プロローグ【挿絵付き】
愛する女性をイジメる奴らは破滅させる。
誓いを果たして僕は、楽園にやってきた。
日本から飛行機で6時間ほどの南の島。
エメラルド色の海に面した砂浜で美女たちがビーチバレーに興じている。
僕はパラソルの下、海パン姿でビーチチェアに寝そべっていた。
こっちの方にボールが転がって、美沙が追いかけてきた。
「ねえ、虎児郎も一緒にやろうよ」
美沙は幼なじみで、同じ高校1年生。ポニーテールが初々しい感じだが、胸は赤いビキニからこぼれそうなほどだ。
僕と美沙は児童養護施設いわゆる孤児院で一緒に育った。
二人ともド底辺の人生で、イジメられ続けてきた。
特に美沙は貧乏で、空気読めないぶっちゃけアホの子で、しかも巨乳。
これほどブラックな奴らの餌食にされやすい属性を兼ね備えた女の子はいない。
何度も性奴隷にされかけた。
幼なじみがアホだと苦労が絶えないが、僕が全部ボコってやった。
「あっ ひゃあああっ」
美沙が僕のすぐ近くでけつまずく。
ぼいいん
美沙のおっぱいが僕の顔をプレス。
いつものことながら、めちゃやわらかい。
だが息ができない……
「ご、ごめん、虎児郎」
起き上がった美沙は顔を赤くしている。
「ふふ、このドジっ子め。窒息死しそうだったじゃないか」
僕の前ではダメダメな美沙が愛らしくてならない。
保護欲をくすぐられっぱなしだ。
「うう、虎児郎も来てよぅ」
「悪いな、疲れたから休んでたい」
さっきまで海で泳いでいた。
「つまんないのー あとで来てよね、絶対だよぉ」
美沙は頬を膨らませて戻っていった。甘えんぼめ。
ボールが宙を舞う。アタックする美沙の胸が揺れる。
コートの隅を狙ったボールを弾こうと女子が跳ぶが、届かない。
得点を決めた美沙がチームの女子と笑顔でハイタッチ。
相手チームも笑って、まだまだこれからと声を掛け合っている。
みんな楽しそうだ。
僕はこの島のオーナーだから、みんなが幸せなのは誇らしい気分になる。
本当に泳ぎ疲れたせいで眠くなってきたな。
目を閉じる。
ざざざ
穏やかな波の音に耳を澄ます。
美沙たちの声も心地よい。
今は幸せな美沙も、僕も、日本にいた時はブラック企業やらブラック部活やら、ブラックバイトやら、ブラックしかない日本で苦しんでいた。
そのまま眠ってしまった僕は、あまたのブラックな奴らとの激闘を夢に見た。
◆◇◆
遮断機の下りた踏切前。
春日高校、通称カス高。
県内随一の底辺高は踏切を渡った先にある。
行くのが嫌で、電車の前に突っ込もうと思ったことは数知れない。
警報をかき消す電車の轟音が近づいてくる。
さあ、今だ。今日こそ最低の人生からおさらばするんだ。
目を瞑って、歯を食いしばる。
いけ――――
右足を踏み出す。
「おい、コジロウ」
野太い声がして、肩に手を置かれる。
はっと我に返った。
振り返らなくても声の主はわかる。
「や、やあ毒島君」
声が震えてしまう。
死ぬ恐怖から立ち戻ったことだけが理由ではない。
「今日もイジメてあげるから、よかったですねーなんのとりえもないコジロウ君がみんなのストレス解消に必要とされてて。俺ってマジ親切。生きる理由ってやつをプレゼントしてるんだから」
ガクランを着た金髪男は、通り過ぎていく電車よりうるさい。
早く死んでおけば良かった。
「おめー今朝何食った?」
肩を組んで毒島と歩く。僕の背は平均より低い。大男の毒島が覆いかぶさってくると、とても重く感じる。
「ええと、ご飯と卵焼きとみそ汁」
「かああ――むかつくぅ俺なんか菓子パン一個だぜ。孤児院はさすがいいモン食ってるよな。俺たちの税金で、腹立つよなァ」
毒島が払ってるのは消費税をちょっとだけだろ、と言い返したいができない。
「コジロウよぉ、申し訳ないと思わないのか、あぁん」
本当の名前は虎児郎なのだが、毒島には孤児郎と呼ばれている気がして悲しくなる。
「ごめん」
税金で食わせてもらっていることを責められると謝ることにしている。
「つうわけで、腹減ってるから学校着いたらお前の弁当よこせ。コジロウは社会から受けた恩を返さなくっちゃよお」
バカのくせに自分の権利を主張することだけは一人前だ。
児童養護施設の残り物を詰めてきた弁当はたいがい毒島に巻き上げられてしまう。
悔しいから唾を吐きかけておいても毒島は気づかない。毒島の育ちの悪さには畏怖の念を覚える。
カス高の校門前では地べたに座り込んだ男子が煙草をふかしている。
地域住民はうつむいてカス高生と目を合わせないように通り過ぎる。
ここは北陸地方のとある市。裏日本らしく、天気はいつもどんよりと曇っているところだ。
季節は5月の新緑の頃。すがすがしい時候のはずが、カス高の周囲は魔界のような瘴気に包まれている。
入学試験で名前を書きさえすれば受かるどころか、名前を書かなかった奴も受かったという。
バカほど吸い込むブラックホールとして、治安維持の役割を果たしている。
校門を通ると道の右側はグラウンドになっていて、女子バレー部員が走り込みをしている。
「バレー部の奴ら、いい乳とケツしてるよなぁ」
依然として肩を組んでいる毒島が耳元で銅鑼声を響かせる。
人一倍、胸を揺らしているポニーテールの女が視線をこっちに向ける。
「虎児郎、おっはよー」
笑顔で手を振る。美沙はいつも元気で優しい。
体操服のゼッケンには1―Gとある。
Gはクラス番号なのだが、美沙の場合はGカップのGだとささやかれている。
胸はどんどん発育しているから、来年はHカップで2-H、再来年はIカップの3-Iってことだな。
唯一の心の癒しだ、と思った瞬間、毒島が首を腕で絞めてきた。
「くくく、くるし」
呻きを漏らすが、一段と締め付けがきつくなる。
「ごらあコジロウ、美沙とやりまくってんじゃないだろうな」
そう言ってから毒島は力を少し緩める。
よろめきながら、ようやく気道が確保されて、酸素を取り込む。
「………や、やってないよ」
「孤児院で一緒だったらやり放題だろうが」
「んなわけないでしょ」
「親に捨てられて、自暴自棄ってやつ? うん、それになっている女なんか簡単にやらせてくれるだろ」
毒島にしては珍しく難しい言葉を使う。
「美沙はそんな子じゃないよ」
幼い頃から美沙とは同じ児童養護施設で育った。
美沙の過去は僕以上に悲惨だけど、健気にも非行に走ることなく、部活に打ち込んでいる。
「孤児院って中で何が起きてるかわかんねえだろ。男子たちが寄ってたかって美沙を輪姦してるかもしんないし、当然職員に犯されてるだろ」
よくそんな下劣な言葉を口にできるな。
「ないよ。うちの施設はまともだから」
児童養護施設では野獣のような子供が暮らしていて、性が乱れているというイメージなのだろう。
だが、うちではそんな事態を見聞きしたことはない。美沙は無垢だ。
「学校一いい女が虎児郎なんかと仲いいとはよ。くっそ、ムカつくぜ」
毒島がうらやましがって、ディスってくるのも当然だ。
僕と美沙は心の底でわかりあえるのはお互いだけだと感じている特別な関係。
美沙は確保しているけど、さらにド底辺から成り上がっていけたらなあ。
次回は、憧れの美人教師にやさしくしてもらいます。
ブラックバイト、ブラック企業、ブラック部活、スクールカーストの順にボコっていきます。
挿絵の線画は、プロ絵師が内容絶賛してくれて、ボランティアで描いて下さりました。
塗りは、商業ゲームで彩色経験のある方になけなしのお金で依頼して、制作していただきました。
ブックマークしていただきますと、心の支えになりますので大変ありがたく存じます(挿絵も増やせるかもしれません)。