf

事業の大部分が設備整備や備品購入である事業は採択しないとある。この補助金で59Mの土地を買うのはダメですね。事業年度も4月1日から1年間なので決算前に先に使うのもダメ。※3/31まではOK
この検証に反論があるならこの「青少年相談・保護事業交付金」の正式な補助金名が何なのか、その要綱で土地を買っていいと書いてあるか示してくださいね。
わからない以上は疑惑としますが、前受金が原資で土地を買ってるのは表面B/S上は確定ですから。

・自立支援事業助成金 40,741千円
これは
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/joseifukushi/shinseihoho.files/hojo.pdf

のR5版と思われる。これは資金使途違反は補助金を違約金つきで返還せよと書いてあり、人件費や賃借料に使うのはいいが土地取得がいいとは一言も書いてない。賃借料と土地取得の何が違うのか、わかっていない方がいたので補足します。賃借料は消えていく経費です。対して土地は資産で、換価性があるものです。まったく別物です。この前受金が上記URLの補助金である場合、やはり資金使途違反。時期もね。

さて、補助金が上記のもの、もしくは同様の費消制限があるものであった場合、1日でも流用していることは2023/10/31の決算当日時点で確定しています。もしくはもらった補助金の収益計上を漏らしているかです。
こうなった場合、最悪のケースでなにが起こるか、次の項目で解説します。

返済不能からの破産懸念あり

要は、翌年度の運転資金がキャッシュベースで不足しているので、他の補助金を当てにして運営していく必要があります。この時点で歪な収支構造です。
更に、資金使途違反等を理由に補助金の返済を迫られたときに、返せません。「土地を売って返せば良い!」という人もいるでしょう。59Mで売れればね、それでもいいでしょう。売れればね。
実はある方が、この土地は59Mで購入しているが1年前に同じ土地の売買事例が17Mでしかなかったと言及されています。相当な高値掴みをしている懸念があるわけです。仮に相場が17Mであったのなら、含み損が42Mもあるわけです。ここから先は初出の考察でしょう、誰も検証してないですから。
ファイナンス経験者ならお分かりですよね。時価修正B/Sを作ってみました。

画像
左が表面のありのままB/S。右は土地を17Mの時価に修正。

はーい、実質債務超過ですね。債務超過とは、赤字が自己資本を食いつぶして法人を清算しても債務が解消されない状態です。この状態で補助金を返せと言われたら、法人の資産全て換金しても返済できないのです。
誰が責任取るんですか、これ?
もしかしたら土地が本当に59Mで売れるかもしれません。そうしたら返せますけど、売買事例でみれば1年で41Mも高騰しているとは考えづらいので、結構妥当な考察だと思いますが、皆様はいかがでしょうか。

だからB/Sの検証が重要なんですよ。

批判者の意見とそれへの反論

批判者(自称NPOに造詣が深い、プロらしい)がこの記事を書く前の私の考察に色々言ってきたので、先述の分析を踏まえてインラインにてアンサーします。

【批判者の主張】
■ BONDと国の決算期がずれていることを考慮していない。
⇒2023/10/31時点でBONDが前受けして未使用のはずの補助金が「前受金」なのですが。国の決算とか関係ありません。

■ 都合よく仮定をおいて飛躍している。
⇒BONDの決算数字単体でアンバランス確定なのですが。仮定ですらない。仮定にしているのは補助金がどれなのか、土地の時価はいくらか、これだけです。あなた補助金がどれなのか、プロだからご存知なのでしょう?要綱出して下さい。時価が59M本当にあっても2023/10時点で流用はB/S上確定しているのですが、それは良いということですか。

■ 補助金を使う場合、P/Lを通る。対応する経費がないから利益になるはずなのに、2023/10期は赤字だろう。だから使ってない。
⇒P/L通らず使ってますよ。だから財務アンバランスになって、前受金の一部が土地の半額にバッチリ見合ってるでしょう。運用と調達をまずはご理解ください。

■ 「原資」という言葉をミスリードに使っている。資金繰り、CF上の原資が補助金の使途に見合う原資に横滑りしている。
⇒逆に、資金繰り上の原資なんか一度も触れてませんが(笑) 真の資金使途にしか言及していません、一貫して。
途中でいくら資金が動こうが最終的にB/Sに現れるから財務分析する人はB/Sを視るんですけど笑 途中のを1つずつ追うのは個別の資金使途を必ず追わないといけない、資金繰りが窮屈なケースのみです。

やたらP/Lのお話が好きなようですが、私はずっとB/S上の問題点に言及しているのですが。P/Lは前受金がしかるべき(通常の費消)ときに自己資本に振り替わるだけでしょ。この問題では関係のない話です。だってP/L通さずにお金を使ってるんだから。

どうやらP/L通さずにお金を使ったらまずいみたいですね。それだけ擁護するなら、穴埋めのために土地見合い分のお金を貸してあげたらいかがですか?

はい、お疲れ様。がんばってくださいね。エビデンスや論拠のない反論はもういいから。



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