“収入”月10万円…電気代不安で酷暑に耐える日々 生活保護世帯のエアコン事情
体温前後の危険な暑さが続く中、経済的理由でエアコンを設置できず、酷暑に耐えている人たちがいる。厚生労働省は2018年度から生活保護世帯の一部に対しエアコン購入費の支給を認めるようになったが、制度からこぼれ落ちる世帯もあり、自治体による救済策にも差が生じている。 (山田育代) 【画像】生活保護世帯へのエアコン購入費の支給実績
自治体救済策広がらず
総務省消防庁によると、全国の夏場の熱中症による救急搬送は毎年4万~9万人で推移している。厚労省の人口動態統計では、22年に熱中症で死亡した人は1477人。東京23区内を都監察医務院が分析したところ、同年に屋内で死亡した232人の8割超がエアコンを使っていなかったという。 気候変動に伴い熱中症のリスクが高まっていることから、国は18年夏に保護費の運用を見直し、高齢者や障害者ら「熱中症予防が特に必要な人」がいる世帯に対しエアコン1台の購入費(上限6万7千円)を支給するようになった。 ただし、生活保護の開始時点でエアコンがない場合などに限り、運用見直し前からの保護世帯は対象外。既にあるエアコンが故障した際も支給されない。 「現在でも、家計をやりくりして計画的に購入してもらうのが基本であることには変わりありません」 福岡市保護課はこう強調する。同市内では約420世帯が未設置だが、市は国の方針に従い「やりくりで買うのが難しいときは社会福祉協議会の資金貸付制度の活用を」と促している。 こうした運用について、ケースワーカー経験もある立命館大の桜井啓太准教授(社会福祉学)は「誰もが熱中症リスクがあるのに対象世帯を制限し、買い替えも認めない要件は厳しすぎる。また保護費は段階的に引き下げられており、やりくりで購入するのは相当難しい」と問題視する。 ■ ■ 一部の自治体では、支給対象外の人々を独自に救済しようという動きもある。 熊本市は23年度に、運用見直し前からの保護世帯を対象とした助成事業を行った。ケースワーカーを通じて高齢者ら「要配慮者」のいる保護世帯の状況を把握し、希望した90世帯に購入・設置費(上限10万5千円)を支給した。 東京都江戸川区は22年度、生活保護を受けていない低所得者向けのエアコン購入費助成金(同5万4千円)を設けた。収入などが要件を満たせば誰でも申請でき、開始から2年間で26世帯が受給した。 助成金の狙いの一つに、同区は「生活困窮者とつながること」を挙げる。生活保護を巡っては、利用可能な所得水準の人のうち実際に利用しているのは約2割との推計もあり、SOSを出せずにいる人も多いからだ。助成金の相談者の中にはコロナ禍で仕事を失った若者もいて、住宅支援に橋渡しすることができた。担当者は「孤立した困窮者を見つけ出し、福祉につなげるきっかけになっている」と語る。 桜井准教授は「自治体の独自予算だけで対応するのは限界がある」として国の積極的な関与を求める。さらに、物価高騰や電気料金の値上げに家計を圧迫され、エアコンがあっても使用を控える家庭があることから「誰もが安心して使えるよう、保護費の引き上げをはじめ低所得者全体に目を向けた施策が必要だ」と指摘した。