原子力発電環境整備機構 「地域の思いに寄り添って正確な情報を真摯に」

原子力発電で使い終えた燃料のリサイクルに伴って生じる「高レベル放射性廃棄物の処分(最終処分)」は、電気を使用していく上で必要、かつ日本社会全体で取り組むべき大きな課題となっている。最終処分の方法として国際的に認められているのが地下深くの安定した岩盤に埋める『地層処分』であり、日本では法律でも定められている。海外では既にフィンランドで処分地が決まるなど選定の動きが進む。日本は、処分地の選定に向けた調査の最初のステップとなる「文献調査」を北海道寿都町と神恵内村、佐賀県玄海町の3町村で実施している。処分場建設に最適な場所を見つけるためには複数地域での調査が欠かせない。実施主体である原子力発電環境整備機構(NUMO)は、できるだけ多くの箇所での調査実施を目指し、全国への情報提供や地域に根ざした活動を進めている。今回は、原子力関連施設の近くで育ち、街の発展を目の当たりにしてきた、NUMOの技術部主任 髙畑祐美さんに話を聞いた。

高レベル放射性廃棄物は人間の生活環境から隔離して処分する必要がある

――そもそも高レベル放射性廃棄物とは何ですか?

髙畑さん:日本は、原子力発電所で使ったウランやプルトニウムを再処理し、約95%を再利用していますが、残り約5%に当たる再利用できない廃液はガラス原料と高温で融かし合わせてガラス固化体にしています。このガラス固化体が高レベル放射性廃棄物です。製造直後のガラス固化体は放射能レベルが高く、天然のウラン鉱石と同じレベルまで放射能が減少するには数万年以上かかるため、人間の生活環境に影響がないように長期にわたって安全に処分しなければなりません。そのために地下深くに埋める『地層処分』が必要なのです。

【高レベル放射性廃棄物って何?】
放射性廃棄物の処理イメージ

(NUMO提供)

――なぜ『地層処分』なのですか?他の方法ではダメなのですか?

髙畑さん:原子力発電が開始された1960年代から高レベル放射性廃棄物の最終処分については色々と検討されてきました。南極の氷の下に処分する氷床処分や海洋投棄は国際条約で禁止され、宇宙処分は高いコストと発射技術の安全性から非現実的と考えられています。
地上で管理する方法も検討されましたが、自然災害や戦争等の影響を受けるリスクも懸念されますし、数万年もの間、管理し続けることは、将来世代に負担を負わせ続けることになりますので、現実的ではありません。
その結果、『地層処分』が現実的で最も適切な方法であることが、国際社会の共通認識となっています。

【これまでに検討された処分方法】
5つの処分方法比較図

(NUMO提供)

世界では現在、フィンランド、スウェーデン、フランスで処分地が決まり、フィンランドでは処分場の建設が進んでいます。自国で発生した高レベル放射性廃棄物は自国で処分するという原則が国際条約で定められており、日本でも国内で処分を進めていく必要があります。

――日本は地震や火山が多い国ですが、『地層処分』に影響はないのでしょうか?

髙畑さん:地震や火山があるから危険ということではなく、それぞれが地層処分場にどのような影響を与えるのかということが重要です。地層処分場に与えるリスクを低減するために、繰り返し活動するとともに大きな変位をもたらすと考えられる活断層や火山を避けていきます。地震の影響については、過去の地震の履歴などを綿密に調べます。地震の原因となる断層活動は、長期にわたり同じ場所で繰り返し発生する傾向があり、入念な調査によって活断層を回避することは可能と考えています。また、地下深くの地震の揺れは地表付近と比べて1/3~1/5程度に小さくなることや、岩盤と一体となって動くことから、地層処分場が破壊される可能性は極めて小さくなります。

【地震のゆれと深度について】
地震が到達するイメージ図

(NUMO提供)

文献調査を受け入れてもそのまま処分地となるものではない

――日本ではどのようなプロセスで処分地の選定が進んでいるのですか?

髙畑さん:最終処分地の決定は、約2年の文献調査、約4年の概要調査、約14年の精密調査といった入念な調査を経て行われます。また、各プロセスに進む際には、都道府県知事や市町村長の同意が必要で、その意見に反して先に進むことはありません。このため、文献調査を現在実施中の北海道寿都町と神恵内村、佐賀県玄海町の3町村がそのまま最終処分地となるわけではありません。NUMOとしては、最適な処分地を選定するため、文献調査を受け入れていただく地域の拡大に向けて取り組んでいます。

【処分地選定プロセス】
選定の流れイメージ

(NUMO提供)

先行している海外諸国では、10カ所ぐらいの自治体が関心を持ち、調査の過程で徐々に候補地が絞られ、最終的に1カ所が選ばれています。

フィンランド・スウェーデン・フランスの候補地事情

(NUMO提供)

正確な情報を真摯に伝える

――髙畑さんご自身はNUMOでどんなお仕事をされているのですか?

髙畑さん:最終処分場の選定に向けた調査の最初のステップとなる「文献調査」に携わっています。地層処分の実現には、数万年以上先を見据えた火山活動や断層活動など安全性を損なう心配がある場所を避けるために、徹底した調査を行い、地層処分施設の建設に適しているかどうかを慎重に確認する必要があります。大学で活断層の研究をしていたため、入構後も地下に隠れている活断層の位置や規模を推定する手法や、10万年先や100万年先にどのくらい地盤が隆起し、侵食されるかを推定する手法を検討してきました。現在は、そのような経験を通じて培った知識を活かしながら、文献調査業務に携わっています。

また、NUMOでは地層処分の仕組みや、処分地の選定プロセスなどについて広く全国の皆様にご理解を深めていただくため、全国各地で順次「対話型全国説明会」を開催しており、2024年8月末時点までに約200回実施しています。私もこの説明会に参加して説明をさせていただくこともあります。

――説明会では不安の声が出ることもあるのではないですか?

▲対話型全国説明会の様子(NUMO提供)

髙畑さん:地層処分の安全性や、強硬に進めようとしているのではないかといった事業の進め方に対して不安をお持ちの方もいらっしゃいます。そうした不安に寄り添いながら、正確な情報を真摯にお答えする必要があると考えています。「地層処分を進める際には数万年以上先の安全性まで見据えて、地震や火山について徹底して調査・確認し、処分場への影響が及ばないようにしています。」と因果関係を丁寧に説明できるように心がけています。心の底からご納得いただけているかどうかは分かりませんが、対話をしっかりと積み重ねていくことが重要だと感じています。データに基づいて丁寧に説明することでNUMOや私たち職員のことをいかに信用・信頼していただけるかが大切だと考えています。

――髙畑さんがNUMOに入構したのはなぜですか?

髙畑さん:私の出身地は青森県三沢市です。隣の六ヶ所村に日本原燃の原子力関連施設があり、PRセンターによく遊びに行っていました。子供の頃から「六ヶ所村って綺麗だな、活き活きしているな」と思っていて、悪いイメージは全くありませんでした。就職活動の過程で、日本原燃の施設ではガラス固化体を一時的に貯蔵管理しているものの、それを最終処分する場所が決まっていないことを知りました。処分する場所はどこでも良いわけではなく、地域の方々が生活してきた大切な場所に、安全に処分できるように自分が学んできた地球科学の知識を活かしたい、原子力関連施設の近くで育ってきた者として、地域の人に寄り添って事業を安全に進めていきたいと思い、入構しました。

私も地層処分の街の住民になる

――NUMOで実現したい目標はありますか?

髙畑さん:地層処分を行うと決まった街にNUMOの本部は移転しますので、自分自身もいずれ住むことになります。自分の子供も含めた将来世代が日本で安心して暮らしていくための街づくりや地域の活性化に貢献することが目標です。私は六ヶ所村の隣町で育ち、原子力事業は地域活性や人材流入のきっかけになるなどポジティブな側面がたくさんあることを体感して育ちました。地層処分事業を推進していくことで元気になっていく街や人々が必ずいると信じています。こうした街づくりや地域活性化を実現するためには、事業が安全・安心に進められることが大前提であり、私もこれまで学んできた地形・地質学の知識を活かして貢献していくとともに、情報のアップデートの努力をさらに重ねていきたいです。

――どんなところにやりがいを感じますか?

髙畑さん:最新の研究動向や技術について情報収集しながらそれらをどのように取り入れたら安全な地層処分の実現につなげられるかを考える時にやりがいを感じています。
また、地層処分は様々な分野の技術と知見を結集させなければ成し遂げられない事業のため、自分の専門分野以外の知識を得られることにとても刺激を受けています。これからも、原子力関連施設の近くで育った者として、地域の方の気持ちに人一倍寄り添いながら安全に事業を進めていきたいと考えています。

――最後にNUMOから伝えたいメッセージはありますか?

髙畑さん:原子力、廃棄物、処分・・・、私たちが進めようとしている地層処分事業に、あまり良いイメージを持てない方もいらっしゃると思いますが、自分が抱いてきた原子力事業のイメージは異なります。六ヶ所村は街全体が綺麗で明るく、活き活きしています。そんな明るい地域になるように、少しでもリスクを減らすため、NUMO職員は日々、努力を重ねています。地層処分事業を通じて、高度な技術・知識が結集する街を作り、地域の方々とともに、元気に明るく暮らしていきたいです。

原子力発電環境整備機構(NUMO)
https://www.numo.or.jp/

地層処分を分かりやすく紹介している動画はこちら
https://www.numo.or.jp/chisoushobun/what_movie.html