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長尾 景オリジナル曲「螺旋」とミキシングについて

April 7th, 2023 18:06・All users
久しぶりにFANBOXを更新しておりますYABです。

長尾さんのオリジナル曲「螺旋」が公開されたので、技術的な面とかこだわりについて記事でも書こうかなと思って執筆しております。

まずこの楽曲なのですが、作編曲・演奏含めて豪華メンバーでお送りしておりまして、作編曲はYAB EntertainMentの取締役である坂本マニ真二郎さんです。通称マニさんで、実はYABより17歳も年上なのですが毎日のようにイジくり倒しております。
三味線はマニさんと、同じく三味線奏者の諸星マンさん、そして和太鼓とチャッパにKYOさんと、皆さんガチで歴戦の勇士です。
そしてレコーディングとMixをYABが担当したのですが、めっっちゃくちゃにこだわりました。

音楽制作は、それぞれの持場を全力で遊んでお互いの魅力を伸ばし合うという感じなので、「任せるわ〜!」「任せられたわ〜!」をいかに信頼しあって出来るかが課題となります。
全部ある程度一人で出来ちゃうという人が多い中、お互いを全力で信頼しあって委ねることが出来るというのは実はかなり難しい事でもあります。
だからこそ最初の打ち合わせやプロットの時点で全員のゴールイメージを明確にする必要があり、そこをおろそかにすると段々方向転換が利かなくなり、最終的には独りよがりの制作になりがちです。

その点、この「螺旋」に関しては、長尾さんが目指すゴールを全員が真剣に考え、全員の「これが正解ではないか」を出し合って組み合わせたらピースがピッタリハマったような作品になります。


今回の音作りに関してですが、まずボーカルは間違いなくNeumann U67だろうと決めていました。
何度も長尾さんの歌をレコーディングした自分だからこそわかる、この楽曲への最適解です。
U67は1960年代に発売されたマイクで、中に真空管が入っており、非常に心地良い音がします。ロックで声を張っているのに耳が痛くならない、シルキーでスムースな音です。
半世紀以上経った今でも世界一のマイクとして君臨し続けています。



和楽器(三味線)へはLEWITT 540 S を使いました。
写真は540 Sの録り音に感動して笑顔が溢れるマニさんです
こちらのマイクについては、サウンドハウスに掲載されているレビュー記事もありますので興味のある方は是非ご覧ください。


Mixについてなのですが、この曲、実はほとんどチャンネルストリップ + 何か くらいの感じのシンプルさで構成しております。
チャンネルストリップとは、なぜ使うのか というのは先日ツイートしたので、興味のある方はそちらをご覧ください。

実際のミックス画面がこちらです。

左から順番に、メインボーカル(赤)、ハモリ(黄色)、コーラスなど(茶色)、その他(紫)という風にボーカルに関するトラックが並んでおり、次に水色のベース、少しくすんだ黄色っぽいギター、青いドラムという風に、本当はまだまだあるのですが一部だけでもこの様に並んでいます。

メインボーカルが一番手を加えるところなので、チャンネルストリップ以外にもたくさんインサートしてあります。
画面の一番上の方にインサートと書いてある部分にプラグインを追加していくのですが、大体のトラックは一番最初の段に ChnnlStr2 というものが入っています。


こちらをクリックすると…
この様なものが出てきます。
これ1つで90%くらい音作りをしてしまいます。
なんならこれ1つだけでもMix完了できます。それくらい便利で使い勝手の良いものです。
そしてこちらの画面は、パソコン内だけではなく…現実にコントローラーと連動して動いてくれます。
なので、実際には画面内に表示されているプラグインをマウスで操作するのではなく、音を聴きながら手元でグリグリとノブを回して耳で聴いてMixしていきます。
これがMixの醍醐味です。

最初は土台となるドラム、ベースから音作りをしていき、ボーカルをセンターに配置していきます。
曲を構成する全ての楽器の音色をひとつひとつ自分の手で操作出来るので、まさにオーケストラ言う指揮者の役割ですね。

指揮者は当然、楽曲に対して最も理解のある人間でなくてはなりません。(あくまで気持ちの上での話です)
螺旋では、マニさんが弾いたギターやデモ段階で配置した楽器に対して「なぜそこにその音量で配置したのか」を真剣に考え、その上で「自分ならそれを更に昇華させるためにどういうエッセンスを付け加えるか、または引くか」を考え抜きます。
そして長尾景といぅ人物のバックボーンや表現したいものと照らし合わせ、自分なりの答えを用意してからMixingという作業に入るのです。

実は、実際にデモ段階と比較するとかなり全体の質感を変えました。
(デモ音源が公開出来ないのが悔やまれるレベルです)

例えば、ギターの左右への広がり感で言えば、イントロ、Aメロ、Bメロ、サビで全て違います。
あまり気づかないかもしれませんが、心情や曲の表情に合わせて細かく変えているんです。
わかりやすいところでは、やはりサビが一番わかり易いかもしれません。
直前の静かなBメロと比べると、楽器全体の重心がグッと下がり、ギターはそれまでと違い完全なる両サイドでかき鳴らしています。
サビで一気に広がりを見せつつダークなカッコよさを魅せるために、それまでのギターはあえて少し内側で弾いているイメージですね。
もちろんここにわざとらしさが見えると冷めてしまうので、あくまでもエッセンスとしてです。

ドラムに関しても、サビとそれ以外で音作りを変えています。
大きく変えたのはキックとスネアです。 ドンッ!パンッ! の音ですね。
この2つの要素は楽曲にとって非常に重要です。なぜならば、楽曲全体で考えるとボーカルよりずっと鳴り続けているからです。しかもど真ん中で演奏し続けています。ベースも同じですが、アタックの強さと派手さを担うキックとスネアは、それだけで曲の勢いが決まるといっても良いほど重要です。

螺旋では、キックが鳴るたびに一瞬曲が沈む錯覚を覚えるような重さを持たせました。まさにハードロックですね。
スネアは、重くしつつ「パーン!」と気持ちいい余韻が残るようにしてあります。
この2つが、サビに入った瞬間、低域が更に広がり、さらに汚された様な音になります。
あえて歪ませた音を、今ある音に追加して鳴らすことで表情を変えているのです。
これを1サビと2サビ(ラストサビ)にのみ適用することで、他のパートとは一線を画する勢いと重さになっています。
kicトラックの下にある kick_dirt がまさにそれです。


ギターの話に戻りますが、両サイドに振り分けるだけではなく、ゆらぎを付与するエフェクターを使い、それをギターのギャンギャンとした高い音にのみ適用することにより左右で逆の位相をランダムに発生させ、特有の広がりをもたせています。
これもサビのみに使うことで差別化を図っています。


そして下の画像はサビのボーカルの一部ですが、青い線の部分がボリュームです。
上に上がればボリュームが大きく、下がれば小さくなるという見方ですが、すごく細かく記録されているのがわかりますでしょうか。


実は普段このように色んな手法や技術で楽曲に合わせて様々なアプローチをしており、大げさに変えることもあれば99%の人が気づかないであろう微細な変更・調整などもしています。

ミキシングエンジニアは、アーティストさんの表現したいもの + 作家さんが伝えたいこと + 楽曲全体としてリスナーさんに届いてほしいもの など、たくさんの想いに自分なりのエッセンスを加え、皆さんの手元へ届いた時に「何度も聴きたいな」と思っていただけるために頑張るお仕事です。
人間の耳・心理・そして機械の電気的なもの・数字(数学)・音楽理論など様々な要素が複雑に絡み合ってくるので非常に大変ではありますが、やりがいがあります。

そんなこんなでたくさんのこだわりが詰まった「螺旋」どうか末永く楽しんでくださいませ…!

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公開出来ない話や思いなどを書き連ねます。 あまりにもコンプライアンス的にアウトな話などはもちろん書けませんが、表立って言えないことをこっそり書いたりする鍵垢みたいなものだと思っていただければ。 技法の公開などもしていこうかなと思います。
公開出来ない話や思いなどを書き連ねます。 あまりにもコンプライアンス的にアウトな話などはもちろん書けませんが、表立って言えないことをこっそり書いたりする鍵垢みたいなものだと思っていただければ。 技法の公開などもしていこうかなと思います。
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普通の500円プランと同じ記事が見れますが、「少し多めに出してやろう。これでラーメンでも食え」という粋な方向けのプランです。 シンプルに活動資金になります。
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